イエス、ケストレル。
そういえば書いてなかったなと思った話です。
日本が八七式戦闘機を飛ばしたとき、イギリス空軍には衝撃が走った。
「最高速度500km/h超えだと……!?」
「日本の新型は化け物か!?」
「なにあれほしい」
その感想はいろいろであったが、「八七式に匹敵する戦闘機を我が国も整備しなければいけない」というのは共通の認識であった。イギリス空軍は急いで要求仕様をまとめて国内の航空企業に提示し、新型迎撃機の競争試作を始めた。
「……うーんこの」
「もしかして、もしかすると……我が国の航空産業って、立ち遅れている……?」
イギリス航空メーカー各社から出てきたのは、もはや時代遅れにしか見えない複葉機の数々である。それでも、ヴィッカース、デ・ハビランド、ウェストランドの3社は、イギリス空軍の意図通り、低翼単葉の高速機を出してきていた。
デ・ハビランド DH77 試作型
機体構造:低翼単葉、固定脚
胴体:鋼管羽布張
翼:テーパー翼、PA66系GFRPセミモノコック
フラップ:スプリットフラップ
乗員:1
全長:7.5 m
翼幅:9.8 m
乾燥重量:750 kg
全備重量:1050 kg
動力:ネイピア&サン "レイピア" 強制掃気2ストローク空冷H型16気筒 ×1
離昇出力:560hp
公称出力:500hp
最大速度:450 km/h
航続距離:600 km
実用上昇限度: 9500 m
武装:7.7mmヴィッカース機関銃×2(機首固定×2)
ウェストランド インターセプター
機体構造:低翼単葉、固定脚
胴体:鋼管羽布張
翼:楕円翼、PA66系GFRPセミモノコック
フラップ:スプリットフラップ
乗員:1
全長:7.7 m
翼幅:11.6 m
乾燥重量:1100 kg
全備重量:1600 kg
動力:ブリストル "ジュピター Mk.XVIII" 強制吸気4ストローク空冷星型単列9気筒OHV4バルブ ×1
離昇出力:900hp
公称出力:750hp
最大速度:470 km/h
航続距離:700 km
実用上昇限度: 11500 m
武装:7.7mmヴィッカース機関銃×2(機首固定×2)
「デ・ハビランドの機体はエンジンさえなんとかすれば一番我々の求める物に近そうだな……H型配置で空冷とか、ネイピアは何を考えているんだ?案の定オーバーヒートで使い物にならないじゃないか」
イギリス空軍はデ・ハビランドに対し、エンジンをロールスロイスのケストレル──という名前だが、性能としては史実のペレグリンに相当──に変更しての再試作を命じる。
デ・ハビランド DH77 Mk.1
機体構造:低翼単葉、固定脚
胴体:鋼管羽布張
翼:テーパー翼、PA66系GFRPセミモノコック
フラップ:スプリットフラップ
乗員:1
全長:7.6 m
翼幅:9.9 m
乾燥重量:990 kg
全備重量:1920 kg
動力:ロールスロイス "ケストレル" 強制吸気4ストローク水冷60度V型12気筒SOHC4バルブ ×1
離昇出力:885hp
公称出力:800hp
最大速度:497 km/h
航続距離:1000 km
実用上昇限度:7000 m
武装:ヴィッカース 12.7mm/62機関銃×2(翼内固定×2)、COW 37mm機関砲×1(モーターカノン)
途中、爆撃機対策としてCOW機関砲を積むように要求が変更され、全備重量が大幅に増加することとなったものの、この機体はイギリス空軍を満足させる性能を示し、次期迎撃戦闘機として正式に採用されることになった。
「DH77は空戦性能こそ高いものの、機体をぎりぎりまで切り詰めたせいで燃料が積めず、航続距離が短い。ウェストランドの機体は操縦特性がよろしくないが、大きな翼幅は長距離飛行に向いていそうだ。うまく改良すれば使えるかもしれん」
チベット戦線の戦訓で、航続距離の長い戦闘機の必要性を感じたイギリス軍は、インターセプターの改良を、原設計を行ったウェストランドではなく、低翼単葉機を提案したのにもかかわらず不採用になったヴィッカースに依頼する。インターセプターには急旋回すると昇降舵が利かなくなり、そのままスパイラルダイブやスピンに至る悪癖が(史実通り)あったが、これを胴体の延長と尾翼の増積で解決させた。さらに燃料タンク容量を大幅に増加させることで、航続距離を増やし、爆撃機を護衛する長距離戦闘機として採用されることになった。
ウェストランド ワンダラー Mk.1
機体構造:低翼単葉、固定脚
胴体:鋼管羽布張
翼:楕円翼、PA66系GFRPセミモノコック
フラップ:スプリットフラップ
乗員:1
全長:8.1 m
翼幅:11.6 m
乾燥重量:1250 kg
全備重量:2200 kg
動力:ブリストル "ジュピター Mk.XVIII" 強制吸気4ストローク空冷星型単列9気筒OHV4バルブ ×1
離昇出力:900hp
公称出力:750hp
最大速度:439 km/h
航続距離:2100 km
実用上昇限度: 7000 m
武装:ヴィッカース 12.7mm/62機関銃×4(機首固定×2、翼内固定2)
「現状我が国が手に入れられる最良の機体をそろえることはできたが……」
「結局、総合力で八七式に勝る戦闘機を作ることはできなかったか」
「航空機の進歩は早い。特に、日本の航空技術の進歩は驚異的だ」
「もう少し、この分野に振り向ける予算を増やさなければならんかもしれんな」
これらの機体が戦場に出てくるのは1930年になってからである。そのころには、もうロシア側の余力が尽きつつあり、戦う相手が少なくなっていたため、八七式ほど華々しい活躍はできなくなっていたのだった。
ネイピアはやっぱりネイピアだったよ……
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