回る回るよネギは回る
すみません、今週バタバタしていたので短いです。
欧州戦線では冬の到来でようやくロシア軍の攻撃が鈍り、ドイツ、オーストリア両軍は態勢の立て直しに奔走していた。一方のフィンランドはというと、
「しめた!奴さん混乱してるぞ!」
「この隙に一気にケリをつけろ!余裕があったら武器や弾薬は鹵獲してしまえ!」
雪が降ってからますます大暴れするようになっている。湖沼や丘陵、森林が豊富で、狭隘な道が多いフィンランドでは、どうしても行軍したり布陣したりする時に長蛇の列を作ることになりがちだ。ここを左右からゲリラ的に急襲し、分断包囲して殲滅する包囲戦術が、実に10年前倒しでロシア軍相手に襲い掛かったのである。
「学習しない連中ばかりですねぇ……我々はあんなのに頭を下げていたのですか……」
「欧州戦線に精鋭を配置してしまって、北欧戦線には徴集されたばかりの雑兵を置いてしまったようですよ」
戦況を眺めながら、ヤルマル・シーラスヴォ中佐のぼやきに、イギリス軍の連絡将校が答えた。
「なるほど、大軍を動かさなければいけないのに、インフラが貧弱で思うように配置を転換できないというわけですね」
「だから、ロシア軍の精鋭が来る前に、どんどん前進してコラ半島に押し込んでしまおうというわけです」
このころのフィンランドは快進撃を続けており、「雪中の奇跡」としてなぜか日本でフィンランドブームが起こる程であった。少し前にはオネガ湖西岸の都市ペトロザヴォーツクを攻略し、そのまま南はスヴィリ川北岸、北はムルマンスクを目指して進撃中である。数の上での主力はイギリス軍であったが、フィンランド軍の活躍は単なる添え物にとどまらないものであった。
「ドイツ軍とオーストリア軍にも感謝しなければいけませんね。彼らがロシア軍主力を拘束してくれているからこそ、我々が活躍できているところもありますから」
「使えるものはどんどん使いましょう。貴国に他人の心配をしている余裕はありますまい」
「なかなか痛いところをついてきますねえ……」
連絡将校の言うとおり、フィンランドという国の存在は依然として不安定で、大国という暴風に晒されればいつ吹き消されてもおかしくない小さな灯でしかない。
「自分の身すら守ろうともしない国を、助けようと思う国はどこにもない、か」
そろそろ掃討戦に移行するかというような戦況を眺めながら、シーラスヴォはマンネルヘイムの言葉をかみしめた。
「~♪」
「お母さん、その曲は何?」
耀子が台所で女中と一緒に夕食の支度をしていると、長女の響子がやってきて耀子の鼻歌について質問した。
「フィンランドの歌……だったはずよ」
「フィンランドの歌……」
「最近流行ってるし、今日は豚肉のネギ塩炒めだからね」
長ネギを細かく刻みながら耀子が答える。
「なんでフィンランドがネギなの?」
「なんでだろうね~」
知らないふりをしているが勿論嘘である。彼女はこの歌がなぜネギと結び付けて語られるのかを前世の経験からよく知っていた。
「ふ~ん」
「お母さんにもわからないことぐらいあるのよ」
そう。耀子にだってわからないことや知らないことはたくさんある。
例えば、イエヴァンポルッカの作者がちょうど今くらいの年代の人間で、もう数年するとこの歌を実際に作曲することとか。
1937年版のイエヴァンポルッカ、割と別物なんですが、歌詞はちゃんとイエヴァンポルッカなんですよね。
ポルッカといえば、サッキヤルヴェンポルッカの方は、この世界線だとヘタすると作曲されないかも……?