Innovation for Tomorrow
大発と聞いたらみんなこれ言いたくなりますよね?
テレビを見ないもんだから、今はLight you upに代わったことを知りませんでした。
1928年7月、日英はロシアに対する最後通牒として
・新疆軍によるチベット攻撃の停止と即時撤退
・中国方面に居る全ロシア人の退去
を要求。当然拒絶されたため、1928年8月までに宣戦布告がなされた。
さらにドイツ、オーストリア、ついでにルーマニアがロシア領内の自国系住民を保護する名目で便乗宣戦し、ロシアはほぼ全方位を敵に回すこととなった。フランスはロシアとの間に軍事同盟を結んでいたものの、彼の国はロシア側での参戦はせず、友好的中立に留めると表明する。
「ロシアの奴、狂犬過ぎて付き合ってられねえわ」
端的に言えばそういうことであった。
「日本と欧州がロシアに宣戦布告!同盟相手のフランスは中立を維持!」
「ついにやったか。これを機にさらに一儲けさせてもらうぞ」
このニュースに沸いたのはアメリカである。一次大戦中に戦後の復興需要を見越して生産力を強化していたが、それが終わった後に絶大な生産力を吸収し、完全にお得意様と化していたのがロシアであった。
「我々は単純に国力を増強できる。アメリカはだぶつきがちな生産力を遊ばせずに済む。素晴らしい取引だ」
「例え世界が敵に回っても、アメリカがモンロー主義の下中立を保つ限り、我々が負けることはない」
ロシアは辛亥革命を生き残った清と国境を接しており、その清に様々な資源を売りつけてアメリカと貿易するための資金を確保している。アメリカ自身も資源は売るほど持っているが、清との間には太平洋があるため、鉄道で運んでこれるロシアから買った方が安いのだ。
つまり、アメリカが清に投資を行い、清がロシアから資源を買い、ロシアがアメリカ製品を輸入するという流れができていて、雑なことを言えばこの三国間で金が循環しているのである。景気とは金の巡りの良さであるから、清もロシアも着実に力をつけており、史実の満州国とソビエト連邦に比べて明らかに高い国力を身に着けていた。
「ロシアのおかげでシュナイダートロフィーが台無しじゃないか」
「今年も我が国の勝利を見たかったのになあ」
なお、日本の一般大衆は、戦争の影響でシュナイダートロフィーレースの開催が絶望的になったことを嘆いている。開戦のきっかけとなったチベットが中国の山奥にあってなじみが薄く、当事者意識が希薄であることが原因だった。
「それでもあの友邦チベットが危うく滅亡するところだったんだぞ」
「友人を助けるのは人として当然の事だろう」
「韓国を寝返らせた恨みもある。一度でわからないなら二度わからせるまでだ」
それでも、チベットに高地戦訓練をしに行ったことがある退役軍人を中心として、チベットに好意的な風評が日本社会に流されていたため、厭戦気分が蔓延しているというわけでもない。結局のところ、ロシアと戦うこともやぶさかではないが、どこか締まらないという状況であった。すでに一度勝ったことのある相手という油断も、国民の間にはあったと言われている。
1928年10月。開戦から2か月の時点では、極東戦線において日本軍が優位に戦いを進めていた。初動は完全に成功したと言えるだろう。
「あまり早く、戦果が上がり過ぎてないかい?」
昭和天皇は壬生基義侍従武官長に怪訝な面持ちで訊ねた。史実におけるこの時期の侍従武官長は奈良武次であったが、天皇すら軽んじる野心家であることを煕通にみぬかれ、昭和に入る前に予備役へ編入させられている。
「臥薪嘗胆の結果でありますゆえ。こういう時のことを想定して、陸海軍は猛訓練を重ねてきました。その成果が得られている序盤戦のうちは、こうなるのが当然であると愚考いたします」
壬生の言う通り、このときの日本はアメリカや清との経済的な交流がそこそこあったため、陸海軍は対ロシア戦略に集中して研究を進めることができた。その結果、開戦劈頭で空母や陸上航空基地から飛び立った白鷺の飽和航空雷撃により、かなりの戦力であったはずのロシア極東艦隊を瞬く間に壊滅させている。
「……つまり、中盤戦以降は」
「根競べになるでしょう。その時少しでも有利になるように、沿海州と朝鮮半島、ついでに大量の捕虜はいただいておく構えです」
日本海とオホーツク海の制海権を得た日本側は、沿海州の複数の港湾に対して強襲上陸を仕掛け、海上電撃戦を展開した。日本側が南太平洋の孤島を使用した猛訓練と秘密兵器──お察しの通り、大発動艇である──の使用によってスムーズに作戦を遂行できた一方、ロシア側は場当たり的な応戦しかできず、日本軍に橋頭保を与えてしまった。
播磨造船所 大発動艇
全長:14.9m
全幅:3.9m
重量:7.0t
最高速力:16kt(空荷)、8kt(満載)
動力:帝国人造繊維 DT70
形態:船外機
形式:水冷直列2気筒ユニフロー2ストロークガソリン
定格出力:70ps/6000rpm
なおこの大発、名称と役割こそ大発であるが、船型はどちらかと言うとヒギンズボートに近い。材質ももはや播磨造船所のお家芸となったフェノール樹脂連続ガラス繊維FRPで製造されており、史実より軽量化されていて性能が向上しているため、もはや面影はほとんどない。
橋頭保を確保した日本軍は速やかに機甲戦力を揚陸し、清との国境に向けて突撃を開始する。決して地形やインフラが整っているとはいいがたい場所であったが、激闘の末、乃木保典少将率いる機動第3旅団がエジンカ-ハバロフスク間の打通に成功、ロシアがアジアに展開していた陸軍の大多数を、沿海州の南半分と朝鮮半島に閉じ込めた。
「あまり国民に負担はかけたくないのだが」
「シベリアは広大ですし、占領したところでたいした都市はありませんから、ロシアの継戦意欲も衰えないでしょうしね……アメリカが積極的に物資を輸出しているようですが、中立国を名乗っている以上、下手に手出しして向こう側につかれても困りますので……」
「何より、我々もアメリカやその保護国である清から資源や食料を買わねばやっていけないわけだからなあ……」
当然ながら、清とアメリカはロシアだけと貿易しているわけではない。日本も大事なお得意様の一人であるため、ここぞとばかりに売り込みをかけてきていた。むしろ、戦争が長引くほど得をするのは戦争特需に沸くこの2か国であり、そのために日露両陣営にいい顔をしているというところもある。普通なら確実に嫌われる方法であるが、お互いにこれ以上敵を増やす余裕はないため、どうすることもできない。
「長く苦しい戦になることでしょう。我々も粉骨砕身して勝利を目指しますので、なにとぞご容赦を」
「私に許しを請われてもなあ……現に、朝鮮の釜山から飛び立ったロシアの爆撃機が、北九州を目指して何度か飛んできているのだろう?陸海軍航空隊の不断の努力で、今のところ被害は出てないと言っていたが」
ロシアもやられっぱなしと言うことはなく、事前に韓国に配備してあった航空機を釜山に集結させて八幡製鉄所などの鉱業施設を目標に戦略爆撃を試みている。対馬や壱岐から事前に攻撃を察知される上、戦闘機ですら日本側が最高速度で100km/h近く優速であるため、今のところ本土上空への侵入は許していないが、距離の関係で予断を許さない状況ではあった。
「……申し訳ありません、陛下の御心を慮ることができず……」
「いいよ、私も言いすぎた。完全にただの嫌味だったよね。……欧州での戦争の時、父上は好戦的な欧州各国を嘆いていた。その時の自分は父上の気持ちを分かったつもりでいたけれど、自分が同じ立場になった今、あの時の自分は『あれは嘆いているなんてものではない』ということをきちんと理解していなかったんだなって、思い知らされているよ」
極東の島国を治める心優しい帝王は、そう言って深くため息をつく。彼は別に孤独だというわけではなかったが、今の彼に必要なのは、人のぬくもりとか、そういうふわっとしたものではないのだった。
年末年始に向けて少し新しいことを始めようかと思っています。
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