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あの企業は今-1

取り急ぎ書き溜めに手を加えて投稿します。今もあまり精神状態は良くないので、来週末に更新ができるかは未知数です。

感想欄でどこの企業との関係が聞きたいとかあれば、リクエストしていただけると対応できるかもしれません。相当歴史が変わっているので、下手すると設立されていないかもしれませんが……

「お母さん、三井君がやけに僕と張り合おうとしてくるんだけど、なんでだかわかる?」


 宵の口、定時上がりした耀子が女中と一緒に夕飯の支度をしていると、長男の耀之(てるゆき)がそんなことを母親に聞いてきた。


「んー……多分、三井君のお父さんの会社の集まり──三井財閥って言うんだけど──は、お母さんの会社に出資している直吉おじさんの会社と仲が悪いからじゃないかなあ」


 一応、帝国人造繊維は、世間一般において鈴木財閥の一員であると認識されている。史実でも鈴木財閥(直吉おじさんの会社)は三井財閥と仲が悪かったらしい。


「なんで?」

「さあ……これは完全にお母さんの偏見なのだけど、三井君のおうちってまだ幕府があったころから大商人としてやってきたわけでしょ?時流に乗っかって急に大きくなった鈴木が気に入らないんじゃないかしらね」


 米騒動の時に鈴木商店が焼き討ちにあったのは、三井と結託した新聞社の陰謀によるものと言う説がある。史実での真相はさておき、少なくともこの世界では、鈴木財閥を三井財閥が敵視しているというのは間違いないようだった。


「じゃあ、三井君のお父さんの会社は、お母さんの会社の事も嫌いなの?」

「それならもっと耀君(てるくん)に対する三井君の態度は悪いと思うよ。確かに昔は気に入らなかったかもしれないけど、今は微妙な感じなのかな……あ、でも東洋レーヨンさんとか設立してるしなあ……」


 この世界でも東洋レーヨンは三井物産によって設立されており、ドイツ企業からレーヨンやポリエステルの製造技術を導入して帝国人繊と繊維分野で競い合っている。何やらつぶやきながら耀子は思索にふけつつ、調理作業を進める。そろそろおいしい肉野菜炒めが出来上がりそうだ。


「えーと、全然分からないんだけど……」

「あ、ごめんね。順を追って説明するよ。まず、お母さんの会社がどうやって三井財閥とそこそこお付き合いするようになったかと言うと、三井財閥と関係がある会社にむりやり発注をかけたの」

「むりやり?」

「あれはまだお母さんが耀君ぐらいの時だったかな。豊田式織機って会社──あの時はぎりぎり豊田商会って名前だった気がするけど──にストッキングを編む機械を発注しようとしたの。そしたら鈴木商店から帝国人繊を手伝いに来ている人が妙に渋ったから、『三井だの住友だの関係ないでしょ!お客様が待っているんだからさっさと発注かけて!』って強引に押し通したの。あの時は豊田式織機に三井物産がお金を出していて、鈴木財閥と三井財閥の仲が悪いなんてこと、全く知らなかったからね」


 無知って怖いなあと思いながら、そういえばもう自分も30超えたのかと、感慨に浸りつつ耀子は語る。


「……それで?」

「うちからの大量発注を受けた豊田式織機は大きな利益を上げたわ。それ以来、豊田さんとは仲良くやらせてもらっているし、三井さんも鈴木財閥系とはいえ帝国人繊相手の時は普通の応対をしてくれるね」

「……うん……」

「家の力も大事だよ。お母さんの実家が公爵で五摂家なのも、きっと効いてたんじゃないかな」

「……」

「うちと三井君のところの関係は、なんとなく分かった?」


 耀之は渋い顔をしている。


「まだ難しかったかー……そりゃそうだよねーよしよし」


 耀子は手を止めて腰をかがめ、息子を抱きしめてなで回した。


「いいんだよ、耀之は耀之のペースで大きくなっていけばいいんだからね」


 彼は世間一般の児童としてなら相当出来の良い子である。それでも、あるいはそれゆえに、転生によって1歳のときから成熟した精神を持ち、頭脳そのもののスペックも天才(ギフテッド)に片足を突っ込んでいる耀子と比較してしまう大人がいるのだ。


「……うん……」


 山階夫婦はそれを理解しており、ことあるごとに耀之の精神をケアしていたが、やはりつらいものはつらいのである。


「人生って、難しいよね……」


 もし耀之が反抗期だったら激怒されそうな言葉が、誰に聞かせるまでもなく、耀子の口から紡がれては消えていった。




 翌日は日曜日、つまり休日である。山階家では、芳麿の父菊麿がそうしたように、子供たちを連れて科学館や博物館、動物園といった「知的好奇心を刺激する場所」に連れていったり、あるいは友達と遊んだりと言ったことが多かった。

 実際、この日長女の響子は山階宮家の面々と一緒に飛行機を見に行っており、耀子は、仲の良い孝彦(いとこ)と大好きな飛行機を見に行けると聞いてはしゃぐ娘の送り迎えをしてきたところである。


「さて……それじゃあ、お母さんの会社『帝国人造繊維』とそれを取り巻く状況について、できる限り分かりやすく説明するね」


 耀之が真剣な顔をして無言でうなづく。彼はあの後耀子に「リベンジ」を要求し、耀子の方もできる限り小学校低学年にもわかりやすいように準備して講義をすることにしたのだ。


「帝国人造繊維──帝国人繊と呼ぶ方が言いやすいから、こっちで呼ばれることも多いんだけど──という会社は、最初、PA66(ロクロク)っていう人間が作り出した糸を作ることを目的に、お母さんが国とか、直吉おじさんとか、いろんな人の力を借りて作った会社なの。この糸が、お母さんも今はいているストッキングに使うとすごくいいってことがわかって、外国にすごく売れたんだよね。そのお金を使って、飛行機を作ったり、自動車を作ったり、するようになって、今に至るってわけ」

「まあ、糸と、飛行機と、自動車を作っている会社だと思っておけばいいよ」


 一緒に話を聞いている芳麿が息子に補足する。当初彼は響子の付き添いとして飛行機を見に行く予定であったが、事情を聴いた兄武彦が


「耀子さんが耀之君に産業界の事情を講義するだって?それならお前も聞いておいた方がいいだろ。あと2年もたたないうちに貴族院議員になるんだから、今のうちに産業界の動向を勉強しておいた方がいいんじゃないか」


と言って、自分たち夫婦で響子の面倒を見てくれることになったのだ。

 侯爵である芳麿は満30歳になった時点で貴族院議員としての籍を与えられ、否が応でも国政に関与せざるを得なくなっていく。鳥類の研究に専念できないのは残念だが、一方で鳥類保護などは政治でしか解決できない問題でもあるため、悪いことばかりではない。


「私も耀君も、本当は具体的にどんな糸をどういう風に作っているかって話をしたいんだろうけど……」

「違うんだよね?」

「そう。残念だけど、お父さんやお母さん、場合によってはおじいちゃんの人間関係が、耀君たち子どもの友達付き合いに影響することがよくあるの。この前の三井君の件みたいにね」


 耀子の前世である令和の世の中でも「親ガチャ」なる言葉が流行って賛否両論が聞かれたぐらいである。より古い考えの強い昭和初期では、親の力関係が子供に影響するなんて当たり前の事であった。


「……それじゃあ、帝国人造繊維(おかあさんのかいしゃ)と、日本にあるほかの大企業がどういう関係を持っているのか、説明していくね」


 正直、小学生にする話じゃないよなあと思いながら、耀子はできる限り平易な言葉を使うように心がけつつ話し始める。

 ちなみに、当初の貴族院の規定では「満25歳以上」の侯爵以上に貴族院の議席が与えられることになっていました。ところが、芳麿が満25歳になる2か月くらい前にこの規定が「満30歳以上」で議席を与えることに改定されたため、今の段階では芳麿さんは貴族院議員ではなく「大学で鳥の研究をしている一介の侯爵」と言うことになっています。


 例によって感想が執筆のモチベーションになっております。些細なことでもいいので書き込みいただければ幸いです。

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挿絵(By みてみん)

本作世界のチベットを題材にしたスピンオフがあります。

チベットの砂狐~日本とイギリスに超絶強化されたチベットの凄腕女戦車兵~ 

よろしければご覧ください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] そろそろ冷蔵庫がでそうだなぁ。そしたらエアコンもでそうだなぁ。そしたら自動販売機ができそうだな。テイジンで販売しないかな。今なら一強な気がするな。 冷蔵庫の冷媒は硝石でも代用できそうだ…
[一言] チョウニチ新聞による捏造記事による鈴木本店焼き討ち事件については、作家・城山三郎が小説「鼠」を詳細な資料を下敷きに執筆しているそうです。 ちなみに、鈴木商店の倒産も三井銀行がコ-ル市場から大…
[一言] いつも楽しみに見ております!! 頑張ってください!!
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