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お姫様の恋 ~ハーボルト王国 王室に嫁いだ姫君たち~  作者: 松本せりか
見た目は17歳、中身は12歳の悪役令嬢
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第65話 賢者の愛した普通の少女

「その辺は、僕も記憶を共有しているから、知っているけどね。でも、分からないな。なんで、賢者(きみ)があんなに……役目を捨ててまで、エマを愛したのか。だってどう考えても、ちょっとおせっかいなだけの普通の女だったろ? そりゃ、貴族にはいないタイプだろうけど」

 クリスは半ば呆れたように言っている。

「そうだね。エマは、多分どこにでもいるような普通の少女だったよ。さして、美人でも無い。年相応の可愛らしさを持つだけの。おせっかいで、母親の為に生きていて。そうそう、勉強は嫌いだったね。上の学校を勧めた時だって……」

 何を思い出しているのか、知らないけど、楽しそうに笑ってる。

 私の忘れてしまっている前世なんだから、責任ないよね。


「私が身代わりになった時点で言えば、太ってしまっていて。下町食堂の肝っ玉母ちゃんだったからね」

 本当に、責任ないよね。賢者は、笑いながら言っているけど。

「普通に悩んで苦しんで、普通のことで喜び幸せを感じるような。少しおせっかいで、人の良い女性だったよ。だけど、その普通の生活を送れなくしてしまったのは、私なんだ」

 そう言った時には、賢者の顔から笑顔は消えていた。


「結局、あの時なけなしの能力でエマの魂を支えるために、二人で向こうの世界に渡って、一緒に転生を繰り返したのだけど。普通の人生を送っても、路上で生活するような人生でも。上流階級の女性や貴族になったこともあったけ……。そういえば、すごい……処刑されるような極悪人になってたこともあったけど。その時ですら、普通の事で悩んで泣いて、やっぱりお節介を焼くような……そんな人間になっていた」

 そう言いながら、賢者は私の頭を撫でてくれた。

 賢者が言っている人生は、全く覚えていないけど。

 そんな私の心を読んで、賢者は言う。


「良いんだよ。覚えていなくても。それが普通だ。前世の記憶なんてあったって、良い事ばかりじゃないからね。私の魂が寄り添っていた所為もあるかも知れないのだけど、エマの魂はずっと変わらなかった。私の愛したままだよ。特別じゃ無くて良いんだ。私が離れて、もしかして変わってしまうかも知れないけど、それでも愛しさは変わらない」

 そう言って、愛おしいと言わんばかりの目で、私を見つめてくれる。


「どうして?」

 どうしてそんな事がいえるのか分からなくて、私は訊いていた。

「知っていると思うけど、私は人間では無くなっているからね。君にはこの愛はきっと重いと思うけど……。でも、安心して。もう、私は君を追わない。私は賢者としてここにいて、今世では責任上、第二王子のクリスは、私と記憶と意識を共有するけど。君がクラレンスを選ぶのなら、クリスは慣例通り他の、王族にとって有益な女性と結婚することになる。そうして、お互いの寿命が来たら、そこでお別れだよ。私は、純粋に賢者に戻り、この国の主権は国王陛下に渡す。そして、君の魂は輪廻の輪の中に還る、普通にね」


「まぁ、そうなるな」

 そう言って、クリスは賢者に手を差し出す。

 その手を賢者が握り、クリスの体に光が(まと)わり付き収まった。

「き……気持ち悪い。混ざっていると思うと余計に……」

 おえ~と言う感じのクリスを、半目で賢者が見て言い返していた。

「お互い様だよ。クリス殿()()


 そして、賢者は私の方を向き直して言った。

「さて、キャロル。私が賢者として君に会うのはこれで最後だ。もう今迄みたいに、ここへ来てはいけないよ。ここに来れるのは、国王と後は宰相くらいだからね」

 子どもに言い聞かせるように、私に言った。

 キャロルは、もう少ししたら成人年齢に達するけど、中身の私は12歳の子どもだから。

 だけど、もう会えないんだ。

 唯一の、この世界での絶対的な保護者だと思っていたのに。


「次の代から、器としての王妃は生まれないし、君ももう、賢者の器にならなくて良い。他国と戦争になってしまっても、私がいるからね」

 賢者が何か言っているけど……聞こえない。

 だって、もう会えない。


 そう思って涙を(こら)えていると、賢者から不意に腕を掴まれ引き寄せられる。

 そして、耳元で

「最後に、お願いがあるのだけれど。君は許してくれるかい?」

 そう言われた。

 その願いは……。

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