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お姫様の恋 ~ハーボルト王国 王室に嫁いだ姫君たち~  作者: 松本せりか
見た目は17歳、中身は12歳の悪役令嬢
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第57話 ムーアクロフト家のお茶会

「まぁ。ようこそ、キャロル様。どうぞ、こちらにいらして」

 ムーアクロフト夫人から、にこやかにうながされた先には、お茶とお菓子の用意がされている長いテーブルがあった。もう他のお客様はそろっている状態である。


 ここは、ムーアクロフト公爵邸のサンルーム。

 今日はガラスの扉を大きく開けて解放感を演出し、中庭にも出れるようにしている。

 手入れされた木々や花々達が彩りを添え、その中でも楽しめるように立食コーナーや、テーブルが点在していた。

 ハーボルト王国の気候が、年中暖かいが故に出来る趣向である。


「お招きに預かり、光栄ですわ。ムーアクロフト公爵夫人」

 侍女の誘導に従って用意された席に着いた。

 彼女は現宰相の奥方。そう思って私は気を張って来たのだけど……。

 今回のお茶会のメンバーは、私とほぼ同世代の若い令嬢たちだった。


「キャロル様。今日は、わたくしの娘の教育に付き合って下さいませ。お恥ずかしい事に、この子ったら、お茶会一つ満足に運営出来ませんのよ」

「まぁ。そんな、ご謙遜を」

 それが本当なら、大問題だけど、この場合ムーアクロフト夫人が参加する言い訳だと思う。

 普通は娘が主催する若い世代のお茶会に、親が参加するなんてないもの。

 だいたい、キャロルとムーアクロフト夫人って仲悪いんじゃなかったけ。


 本当の目的は、今起こっている事への対策の為なんだろうな。

 クリスだって、いつまでも保護者をしている訳にはいかないし。そもそも、令嬢方が参加する夜会やお茶会に全て参加するなんて、不可能だ。 


 一応型通り、ムーアクロフト夫人の指導の下。シルヴィア様がご挨拶をしたり、自己紹介を皆で出来るよう工夫したり、ちょっとした遊びを取り入れたり。

 若い令嬢たちのお茶会としては、まずまずだろう。


「そう言えば、キャロル様。わたくしの夫と共に、賢者様とお会いになったのですって?」

 へ? ああ、あれって表向きは正式な謁見だったから、公式の記録にも残っているんだ。

 口止め、意味ないよね。公式記録は、上位貴族なら誰でも閲覧できるもの。

「はい。婚約破棄を言い渡されたショックで混乱してしまい、宰相様には分不相応のお願いをしてしまいましたわ。今考えると恥ずかしい限りでございます」


 今ならわかる。

 賢者に謁見出来るのは、国王陛下と選ばれた者のみ。

 私の魂を転移させたという事実があったから、キャロルは会えていただけで。

 キャロルの身分では、姿やお声かけどころか、賢者の間の廊下ですら、入る事が許されない。

 たとえ、賢者の石が選んだ器だとしても。


 私がそんな事を考え恐縮していると、シルヴィアは、瞳をキラキラさせて訊いてきた。

「とんでもないですわ。賢者様から選ばれた方ですもの。それで、どうでしたの? 賢者様は、初代英雄王のお姿のままでしたの?」


 不敬だ。

 賢者様の気配を問うならまだしも、容姿の事を訊くなんて。

 年配の方々……そうで無くても、普通はしない質問だわ。

 だけど、そこはデビュタントしたばかりの令嬢(こども)

 周りのご令嬢たちも、興味津々で私の返答を待っている。


 ムーアクロフト夫人の方を見ると、ほくそ笑んだ感じになっていた。

 なるほど、娘に何も知らない子どものふりをさせて、賢者が未だご存命だと、噂にしたいんだ。

 ここにいるご令嬢たちは、自宅屋敷に戻って私が賢者に会った時の話を家族にするだろう。

 不敬だとは思っていても、自分の娘を含んだ令嬢(こども)同士の会話に目くじらを立てる事も無いだろうと踏んで。


 だけど、この噂には、キャロルの名前も入ってしまう。

 ウィンゲート公爵が、自分の名前を晒さなければ噂が浸透しなかったのと、同じだ。

 自分の名前を晒さないと、誰も信用してくれない。


 この噂を流すという事は、噂の責任も一緒に付いてくるという。その覚悟が必要なんだ。

 真っ向から、ウィンゲート公爵を敵に回す覚悟と、賢者の存命を証明できなかった時、処刑されるかもしれない覚悟。

 だって、クリスが賢者として人前に出て来てくれるかどうかも、わからない。


 私は大きく深呼吸をする。

 何も出来ない子どものままでいたら、クラレンスは守れない。

 クリスが言った事は、こういう事なのかな? だけど、賢者と会った時の事って、どう言えば……。

 そう思っていたら、私の意志とは別に口が開く。


「賢者の間に入ってすぐの所で、わたくし跪いて待っておりましたの。すると、賢者様はわたくしのすぐ前に光を(まと)って現れたのです」

 クリス? クリスが……。

「その光が少し落ち着くと、幾重にも布を重ねたようなご衣裳を見ることが出来ましたわ。お顔は恐れ多くて、見る事は出来ませんでしたが、優しくお声かけを頂いて、嬉しさのあまり涙が出る思いで……」

 私は嗚咽が出そうになり口を手でふさぐ。本当に涙が出てきた。


 周りの令嬢たちから、次々にハンカチが差し出される。

 賢者と謁見した時の事を思い出し、感極まって涙が出たと勘違いしてくれたのなら、それで良いわ。


 今の言葉は、私でもキャロルのスキルでも無い。

 私の口から勝手に出てきた言葉。

 これは、賢者の方のクリスの……。

 覚悟を決めた私に、内側から存在を伝えてくれる。

 大丈夫、一緒にいるから……って。


 賢者様(クリス)。こんなところにいた。私の中に……。


 良かった。

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