十円玉
朝、怒号と衝撃音で目が覚めた
眠気で気怠い体に鞭打ち起き上がる
目の前には怒りで顔を真っ赤にした猿がいる
俺はその猿に向かって一言、
「おはよ」
瞬間、拳が俺の右頬にめり込む
俺はそのままベットに倒れ込んだ
猿は満足したのか部屋から出ていく
辺りを見回すと、壁に新しいへこみが出来ていた
そこで遅まきながら認識する
どうやら今日も昨日と変わらない一日が始まるということに
支度を終え一階にあるリビングへと向かう
そこでは二匹のお猿さんが喧嘩をし、一人の人間が蹲るという様相を呈していた
人間は俺を見つけると泣きながら駆け寄ってきた
「またお母さん達喧嘩してるよ
それに今日は特に酷いの」
そう悲痛に訴えるのは、紛れもない俺の最愛の妹だ
その妹を泣かせた元凶である二匹に向かい、俺はひとつの提案をした
「なぁ、俺と賭けをしないか」
『賭け』という言葉は、猿にとって余程魅力的だったのだろう
二匹の猿は喧嘩を止めこちらを向いた
それを『承諾』と受け取った俺は勝負の内容を猿たちに示す
「ここに一枚の十円玉がある
なんの変哲もないただの十円玉だ
これでコイントスをして、表が出たら妹を連れて家を出る
裏が出たら俺たち二人を好きにしてくれていいぜ
足りないんだろ?…生・活・費」
その言葉に猿たちは顔をニヤつかせて俺たち二人を見る
妹はそれに怯えるように俺の後ろに隠れた
そして、
「大丈夫なの…?」
と表情を曇らせる
俺は安心させるように
「大丈夫だ
絶対負けないからよ」
と言い、改めて猿たちに向き直った
緊張が場の空気を支配する
「それじゃーコイントスは公平を期すために妹にやってもらうぜ」
そんな空気をぶち壊すかのように呑気な声がリビングに響いた
「ちょっと待って!
なんで私なの?」
その問いに即座に答える
「だって可愛いからね」
「答えになってない!」
納得できない様子の妹に十円玉を渡し
「俺は躊躇なく人に命を預けられる男だが
お前はそうもいかないだろ」
その言葉に少しの逡巡のあと、妹は一歩前に出て手の中の十円玉を握りしめる
そして右手を前に突き出し手の上の十円玉を弾く
十円玉は弧を描き猿たちの足元に落ちた
結果は──『裏』
LEDのライトに照らされた平等院が悲しくひかっていた
「嘘…裏…ッ!」
絶望に顔を歪め膝から崩れ落ちる
それと対比するように猿たちは手を叩き下卑た笑みを浮かべ、妹に手を伸ばした
「お前ら勘違いしてるようだが、この勝負俺達の勝ちだぞ」
俺が放ったその言葉に妹も猿たちもこちらを見る
猿たちは訝しげに、妹は少し期待するように
「そもそも、この勝負、絶対に俺たちが勝つようにできてたんだよ」
その言葉に一人と二匹は困惑を深める
「いいか、一般的に十円玉の表は数字が刻まれている方だと認識されている
だが本来の表は平等院鳳凰堂が刻まれている方なんだよ」
「え…それってつまり」
「そう、つまりは十円玉の表が数字が刻まれている方だという『思い込み』、十円玉の表が平等院鳳凰堂だということを知らなかった『情報不足』、それを利用した詐欺ってことだ」
「でもそれじゃあ本来の裏が出てたら負けてたってことだよね」
そう、それこそがこのペテンの穴
そこを突かれたらおしまいだった
だが──
「奴らは数字の方が表だと思い込んでいた
もしそうなってたらそっちを表ってことにして突き通すつもりだったよ」
と、ここまで聞いてようやく状況を理解したのか猿たちは包丁を手に取り暴れ始めた
こうなってしまってはもう手の施しようがない
「荷物は外に出してあるから、とっとと逃げるぞ!」
「うん!」
こうして俺たちは猿の手から逃れ、自由な世界へと旅立つ──はずだった
初投稿です!
こんな拙い作品に触れて頂いて感謝しかありません!
うつ病の療養中で死ぬほど暇だったので「ちょっと小説書いて投稿してみようかなーw」と思い書かせていただいた次第です
気が向いたら続きを書く…かもしれません
『俺』と『妹』の名前は決められなかったのでそのままにしました
またどこかで会えることを楽しみにしています
それでは!