能力 〈目醒め〉
「……実は、ボクもよくわからないんだー。突然、此処に転移してきてそれ以降の事は頭がモヤモヤしていてよく思い出せないの。ご主人、ごめんなさい……。」
リリーは目をうるうるさせながら、しょんぼりしている。
なるほど……。
この様子から見るに、俺にうそをついている感じでは無さそうだ。
しかし、何故俺をご主人と?
「なぁリリー、俺たちまだ会って間もないのに、何で俺の事ご主人って呼ぶの?」
気になる。
もし、俺の事を誰かと誤解をしているならば、それは危険だ。
違うと気づかれた瞬間、何をして来るのかわからない。
「うーん……何かこう…ビビッときたの!!これが一生を掛けて支えるべきご主人様なんだって!!」
そう眼をキラキラさせながら言う。
……ちょっぴり恥ずかしい。
「…おっおう。……ありがとう。でも、、、思っているほど素敵なご主人さまじゃないよ。今もこうやって、部屋に閉じこもって、ゲームしてただけだし……。」
自分で言っていて悲しい。
特質するべき才能も無く、かと言って、努力するわけでもない部屋に引き篭もりのニート。
こんな俺に、従ったって良いことなんて一つもない。
リリーは、まんまるの赤い瞳でこっちをジッと見つめながら、、、
「……でも、ご主人は素晴らしい能力持ってるよ?そんなに落ち込む事ないよ?何で落ち込んでるの?」
心底、不思議そうな顔で首を傾げる。
その励ましが辛い。
否定してしまう自分が憎い。
が、それ以上にこのリリーが好きになってしまった。
今まで、自分に期待してくれる人なんて居なかった。
親は、弟を可愛がり自分になんて無関心。
勿論、そんな弟は親が見えない所で俺を馬鹿にしてくる。
高校でも、ただ虐められるだけの日々。
高校卒業しても、進学するでも就職するでもないニートな俺を、親は咎めもしてこない。
しかし、ここに来て初めて俺に励ましてくれる優しい悪魔があらわれた。
これ以上の幸せは無かった。
これ以上の嬉しさは無かった。
もし、ここでリリーが死んでしまうなら、己の命を差し出してでも救おうと思う程に。
いや、今この場で誓おう。
もし、リリーに何かあった場合、俺も一緒になってその罪を背負おう。
どんな事があろうとも。
〈自らの心に制約を打ち込む事によって【罪】が発現しました。また、対象〈リリー〉に対して全てを望んだ事によって、【罪】の一部能力が昇華されました。これにより個体名松田 直昌は、自らのステータスを閲覧することを可能としました。〉
…
……
………
…………はい?