近代人間性の構築と自我克服における一小説
自宅の窓から見える、近くの高校に聳える杉の木は、12月の朝日を受けてその輪郭を微妙なものに変化させていた。ウラル・コスパーダ・ミラリオン軍曹は日課としている朝のランニングのなかでその杉の輪郭の美しさを感じていた。人工的に設定された環境に、自然的な美しさを見出す彼の能力は、もはや技巧の段階に達したと言っても過言ではなかった。彼は、日常の生活のみならず、軍人としての、規律的訓練のなかで、自身の精神的平衡状態を維持するための現実的方法として、これを活用していたのである。
幸い今日は休養日であったから、ウラルは、彼女のヨハンナ・クリスバーグとともに、郊外にある「ジャポン・ラーメン・ショップ・ベルクソン」にサッポロ・ラーメンを食べに行かないかと提案した。サッポロ・ラーメンは、彼の20年来の友人ゲル・スズキにオススメされて去年に食べてから、彼の「座右の食」となっている。
ヨハンナにiPhoneで連絡すると、彼女も今日は宅調日だから、ぜひ行きたいと即座に返信があったので、彼はフェイスアイを取り付けて、人員輸送装置Maxtone2を呼び出した。フェイスアイとは、2025年に日本人技師が発明した顔面に沿ってつけるタイプの電子チップとマイク内蔵の小型粘着テープで、各種機器や機動装置の操縦を念じるだけでできるものだ。しかし、操縦時に限ってしかつけられないのは、人間が外界の物理的変化を欲望した時、Maxtone2もなぜか起動してしまうからである。意外なことに、人間は無意識的に、今自分が置かれている状況に何らかの不満を抱いているもので、フェイスアイを常時装着していると、本当に必要な時にMaxtone2を利用できないという苦情が多発したのである。IQ180の天才的日本人技師は、フェイスアイを特許使用料無料で提供したが、なぜか意味不明なこの機能をプログラムとして付随させて販売させているのだった。