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88 野営の戦い

 村での宴会が終わり、もうお腹もいっぱいだ。

 ルリ達は出発する事となった。



「王女殿下、ありがとうございました」

「リフィーナ様、またいつでもいらっしゃってください」


 村人とは意気投合。惜しまれながらの旅立ちだ。

 馬車に乗り込み、別れの挨拶を行うと、数々のお礼の言葉が投げかけられる。


 結局、黒鳥カラス2体分の肉は販売、5体分を宴会で食べつくし、食べきれなかった3体分だけを持ち帰る事になる。

 ほぼ、無料で振舞った結果だ。……まぁ、仕方がない。


 領都に戻る御者ダニエルの馬車には、村長が乗り込む。

 冒険者ギルドで手続きをしてくれるとの事、気を良くした事で、すぐに対応をしてくれるらしい。


 2台の馬車は、森の細道を、ゆっくりと走り出した。





「村長さん、ダニエルさん、お世話になりました。私たちは、領内を見回る予定です。

 またどこかで、お会いしましょう」


 森を抜けると、村長、ダニエルと分かれ、ルリ達は北に向かう。

 最北の街、リバトー領との境目になるメルダムの街までは馬車で2日程度。

 軍事訓練までに領都に戻る必要があるが、まだ時間は十分ある。



「食肉の調達……討伐依頼もあるし、森からは離れないように進みましょう。

 セイラ、魔物がいたら教えてね」


「オーク肉とボア肉の調達よね。了解したわ!」


 魔物を見つけたら積極的に討伐。

 村や町があったら寄ってみる。


 当面の予定が決まり、全力で馬車を走らせる。

 村で予定以上に時間を使ってしまったので、少しでも先に進んでおきたかった。


 しかし、1時間ほど進んだ所で、日が暮れてしまう。

 その場で野営する事に決め、夕食にした。


 テントを取り出し、調理を始める。

 数時間前に焼き鳥を食べたばかりなので、軽く野菜のスープだけで済ませることにした。


 食後は入浴。

 野営だからと言って手は抜かない。

 大きな浴槽では無いので一人ずつにはなるが、順番に身体を清める。

 水の魔法を自在に操るルリ達であれば、風呂を沸かす事など造作もないのである。



「ラミア、いつも悪いけど、夜間の警戒、お願いね」

「うむ、汝らは気にせず休むがよい」


 野営時は、普通であれば順番に警戒を行う。

 街中とは違い、いつ魔物や盗賊が襲って来てもおかしくはない。


 しかし、『蛇女』であるラミアは、夜に寝るという事をしなくとも、特に問題は無いらしい。

 幻術の蛇を周囲に展開して警戒を行ってくれるので、ルリ達はぐっすりと眠ることが出来る。

 本当に便利な一行である。





「あっ、やばいかも……」

 もう寝ようかという時、セイラが声をあげた。


「ん? 魔物?」

「うん、でもここじゃない、私、ちょっと行ってくる」

「え? どこに? 何だか分かんないけど、一緒に行くよ!」



「ありがとう。100メートルの所に、護衛でついて来てる近衛兵がいるんだけど、魔物が一直線にそこに向かってる。1分以内に接敵するわ」


「急ぎましょ! みんな、行こう! セイラ案内して!」


 就寝前とは言え、野営時である。

 テントから飛び出し、すぐに走り始めた。




「ルリ! 敵の注意、こっちに引けるかしら?」


「分かった! みんな、目をつぶって! 音響閃光爆弾(スタングレネード)!」


 ぱっかーん


 激しい光と音の魔法。

 スパイ映画で見た爆弾を真似してみる。点灯(ライト)と火魔法の組み合わせだ。


(よし、始めて使ってみたけど上手く出来た。

 音響閃光爆弾(スタングレネード)、結構使えるかも!)


 護衛騎士に迫っていた魔物の動きが止まり、ルリ達に向き直る。

 同時に、闇の中に浮かび上がったのは、密集して防御の隊形をとる護衛騎士の姿。



『うぉおお、防御隊形、やり過ごすぞ!』

『隊長、あちらに灯りが!』

『何、新手か?』


 護衛騎士たちの緊迫した声。

 突然の魔物の接近、そして光と音に、驚き、戸惑っているのがわかる。



「うわ! やば! あの猪、デカい!」


 目の前に並ぶ魔物は、ゆうに5メートルを超えていた。

 猪の魔物は、大きくても3メートル程度なのが普通である。


(アメイズ領の西側には魔物が巨大化する何かがあるのかしら……?)

 昼間の黒鳥(カラス)といい、この辺りの森では巨大な魔物としか出会っていない。




「セイラ、今のうちに騎士さん達を安全な場所に。

 ルリはもう少し粘ってて!」


 メアリーからの指示が飛び、護衛騎士の元へ駆け寄るセイラ。

 ルリはいつも通り、敵の注目を引き付ける役だ。



「みんな、大丈夫? 怪我はない?

 開けた場所まで移動するわよ、ここに留まると戦闘が出来ないわ」


 護衛騎士の前に飛び出し、セイラが声を掛ける。


「セ……、セイラ様? 何でここに……。 我々が食い止めますので、早くお逃げください!」


「何言ってるのよ! 魔物との戦いなら私たちの方が上でしょ。私たちが助けに来たの、わかる?」


「いや……」


 護衛対象から救出されたのでは元も子もない。

 押し問答になる護衛騎士とセイラ。


「ごちゃごちゃ言ってないで、全員早く逃げるの! ついてきなさい!」


「「「ミ……ミリアーヌ様!!」」」


 一喝したのはミリアだ。誰が先だろうが逃げることに変わりはない。

 王女の声に、全員大人しくなる。




 ルリを残し、草原の方向に走る。

 野営は身が隠せる森寄りの場所を選ぶことが多いが、戦闘となると、森の木々は邪魔である。

 ミリアを先頭に、足元を点灯(ライト)で照らしながら、慎重に進んだ。


「ルリ、態勢が整ったら合図するわ。それまで耐えてね。

 逃げられるなら逃げてきてね。討伐は明日でもいいから!」


 魔物の鼻先に音響閃光爆弾(スタングレネード)を打ち込みながら、ルリも魔物と距離をとって闇に紛れる。

 そう、魔物を倒すのは今でなくてもいい。

 不利な暗闇での戦闘を、無理に行う必要はないのである。





 遠くの上空に、光の合図が見えた。

 ミリア達が無事に安全な場所に到着したらしい。


(……無理しなくていいわよね。猪……ついて来ないでよ)


 気配を消しながら、ミリア達の元への移動を開始するルリ。

 魔物の鋭い嗅覚の前では、相当に離れるまでは気が抜けない。



「ルリ、こっちこっち」

 無事にミリア達と合流する。


「猪は追って来なさそうね、ラミア達と合流しましょう」


 セイラの探知によれば、猪はまだ同じ場所にとどまっているらしい。

 ラミア達と合流した後、今後の方針も決める必要がある。


 ルリ達の野営地もすぐそこだ。猪に気付かれる可能性は高い。

 襲ってくるならば迎え撃つのだが、戦うのであれば、戦いやすい場所に野営地を移動した方が良い。




「リフィーナ様、ご無事でしたか! ピカピカ、ドカンドカンと音がしましたので、参戦するべきか考えあぐねておりました」


「アルナ、ただいま。全員無事よ。威嚇しただけだから、待機しておいてくれて正解。

 それで、護衛の騎士さん達も一緒だから、テントの準備いいかしら」


 メイド三姉妹やラミア、セイレンの安全を確かめると、連れて来た護衛の騎士たちの世話をお願いする。



「セイラ、猪の様子はどう?」


「うん、こっちに来る様子は無いわ。

 でも距離は100メートル強だから、いつ来てもおかしくない」


「かと言って、全員で移動したら気付かれる確率も上がるわよね……」


 難しい判断である。

 変に刺激すれば、猪が襲い掛かってくる可能性が高い。

 できれば、戦闘は明るくなってから行いたい。



「朝まで警戒し続けるのは面倒よ。いっそ、やっちゃった方が良いんじゃない?」


 こういう時のミリアは、積極的だ。

 日の出まではまだ8時間近くある。警戒し続けるのが大変という意見にも一理あった。


「私は賛成。照明弾で照らし続ければ、私たちの戦力なら負けることはないと思う」


 ルリも、緊張しながら寝るくらいなら、安心してからゆっくりしたい考えだ。

 2人がそう言うと、ノリのいい『ノブレス・エンジェルズ』のやる気に火が付いた。



「では、作戦を立てましょう。

 8体の猪が突進してくるでしょうから、初動が重要ですよ」


 メアリーの作戦に、皆が準備を始める。

 奇襲されないように、野営の撤収は静かに行い、戦闘態勢を整える事になった。


 セイラが警戒を行い、状況を随時報告。

 突進に備えて、ラミアの蛇の幻術、ミリアが防御魔法を待機。

 その間にルリは、メイド三姉妹と共に野営地を撤収する段取りだ。



「猪がこちらに気付いたら、数秒の間に突進してきます。

 相当な衝撃になりますので、とにかく全力で勢いを殺しましょう。

 動きさえ止めれば、あとは楽勝、全員でタコ殴りです!」


「「「「「わかった!」」」」」


 猪型の魔物が怖いのは、全力の突進だけである。

 5メートルを超える巨体の為、止めるのは容易ではないのであるが、止さえすればどうとでもなる。


 迎撃の準備は整った。

 静かに息をひそめ、猪が襲い掛かって来るのを待つ。




「あれ? このまま待ってるの? 朝まで襲ってこなかったらダメじゃん!」

「「「「「あ……」」」」」


 メアリー、痛恨の作戦ミスであった。


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