190 国宝級の魔道具
「やや、ミリアーヌ様、よくぞご無事で!」
「言いたい事は多くありますが、まずはご説明をお願いします」
魔導王国イルームの王都。宿に戻ったルリ達は、集まってきた文官に詰め寄られていた。
「はぁ? ユニコーンが何ですと?」
「公聖教会を潰してきた……?」
「導師シェラウドが化け物を……。ルミナス様が女王に即位し友好国へ……ですか」
「それで魔道具の利権を調整すると……」
目を白黒させながら驚く文官たちの顔が面白い。
戦闘前に宿に立ち寄った際は、ミラージュ公爵の手前、事情の説明ができなかった。
やっと状況を理解した文官たちから驚きの声が上がる。
勝手に王都を抜け出したり、替え玉を準備したり、今は女王となったルミナスを連れ帰ったり、王宮で派手な戦闘をやらかしたり……。
とてもとても親善大使の行動とは思えない事ばかりだが、文官たちも怒りを通り越して、むしろ呆れた様子だ。
「皆様がやらかして……冒険なさっている間に、こちらでも導師たちの情報など掴んでおります。ルミナス女王にも共有し、然るべき人物との交渉を行いましょう」
「そうしてくれると助かるわ。お父様へも……」
「国王陛下へもうまく報告いたします。結果的には、友好関係を結ぶことに成功し、魔道具の流通も可能になった。これ以上ない成果です。
しかし、方法論には問題が、……問題があり過ぎます! いいですか、あなた方のお立場は……」
「いや、全ては成り行きで……」
「成り行きだろうが不可避だろうが、勝手に行動するなど……。報連相という約束をお忘れですか……?」
「「「「ごめんなさい……」」」」」
しばらく文官の説教をくらい、シュンとするルリ達。
覚悟していた事であり、仕方がない。
どちらかというと、山積みの課題を丸投げしているような状態で、説教だけで済むなら幸運だ。
「それで、この後はどうなさりますか? 我々は、まだしばらく王都に留まる事になりそうですが……」
「わたくし達は、魔道具の工房へ行きますわ。ユニコーンから託された角についても、職人さんに伝えなきゃいけないですし」
「そうですか。もし、王都から外に出る際は、必ずお伝えください。必ずですよ!」
文官と導師の交渉、それにルリ達の工房行き。互いの予定を確認し、行動する前に報連相……報告・連絡・相談を確実に行うようにと念を押され、日程を調整してくれているルミナスからの使者を待つ事にした。
「やっとゆっくりできるわね」
「うん、お風呂入って早めに寝よう」
しばらく慌ただしい毎日だった為、心からゆっくりできるのは久しぶりだ。
課題は山積みなものの、時間的にも心理的にも余裕がある。
「本来ならそろそろ帰る予定だったけど……。しばらく延長かなぁ……」
「そうだね。やる事たくさんあるし、それにこの国ほっとけない……」
1ヶ月の予定だった魔導王国の滞在期間は、そろそろ過ぎようとしていた。
ただ、このタイミングでクローム王国に戻る事は気が引ける。
新体制になった魔導王国では、まだまだ人手が足りない。
何より、ルリの言い出した体制でもあるので、助言が必要になるだろう。
そしてルリは、気兼ねなく魔道具の開発に取り組める事に喜んでいた。
利権など決まりきっていない部分もあるが、便利の為なら多少の事は目をつむる。
それが、ルリのモットーである。
「魔道具の状況次第だけど、出来れば数ヶ月滞在したいな……」
「まぁ、みんなの家族と学園には使者出しておくわよ。ただ一応学生だからね。忘れない事!」
学生である事を忘れている訳ではないし、遊びに来ている訳でもないが、結局、学年が上がってからがほぼ学園には顔を出していない。
「セイラ、ありがとうね。少しでも早く学園に戻れるように、私もがんばるから!」
「うん、後悔だけはしないようにね」
今後の事など話をしながら、自然と眠りについたルリ達。
翌朝はアルナに起こされた。
「リフィーナ様、王宮からの使者の方がいらっしゃいました。本日、午後以降でしたら、いつでも工房に行っていいそうです。出入りの制限も解除しましたので、お好きにどうぞとの事でした」
早朝に使者が来たそうで、魔道具工房との調整がついた事を報告してくれたらしい。
また、文官たちの打ち合わせも設定され、間もなく王宮で話し合いがもたれるとの事だった。
「わかった。仕度出来たらすぐに出るわ」
さっそく魔道具工房を訪ねる事を伝え、仕度を整えるルリ達。
少し朝寝坊だったので、バタバタしている内に、すぐに出発の時間となった。
「皆さんこんにちは。お久しぶりです」
「来た来た、早くこっちへ! 早く使い方を教えてくれ!!」
「ちょ、そう急かさないでよ!!」
魔道具工房に着くなり、職人のドワーフに手を引かれ、奥の作業部屋へ連れて行かれるルリ。
挨拶もそこそこで職人が慌てているのは、先程王宮から届いたユニコーンの角と毛を編んだ布を試したくて仕方がない為だ。
「しかし、何と言う美しさじゃ。使った魔法をしっかりと魔石に付与できるらしいな」
「素敵よねぇ神聖な魔力を感じるわ……。早く使わせてよ!」
魔道具工房では、前回同様、ドワーフやエルフの職人が集まっている。
新しいユニコーンの角をうっとりと見ながら、ルリが使い方を説明するのを今か今かと待っていた。
「長年の問題は解決されました。今後は、心置きなく魔道具を作れますよ」
ユニコーンにまつわる事件の概要は聞いているようだが、一応ユニコーンとのいきさつを簡単に説明しつつ、角の使い方を伝える事にした。
政治的な事には興味がない職人たちだが、またユニコーンの恩恵を受けつつ暮らせる事に、喜びを隠せない。
「嬢ちゃん、ありがとうな。ユニコーン様が見守ってくれるなら安心じゃ」
「それで、角の使い方は!?」
「そうですね。では、早速やってみましょう。基本的には……」
角を単体で使うと、効果がランダムで付与される。布で包めば、唱えた魔法の効果が付与される。そんな説明をしながら、試しに魔法を付与してみる。
(洗浄)
「この魔石、洗浄の魔法をつけてみました。確認いただけますか?」
「おう。スイッチ付けてみよう。ところで嬢ちゃん、魔法はいつの間に使った?」
「もしかして、無詠唱魔法の使い手なの?」
「あはは。魔法は得意なんですよ……」
声を上げることなく魔法を発したルリに驚きつつも、そこはドワーフとエルフである。特に気にした様子もなく、ルリが魔法を付与した魔石を魔道具として仕上げる。
「よし、やってみるぞ。スイッチ、オン!」
キラキラキラキラ
ドワーフの職人がスイッチを入れると、淡い光が部屋中に広がる。
周囲のみならず、部屋全体がすっかりキレイになった。
「な……、何じゃこの効果は!?」
「部屋の隅々まで浄化されたわね……」
(あれ……魔力込め過ぎた?)
ユニコーンの里で練習した時は、外だったし効果範囲など考えもしなかったルリ。
ちょっと強すぎたらしく、職人たちが驚いてしまった。
「ユ、ユニコーンのチカラ、スゴイですね! とにかく、成功です。皆さんもやってみてください!」
適当に誤魔化しつつ話をすり替える。
「ルリの作った魔道具は、たぶん売り物に出来ないわね……」
「えぇ、性能が良すぎるわ……。全て国宝級になりそう……」
「ミリアもダメね、あなたも加減できないでしょ?」
「わ、わたくしは……」
後ろで見ていたミリアとセイラ、そしてメアリー。
見事にやらかしてくれたルリの様子を、冷ややかに、かつ、明日は我が身と心配するのであった。
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