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186 民主主義

 魔導王国の王都にてシェラウドの企みを阻止したルリ達『ノブレス・エンジェルズ』の4人とルミナス。巨大ゴーレムの残骸を前に、ミラージュ公爵たちの到着を待っていた。


 王宮前の広場は、完全に荒れ果てた跡地。王宮の一部も、完全に崩壊している。


「まぁ、被害は最小限にとどまったと思うわよ」

「うん。私たち、よくやったわよ……」


 見えている惨状だけならば困り果てる所だが、四方八方に暴走していたゴーレムの動きを考えれば、被害は少なかった。……はずである。



「ルミナス様、いよいよですわね!」

「ええ、王国の腐敗を正し、民を導くわ。しかし、あんな化け物を作っていたとは……。導師は全員尋問ね……」

「忙しくなりますわね……」

「今更よ。ルリが教会に現れた時に、こうなる運命だったのだわ。

 それより、ひとつお願いがあるの。わたくし達、仲間……よね?」

「もちろんですわ!」

「だったら、様はやめてくれない? ルミナスでいいわ。ねぇ、ミリア?」


 少し照れくさそうな、ルミナスとミリアの会話が微笑ましい。

 聖獣の愛し子同士、気が合うのであろう。


 ルミナスとの会話を楽しんでいると、ミラージュ公爵たちがやってきた。

 遠くから見ていても、天地が裂けるかと思われる様な激しい攻防。

 案の定、難しい顔をしている……。


「あなた達……。なんて事をしてくれたのかしら。

 世界の終わりかと思ったわよ……」

「怖く……怖くはなかったぞ……」


 怒りや恐怖を超えて、言葉が見つからないという様子のミラージュ。

 国王のラグマンは、後ろでブルブルと震えながら、強がりを言っている……。


「全ては導師シェラウド達の陰謀ですわ。今後はわたくしが先頭に立って、再建に努めます。叔母様にもご協力を願いますわ」

「わかってるわよ。それにしても……。兵隊長を呼びなさい! この場の後始末をお願いします」


 いつまでも立ち話を続けている訳にはいかない。それに、王宮内部の様子が気になる。

 ミラージュが兵士に指示を送り、残骸の後処理を行わせる。

 当面、王宮前の広場は立ち入り禁止だ。



「被害を確認しながら王宮に向かいましょう。導師は全員拘束。一人も逃がさないように……」


 ひとつの懸念点。魔道具ゴーレムへの関与を疑われる事を恐れた他の導師が逃亡するかもしれない。

 兵士に導師探索の指示を出しつつ、王宮へ向かって歩き始める。




 王宮の前につくと、まずはルミナスが、王宮内に向けて名乗りを上げた。


『王宮内に告ぐ。王女ルミナス、ただ今、帰還した。動ける兵は、王宮前に集合せよ。

 これより、ルミナス・フォン・イルームが、魔導王国の再建を取り仕切る!』


 王宮の兵は、導師の息がかかった者も多い。

 近衛兵はまだしも、全ての兵がルミナスに従うかどうかは、これからのルミナスの動きにかかっている。



 王宮内の兵、そして従者たちは、突然の出来事に戸惑っていた。

 見た事もないような巨大なゴーレムの出現に、天変地異の様な魔法の応酬。

 誰を信じたらいいかすらわからない、それが本心であろう。


『ルミナス様? 本当にルミナス様がお戻りになったのか?』

『見ろ、あのお姿。間違いなくルミナス様だぞ……』

『お嬢様がお戻りに……』


 古くから王宮に仕えていた者には、幼き頃の面影が残るルミナスの姿に感動している者もいる。

 一人、また一人と、顔を出してくると、やがて、数百の兵が、ルミナスの前に整列した。


『皆の者、ありがとう。此度は騒がせたな。主犯であるシェラウドは捕らえた。皆は、怪我人の救助とがれきの撤去に尽力してほしい』


 整列した兵、そして、つられて出てきた従者たちに感謝を伝えるルミナス。

 導師が台頭する中、王家に忠誠を誓い続けてくれている兵や従者は、貴重だ。



「では、中に入りましょう。

 ラグマン、ほら、しっかりしなさい。王宮に帰るわよ!」


 完全に役立たずと化している国王ラグマンを一喝し、一緒に王宮へと入る。

 入り口付近はかなり破壊されており、がれきが散乱していた。


 王宮内には、まだ怯えた人たちが多くいた。

 激しい戦闘に恐れをなした者、上官にあたる導師が拘束された事で危機を感じた者。理由は様々であるが、共通しているのは、生気を失い、顔を青白くしている事だ。


 また、建物も、巨大ゴーレムが出現した場所を中心に、完全に崩壊している。

 人的な被害が少なそうなのは、不幸中の幸いである。


(これは大変そうね……)


 まだ戦闘から間もない事もあるが、再建には時間が掛かりそうだ。

 建物だけでなく、人の心理的な部分もケアしてあげる必要がある。


「ルミナス、手伝える事、どんどん言ってね」

「期待してるわ」


 改めて、手伝いを約束するルリ。

 ルミナスにとっても、信じられる仲間がいる事は心強い。


「でもルミナス、わたくし達の目的はお忘れないようにね」

「魔道具の件よね。前向きに検討するわ」


 親善大使として友好を深めるという点については、ルミナスが実権を握るのであれば問題ない。魔道具についても、すでに製造方法が分かってしまったので、お互いの利益になるようにと詰めるだけだ。


「でも今は、再建に全力を尽くさせてもらうわ。少し、時間をくださいね」

「そうね。……まずは、王政の復活を宣言ですわね」

「うん、その事でも、相談があるのよ……」


 話し合いの場……王の間へと向かいながら、今後の事を話すルリ達。

 ルミナスに、少し懸念点があるらしい。


「他の導師を連れてくるまでには時間が掛かるわ。先に、少し話しましょうか」

「そうしていただけると助かるわ」


 導師の捜索は、今も続いている。

 後ろめたい何かがある導師は、全力で逃げようとしている事だろう。

 逆に、王女ルミナスの帰還を聞き、駆け付けようとする導師もいるはず。

 全員が揃うかは不明だが、とにかく、待つ事にして、事前の打ち合わせを始める。


 王宮の奥側は、幸いにも被害は少なかった。

 衝撃で多少壊れた物もあるが、問題視する程ではない。


「この辺は被害が少なくてよかったわね。ルミナス、それで、相談ってのは?」

「うん、さっきの、王政の事なのだけど……」


 ルミナスは、王政を復活させるかどうか、悩んでいたらしい。

 女王として即位する、そこは許容したとしても、国の政全てを、ルミナスが行う必要はない。

 行いに問題があったとはいえ、導師という街の代表者が政治を行うというシステムは、ルミナスも気に入っていた。


「民主主義と言います」

「みんしゅしゅぎ?」

「はい。国の在り方を決める権利は、国民が持っていると考える政治体制の事です」


 ルリも、アメイズ領でそれっぽいシステムを導入してはいるが、本来、国全体で行わなければ、真の効果は発揮しない。

 選挙の仕組みや、政治を行う体制など、詳しく説明するルリ。


「ただ、問題があるのは……」

「選挙をするにも、誰が住んでいるのかを把握しなければならない……」

「それと、先に、不正に対するルールをしっかり作らないと、また悪人がのさばる事になります……」


「はぁ。先は長そうね。でも、必要な事なら、無理を押してでも、やり遂げるべきよ。それこそ、ユニコーンに顔向けできなくなるわ」


「最初は大変だけど、規則を作れば、自然と回り出すはずよ。

 え~と、三権分立って言うのだけど……」


 また変な言葉が出てきた、と言うような顔をされるが、権力を分散させる事の重要性を説くルリ。


「なるほど。互いに暴走しないように監視するのね。その方向で、ルール作りを行いましょう。

 しかし、ルリって何者? そんな知識、どこで覚えたの?」


 女神の愛し子という事は知っているが、さすがに転移の話は、ルミナスにはしていなかった。

 ルリの知識力は、愛し子というだけで説明がつく訳ではない。


「まぁ、細かい事は後にしましょう。導師が集まったら、まずはそれぞれの言い分を聞くのでしょ? そっちの話もしないと!」


(ミリア、ナイスフォロー)


 雰囲気を察して話題を変えるミリア。

 ルミナスには正直に話すとしても、他の全員にまで、ルリの秘密を公開する必要はない。


 兵たちが導師を連れてくるまでのひと時、今後の方向性を決めるための事前打ち合わせは、ルリの知識のおかげもあり、順調に、進んでいた。


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