184 ゴーレムの魔道具
「ぐはははは、慄くがよい! 魔導王国の技術の粋、巨大ゴーレムを!!」
「シェラウド! 何考えてるのよ! あんなもの、周りの人や建物が……」
「ぬかせ、逆賊が! 周囲に気遣うのなら、諦めて死ぬことだな!」
魔導王国イルームの王宮から出現した巨大ゴーレムに相対する『ノブレス・エンジェルズ』の4人。
導師シュラウドに毒づきながらも、視線はしっかりと敵を捕らえ、身体を魔力で強化している。
王女ルミナス、そしてミラージュ公爵は、国王ラグマンを護りながら、兵や住民の避難に、精力的に動いていた。
「ルリ、いいわね?」
「わかってるわよ……」
ミリアの懇願するような上目づかいの視線に、素直に頷くルリ。
これは、強敵を相手にする時の合図だ。少しは、全員で楽しもうという意味がある。
攻撃を無効化する絶対防御と、全てを凍結させる絶対零度。
敵が巨大であろうが、この2つの魔法の前には、いかなる敵も勝ち目がない。
戦闘はすぐに終わるかも知れないが、他の3人は何もすることがなくなる為、面白くない。
だから、あまりにも危険な場合や、奇襲を受けてどうしようもない場合を除き、ルリのチートな魔法は、遠慮することにしている。
「来るわよ! セイラ!!」
「はいよ! いでよ~」
がしぃぃぃぃん
巨大なゴーレムの右腕による打ち下ろし。
ハイテンションな戦闘モードのセイラが、大盾でがっしりと受け止めると、周囲には激しい音が鳴り響いた。
「さすがに重いわね……。見て、地面にひびが……」
「セイラ以外は避けないとまずいわね……」
「大丈夫、動きは鈍いわ」
「でも、ミリアとメアリーは少し離れてて」
直接パンチが当たる様な距離では、万が一の危険がある。
セイラが前線で引き付けると、中間にルリ、後方にミリアとメアリーが構えた。
「大きい奴は関節が弱いわ。ミリアは右足、私は左足に集中攻撃!」
「炎槍!」
「水槍!」
まずは小手調べ。ミリアが極太の炎の槍を飛ばし、メアリーは水の矢を放った。
巨大な敵は、足の関節を狙うのが定石だ。
「さすがに効いてないわね。もっと強いの行くわよ!」
「火事にならないように注意してね。火の鳥!」
「お互いにね。火炎旋風!」
並大抵の魔物であれば骨すら残らない獄炎の炎が、巨大ゴーレムを包み込むが、その炎にも耐え抜いた。本物のゴーレムよりも、魔法への耐性が高いのかも知れない。
「ぐはははは、その程度の魔法攻撃など効かん! 潔く押しつぶされるがいい」
「大人しくつぶれるバカがいるものですか! これならどう? プラズマ、放電!!」
「むぐ、雷の魔法まで使えるのか、しかも、全員無詠唱とは……」
「まだまだ小手調べですわ! シュエラウド、あなたの企みはここまでよ。こんな化け物を持ち出して、民が指示するとでも思ってますの?」
「黙れ、むしろお前たちこそ、他国で暴れおって、ただではすまんぞ!」
魔法を放ちながら、導師シェラウドを挑発するミリア。
想像を超える魔法の連発に、シェラウドに少し焦りが見える。
(さすがに頑丈ね……。決定打が欲しいわ……)
少しずつ傷を付けてはいるものの、破壊するには程遠い。
ルリは、どこか弱点がないかなどと探しながら、戦闘を終わらせるための一打を探していた。
「ねぇ、魔石ってどこにあると思う?」
「普通に考えれば、胸か頭じゃない?」
魔道具である限り、必ずどこかに、魔力を制御するための魔石があるはずだ。
余程の変わり者でない限り、ヒト型のロボットを作るとすれば、胸部か頭部のどちらかに魔石を設置するだろう。
「セイラ、前衛、しばらく任せていい?」
「いいわよ。魔石壊しに行くの?」
「うん、とりあえず、登ってみる!」
振り回される拳をアメイズ流の剣舞で交わしながら、タイミングを見て巨大ゴーレムの腕に飛び乗るルリ。
そのまま、器用に腕を伝い、肩まで登っていく。
「ルリ、どう? 何かある?」
「ううん、見当たらないわ。スイッチとかあると思うのだけど……」
何も、見える場所にあるとは限らない。慎重に頭の上まで登ろうとした時だった。
「ルリ、危ない! 後ろ!!」
ごぉぉぉぉ
セイラの声に、慌てて振り返ると、目の間を巨大な火球が通り過ぎる。
「うわ、あぶな!」
「大丈夫? それより、あれ!!」
「なんと……まだいたのね……」
ズゴゴゴゴ
(でか! 何あれ、カタツムリ? あっちは……カメ?)
「ぐはははは、ゴーレムが1体だけだとは誰が言った。これで命運は尽きただろう、降参しろ!!」
「シェラウド、いや、導師たちは何を……」
隠れて作っていたにしては規模が大きすぎる。
シェラウド一人の企てではなく、複数の導師が協力している事は間違いない。
「無敵の軍、魔道具兵団をもって、我が国は世界を手にする。お披露目はもっと先の予定だったがな。
最初の獲物が他国の王女なのは、不幸中の幸いか!」
「それがあなたの本性なのね……。いい訳ないでしょ! 問題あり過ぎよ!」
もはや隠すつもりがないのか、いいたい放題のシェラウド。
さすがにミリアも容認できない。
(巨大ロボット軍団で世界征服……。最高の悪役ね、おもしろ~)
シェラウドとミリアの会話を聞きながら、思わず笑ってしまうルリ。
ゴーレムの頭の上で攻撃を躱しながら、成り行きを見守る。
「敵が3体に増えたわ。どうする?」
「王宮で暴れられたら困るわ。まずは広場におびき出しましょう」
「広場も、さすがにあれと戦うには狭いわよ?」
「他の建物壊すよりはいいわ」
「ぐはははは、王都は、今、生まれ変わるのだ。長き王政は終わり、民衆による統治を確立する。広場に集めようが、お前たちに勝ち目はない! 生贄になるがよい!」
ビルの5階くらいの高さにいるルリにも聞こえるように話しているので、作戦もシェラウドに筒抜けだ。切り札なのか、3体目のゴーレムを起動すると、声高々と、勝利を宣言する。
「お手伝いできる事、ありませんか?」
「ルミナス様、いい所に!」
周囲の住民の避難を終え、ルミナスが戻って来た。
短い期間ではあるが、一緒に旅もしており、お互いの実力は把握している。
敵が増え、一気にケリをつけないと危険がある今の状況では、ルミナスのような戦力が加わってくれるのはありがたい。
「私たちも、お忘れいただいては困ります」
さらに、駆け付けてきたのは、メイド三姉妹のアルナとイルナ。
ルリ達が教会に行っている間、宿で留守番となっていたが、駆け付けてくれた。
「アルナとイルナ、ありがとう。これで前衛が揃ったわ」
作戦担当のメアリーが、オレンジ色の髪を揺らして全員の顔を見る。自身に溢れた表情から、作戦に必要なピースが揃ったのだと分かった。
セイラが引き留めている巨大ゴーレムと違い、残りのゴーレムは、ヒト型ではない。
戦車のような形なので、パンチなど近接の攻撃はないだろう。
スピードに特化した、アメイズ流の剣舞を極めたアルナとイルナならば、攻撃を受ける事なく、敵を引き付ける事が出来るはずだ。
「アルナは右、イルナは左の魔道具ゴーレムを引き付けて、広場へと誘導してください」
「承知しました!」
2人が走り去るのをみて、ミリアとルミナスに語り掛けるメアリー。
「火力を集中しましょう。目の前の巨大ゴーレム、他の2体が来る前に、何とか動きを止めたいわ」
魔力を高めて集中するミリア。
何やら詠唱を始めたルミナス。無詠唱を覚えつつあるが、大魔法を放つ時は、やはり詠唱した方が慣れている。
「セイラ、ルリ、一度戻って! 大きいの行くわよ!!」
巻き込まないようにとセイラとルリを下がらせると、準備した魔法を放つ。
「見様見真似ですが、わたくしなら出来るはず……獄炎の灼熱!!」
「太古の炎よ、今ここに甦れ、獄炎の灼熱!!」
「な、何で二人とも使えるの? 負けてられないわね、私も、獄炎の灼熱!!」
過程や詠唱文は違うものの、ミリア、ルミナス、ルリが全く同じ呪文を放つ。
かつて、最強の魔物の一角であるケルベロスを一撃で倒した獄炎が、同時に3発、巨大ゴーレムの上半身に向かって飛び出した。
ごぉぉぉぉぉぉぉぉ
上空に放たれた3本の炎の柱は、ゴーレムの上半身を吹き飛ばし、空の彼方へと消えていった……。
「できたわ! やった~」
「二人とも、どうしてこの古代魔法を使えますの? しかも無詠唱で……?」
以前見たルリの魔法を、イメージだけで再現したミリアの魔法センス。
女神から与えられたチカラで魔法を放っただけのルリ。
さすがに、最強魔法をあっさりと使われては、ルミナスも驚きを隠せない。
「あはは、説明は後でしますわ。今は、それよりも……」
まだ戦いの途中である。
ポカンと空を見つめるシェラウドを後目に、次の敵に狙いを定める、ルリ達であった。
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