183 ラスボス
(しかし、どうしてこうなった……?)
ノリと勢いで戦闘を始めてしまったが、そもそも、親善大使として魔導王国に来たはずが、王国を統べる導師に対して、先陣を切って戦っている。
既に始まってしまったので、行く所まで行くしかないのであるが、一応、今後どうしたいのかをルミナスに聞いてみる。
「ルミナス様、これから、どうするのですか?」
「王宮に入り、正式に帰還を告げます。それから、真実を民に伝え、謝罪するわ」
「その後は? 謝罪して終わり?」
「そんな事、あるはずないでしょ。ユニコーンと共生する、幸せな国をつくるのよ」
あまりにも急な展開で、具体的な事はまだ決めかねているようだが、ルミナスの決意は固いようだ。
「では、お手伝いしますわ。私、いろいろと便利なんですよ!」
「知ってるわ。だから、『ノブレス・エンジェルズ』に依頼します。わたくしと共に、戦ってくれませんか?」
ルミナスは、クローム王国が扇動したなどと言われないように、あえて『ノブレス・エンジェルズ』への依頼としてくれた。冒険者として依頼を受けているのであれば、言い訳程度にはなる。
「まずは、わたくしが王国に戻る事を、導師たちに認めさせる必要があるわ。
今後は好き勝手にはさせないと、宣言しに行かなくちゃですわ!」
「では、その場を作れるように、王宮への道を、開いて差し上げましょう!」
(盛り上がって来たわね! 上洛? 討ち入り……?)
正直ルリは楽しくて仕方がなかった。
魔導王国の正当な王家の血筋であるルミナスを要し、実質支配を行っている導師を倒しに行く。
まさに、映画の一場面だ。
「この辺の敵兵はもう大丈夫ね。攻め入るわよ!」
「ミリアは、ちょっとやり過ぎかな……。まぁいいけど……」
やり過ぎるのはいつもの事なので、気にしない。
国王ラグマンが、馬車の隅で怯えているが、……気にしない。
あっさりと宿の前の敵兵を行動不能にすると、ミラージュ公爵の私兵を率いて、王宮へと進軍した。
いつの間にか、秘密結社モノケロース所属の冒険者も集まってきており、500人近い一団になっている。
『国王ラグマン、そして、王女ルミナスの名のもとに、魔導王国イルームを解放する!
志のある者は、わらわに続け~!!』
道中、先頭で気勢を上げているのはミラージュ公爵だ。
導師の台頭により立場を追われ、絶大な権力を持ちながらも、国政をいいように操られていた公爵は、この日を待ちかねていた。
小さなきっかけがあれば、戦力があれば、再び王家に栄光をもたらす事が出来る。
不甲斐ない国王を、救うことが出来る。……その願いが、『ノブレス・エンジェルズ』という異分子が絡んだ事で、叶おうとしている。
宿の兵をどかすだけのはずが、いつの間にか、政権奪取の軍事行動に発展している。
その行動力はすごいが、いささか時期尚早な感じもする……。
『国王及び公爵様は血迷われたようだ。この行軍は、魔導王国への反逆である。逆賊を打ち取るのだ!!』
王宮では、導師直属の兵が待ち構え、その中心では、導師シェラウドが兵を鼓舞していた。
その流れで、導師シェラウドとミラージュ公爵の舌戦が繰り広げられる。
『王家を蔑ろにする導師のやり方はおかしい。王政復活に向けて、ルミナス王女が戻られた! 道を開けなさい!』
『王女だと!? 今更何を言うか。我々の働きにより王国は日々発展を遂げている! 王族などと言う古いしきたりは、この国にはもはや不要なのだ!』
何の準備もなく突撃しているので、論破するには材料が少ない。
王女が戻ったので体制を作り直すという希望は分かるが、そうしなければならない理由はない。また、導師の汚職や賄賂の証拠も、持ち合わせてはいなかった。
やはり、準備不足が露見し、議論は紛糾を極めていた。
事実、国としては回っているので、導師による政治を糾弾するには証拠が足りないのだ。
私利私欲……汚職や賄賂に紛れていようが……。
(話し合いの解決は無理そうね……)
お互いに口が達者な為、激しいやり取りはしているものの、互いの答弁に中身がない。
『ぐはははは、もはや、ここまでだな。王家の裏切り者は、成敗してくれる』
舌戦では決着がつきそうもなく、やはり、武力に訴えるしかなかったようだ。
導師シェラウドが両手を上げると、王宮の兵は戦闘態勢をとった。
『打て~!!』
「絶対防御~!!」
(やっぱり……)
王宮から放たれたのは、無数の火球。
一部上位魔法も含まれているかもしれない。
咄嗟に絶対防御を張って躱すが、数が尋常ではない。
「なっ!? 王宮にこのような魔術師部隊がいるとは、聞いてない!」
「違うわ。あれは、魔道具……」
容易に想像がつく事である。生活魔法の魔道具が作れるのであれば、武器を作れない訳がない。
密かに製造し、導師たちが隠し持っていたとしてもおかしくはない。
最初の攻撃は防いだものの、相手が魔道具の武器をため込んでいるとしたら、兵士同士の火力を比較すれば明らかに劣勢となる。
『なんだ、魔法が効かない!? 何をしたぁ!?』
『見ての通りよ。そんな攻撃に怯む事はないわ。観念なさい!』
『ぬぬ、ルミナス王女か……。たかが小娘一人、恐れるな、第二射、打て~!!』
魔法の名手として知られるルミナスが啖呵を切ると、シェラウドも負けじと兵に指示を出す。
(う~ん、キリがないわね……)
絶対防御を展開しながら、前に出るルリ。
「ルリ、どうするの?」
「黙らせてくる。任せて!」
『なんだ、冒険者風情が、邪魔立てする気かぁ!?』
『そう思うなら打って来なさい! ユニコーンの想いを戦いに使うとは、笑止千万!!』
女神装備、双剣を構えたルリに、魔道具から魔法が放たれる。
「氷槍展開、迎撃モード! そして、リターンエース!!」
空中の氷槍が火球を打ち落としながら、ルリが舞う。
『なっ、打ち返しただとぉ?』
『1000倍返しよ!!』
言ってみたかったセリフを吐きながら、唖然とする王宮の兵の正面まで進んだルリ。
導師シェラウドに、向き合う。
「お前は誰だ! ……何をした!」
「ルリ、冒険者ですわ! お忘れですの? 導師シェラウド様。
お招きありがとうございました!」
「なっ、クローム王国の冒険者ルリか? お前は技術者……、そんな事はいい、ここは通さぬ」
「そうはいきませんわ。ルミナス王女のご依頼により、王女を王宮までお連れしますの。どいてくださらないかしら?」
氷槍を宙に浮かべたまま、ルリがシェラウドに迫る。
しかし、シェラウドは余裕そうだ。
「くくくっ、聞けばお前はクローム王国の貴族らしいな。我々に楯突くとは、それがどういう意味か、わかるの? 引くのはお前たちだ!! さもなければ……」
簡単に道を開けてもらえるとは思っていないが、やはり一筋縄ではいかないようだ。
このままでは舌戦になり、ルリが不利。そう思った時だった。
「お待ちなさい。導師シェラウド!」
「ミリアーヌ王女! 親善大使が聞いてあきれる。逆賊に加担するなど!」
「黙りなさい! もはや議論の余地なし。貴方を拘束しますわ!」
後ろから駆け寄ってきた、ミリアとセイラ、メアリー。それに、ルミナス。
問答無用で、導師を拘束すると言い放った。
「もう、逃げ場はありませんの。大人しくしなさい。
炎弾」
「火の鳥」
見せしめに魔法を打ち上げるミリアとメアリー。
ルリの氷槍も、数を増やし、全ての兵に照準が向けられていた。
「むぐぅ……。致し方あるまい……」
ゴゴゴゴゴゴゴ
王宮が揺れる。壁が、岩が割れ、巨大な魔力が溢れ出て来た。
(あぁぁ、この展開、ラスボス登場だわ!!)
ずぅぅぅぅん
「で、でか!!」
「何あれ? ゴーレム?」
「キター、ラスボス! なぜ立てるのかわからない巨大ロボットぉぉぉ!!」
「何であんたは楽しそうなのよ!!」
なぜ動くのかが不明な程の、巨大なゴーレム。
ランダムで付与される魔道具の魔法により、偶然生まれたのだろう。
20メートルはありそうな、巨大なゴーレムの魔道具が、シェラウドの秘密兵器だった。
「ルミナス様、国王様を連れて逃げて! あと、兵士には周辺の一般人の避難を!」
「でも、みんなは?」
「ここは、私たち4人で大丈夫。むしろ、4人の方がいいわ!」
周囲の兵や一般人を巻き込まないように避難をお願いすると、巨大ゴーレムに向き合うルリ達。
「戦闘態勢!」
「「「おー!!!」」」
臆せず果敢に立ち向かう、『ノブレス・エンジェルズ』の4人であった。
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