表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

182/190

182 開戦

 魔導王国の女帝とも呼ばれる、ミラージュ公爵との会談に臨むミリアとセイラ。


 希望として、二つの条件を提示した。

 ひとつは、宿を包囲している兵の撤退。そしてもうひとつは、ルリとメアリーを含めた話し合いの場を持つ事。


 本来であれば、ユニコーンにまつわる真実という秘密を握った事で、魔導王国に脅しをかけるような場面なのだが、その秘密を王女ルミナスが公開すると言っているので、交渉のカードにはならなくなった。


 残されたカードは、魔道具の製造技術。

 ルミナスも知っているので強力な交渉材料にはならないものの、ユニコーンの角の大半は、今もルリのアイテムボックスの中だ。

 兵の撤退条件が、ユニコーンの角の譲渡であれば、十分すぎる。



「では、兵を撤退させるように働きかけますわ。わらわと共に、宿へ向かいましょう。直接乗り込めば、現場の兵に止められる恐れはありません。あなた方も一緒に入れば、外にいる事も誤魔化せるでしょ?」


「ありがとうございます」


 ミリアの提案についてしばらく考えた後、ミラージュ公爵が口を開く。

 何とか提案を受け入れてくれた形だ。

 しかも、ミリア達が外に出ていた事を誤魔化せるよう、宿の中まで連れて行ってくれるという。



「クローム王国は、魔導王国との友好を望んでらっしゃるのですよね」


「はい、もちろんです。我が国はエスタール帝国との戦渦にあります。魔導王国イルームとの友好的な関係、そして、お互いの発展が、帝国への抑止力になると信じておりますわ」


 最後に、ミリアの最終的な目的を話し、お互いにメリットのある状況を作ろうと約束すると、公爵の馬車に乗り、兵を連れ、宿へと向かう事にした。




『ルリ、聞こえる? 方針が決まったわ。今すぐメイド服で、ミラージュ公爵の屋敷前に来て!』


 近くの商業ギルの屋上で宿の様子を窺っていたルリに、セイラからの通信が届く。


「メアリー、お着替えよ。メイド服で来いって!」

「なんでメイド服? ……とか言ってる場合じゃないか。わかったわ」


 急いで着替えると、公爵の屋敷に向かって走り出したルリとメアリー。

 屋敷前、兵が整列し、馬車が出立するどさくさに紛れて、公爵の馬車に乗り込む。



「ミラージュ公爵様、お話したルリとメアリーですわ。必ずや、両国の発展のための力になってくれますわ」


「よろしくね。お嬢さん」


 軽く挨拶を交わし、すぐに馬車は出発した。

 300人もの兵を引き連れ、いわば戦争に向かう様な状態だ。

 公爵も、これから起こる事態を想定しているのであろう。





『道を開けよ!!』


 ミラージュ公爵の声が響く。

 宿の前の兵を突っ切り、馬車を進めると、メイド姿の『ノブレス・エンジェルズ』を乗せた馬車は、宿の玄関へとたどり着いた。


 公爵のみならず、国王直々のお出ましとあっては、さすがに兵士が止める事は不可能だ。

 当然、支持者である導師に報告はいっているであろうが、そんな事はお構いなく、ずかずかと馬車を進め、宿へと入っていった。




「ミリアーヌ様……? 無事戻られたのですね……」

「それで、こちらの方々は……? 国王陛下!?」


 急な展開ではあるものの、文官たちは冷静に対応を行っていた。

 しかし、何故かメイド服姿のミリア達に驚き、さらに、同行者に国王がいる事を確認すると、思わず腰を抜かしそうになる。


「セイラ、説明をお願い。わたくしは、着替えてきますわ」


 近くのメイドに話しかけると、部屋へと走り出すミリア。

 文官への説明はセイラに任せ、急いで王族らしい服装に着替える。


 そもそも取り囲まれている原因は、ミリア達が宿にいるのかどうかという疑念である。

 宿の中からミリアが顔を出せば、それで解決のはずだ。




 しかし、そう簡単な問題ではないようだった。

 公爵の兵がクローム王国兵の周囲に展開、屋敷を囲む魔導王国の兵と相対する。

 3重の輪のような状態で、屋敷の前では兵士の睨み合いが起こり、一触即発の状態となっていた。


 国王ラグマン、ミラージュ公爵、そしてニックル伯爵は、表向き、クローム王国の親善大使が本当に宿にいるのかを確認するために、自ら宿に乗り込んだ状態になっている。


 しかし、知らせを聞いた他の導師には、何かしらの事情があり、3人がクローム王国に身を寄せたように見えた。

 虐げられた王族と、後見の公爵派閥が、亡命したかのような状態だ。



「おい、これどうするのだ? 王国兵に取り囲まれてるぞ!?」

「ラグマン、取り乱すでない。これより、王家の威光を取り戻す!」


 突然の状況に頭がついて来ないのか、国王のラグマンは駄々をこねていたが、ミラージュ公爵が一喝する。


「公爵様? 何をなさるおつもりで?」


「セイラ嬢、分からぬか? 導師連中は、我々を国賊として排除しにかかってくるであろう」


 ミラージュ公爵が覚悟を決めたように話し始めた。、

 導師にとっては、王家の復興を望むミラージュ公爵の派閥は、目の上のたんこぶのような存在だ。

 これを好機と、排除を考えてもおかしくはない。

 理由などいかように作れるし、王家の血筋は探せばいくらでもいるのだから。



「ミリアーヌ王女殿下、宿周辺の兵の撤退はまだ完了しておらんが、力を貸して貰うぞ!」

「はい、何をすればよろしいでしょうか」


 着替えて戻って来たミリアとメアリーが揃うと、ミラージュ公爵が、クローム王国の使節団に力を貸すように依頼してくる。


 兵の撤退とルリ達を含めた会談が条件だが、一応宿に戻れたので、当面の課題は解決できている。もし戦闘になったとしても、『ノブレス・エンジェルズ』が戻った今、兵士ごときに負ける道理はない。



「敵は王宮にあり! これより、導師を排除し、王宮を我が手に取り戻す!」


 攻めてこられるのであれば、いっそこちらから攻め上がろう。

 実に潔い作戦に、全員で賛同する。


「宿から出ると同時に、我が兵が敵兵を抑える。その隙に、精鋭のみで王宮へ向かう。

 同時に、各貴族、そして結社に連絡を入れよ。王宮の前で合流だ」


 ミラージュがテキパキと指示を出すと、側近たちがすぐに動き出した。

 セイラも、近衛騎士団の中から精鋭を選び、宿の警護に残る兵と、一緒に王宮に向かう兵に分ける。


 ルリ達も、戦闘用の装いに着替えると、準備は整った。




「いいこと。この戦いでの負けは、クローム王国が魔導王国と敵対することにつながるわ。

 全力で行くわよ」

「絶対に勝ちましょう。勝って、ルミナスに王権を取り戻してもらいましょう」

「「「おー!!!」」」


 戦闘では何の役にも立たない国王ラグマンを護衛する形で、『ノブレス・エンジェルズ』が配置につく。



「ねぇ、ルリ、ちょっと遊んでみない?」

「いいわよ。何するの?」


 戦闘開始の直前、ルミナスが耳打ちしてきた。

 それぞれの強さを知っているので、圧倒的な戦力差を前にしていても、まだまだ余裕だ。


「戦闘は少ない方がいいからね」


 ルミナスが魔法を唱えると、天候が一気に変わり、周囲に雪が降りだす。


 パキパキパキ


 それに合わせるように、ルリが一体の地面を凍らせると、魔導王国の兵は身動きが取れなくなった。


「面白そうね、わたくしも混ぜてくださいな。

 氷弾(アイスバレット)! そしてプラズマ、放電! さらに、旋風(ストーム)!」


 激しい雷と暴風、そして、氷の礫により、局地的に猛吹雪が吹き荒れた。




「ひぃぃぃぃ」

「あなた達……」


 余りの惨状に悲鳴を上げ、生気を失うラグマン。

 そして、作戦など必要なかったのではないかと、もの言いたげな目でルリ達を睨むミラージュ公爵。


「手加減しましたから、大丈夫ですわ」


 そして、一応、死人は出ないように加減して魔法を放ったと、満足げなミリアがいるのであった。

 

早速の評価&ブックマークを、本当にありがとうございます。

ご意見、ご感想など、お聞かせいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ