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181 真実と交渉

 魔道王国イルームの王都に戻ったルリとメアリーは、冒険者カルドの案内で、宿の近くにある商業ビルの屋上に向かっていた。


 ビルといっても4階建てのそう大きなものではないが、高い建物の少ないこの世界では、屋上まで上がれば辺りが見渡せる。


「ここの店主は冒険者と懇意でな。屋上を解放してくれてるんだ。さぁこっちだ」


 屋上からは、ちょうど宿屋の前の通りが見え、相変わらずの睨み合い状態で兵士が宿を囲んでいる様子が分かる。


絶対防御(バリア)張っておく?」

「いや、しばらく様子見しましょう。戦闘になったら、即止めに入れるように……」


 絶対防御(バリア)で宿全体を覆う事を提案するが、メアリーの判断は、余計な刺激はしない事だった。

 大人しく、ミリア達の交渉を待つことにし、戦闘態勢をとりながら陰に身を潜めるルリとメアリー。




 一方、導師の元に向かったミリア達は、待ち合わせ場所の飲食店へと急いでいた。

 冒険者ギルドマスターのアプトロが遣いを出し、導師に緊急の会談を求め、指定された店だ。


 監視されている可能性もあるので表立って訪問するのは避け、如何にも密会に使われそうな、裏通りの隠れ家的な店に入ると、ルミナス、ミリア、セイラは、導師の到着を待っていた。


 秘密結社モノケロースと懇意にしているという導師は、ミラージュ公爵の派閥として代々仕えてきた伯爵家の次男で、名をニックルというらしい。


 経済学者として活動しており、魔道具を国外に輸出することが、魔導王国の発展につながるというのが持論。

 魔道具を独占しようとする導師たちの中、異論を唱えているそうで、その思想から、モノケロースともつながったと聞かされた。


(最初からこの導師に接触すればよかったのでは……?)


 などと考えてしまうセイラではあるが、今更である。

 それに、数々の冒険をしたからこその今の出会いなので、後悔する程ではない。



 しばらく待つと、小柄な、人の好さそうな、中年の男性が入ってくる。

 アプトロを見つけ、近づいて来た。


「ニックル様、急なお呼び出し、申し訳ございません」

「なに、ルミナス様がご帰還されたと聞いては、最優先で動くさ」


 ミリア達を見渡し、一人の女性に目を止める。

 もちろん、ルミナスの顔を見つけたからだ。


「ルミナス王女殿下……。ご無沙汰しております。

 と言っても、覚えていらっしゃらないでしょうな。幼少の頃にお会いした依頼ですので。

 ……。大きくなられて……」


「ニッケル伯爵ですね。ルミナスです。先ほど王都に戻りました……」


 導師……ニッケル伯爵との密談は、ほんの数分で終わる。

 要件は、ミラージュ公爵との取次ぎなので、話す事は多くはない。



「詳細は、公爵様のいらっしゃる場で話させてください」


 ルミナスが本人である事を確認すると、ニッケルはすぐに行動に移ってくれた。

 ミラージュ公爵の元を訪問するために。


 さらに、隣国の王族という身分のミリアとセイラがいる意味、つまり、クローム王国の使節団が魔導王国と臨戦態勢にあることの解決を図りたいという意図を組み、同席させてもらうよう取り計らってもらう。


 これまでの経緯などは、公爵の屋敷で話す事にし、すぐに移動する事にした。



「ミリア、あの服の出番じゃなくて?」

「あはは。そうなるわよね……」


 以前、宿で着せ替えショーを開いた服装、メイド服。

 使う事もあるかも知れないと、セイラの収納に仕舞ってあった。


「なるほど……。人の目を欺く……。準備がよろしいようで……」


 最初からメイド服のセイラはともかく、王女であるミリアのメイド服が準備されている事に驚きつつも、公爵の屋敷を訪れるのであれば、ニックル伯爵の従者を装うのは正解だろう。

 すぐに、店から出ると、伯爵の馬車に乗り込むのだった。


「アプトロさん、ありがとうございました」

「モノケロースの方への情報共有も致しますので、集合場所など決まりましたら、宿に向かったルリに伝えてくださいね」


 顔の知れた冒険者ギルドマスターが同行するのはリスクが高いので、ここでお別れ。

 伯爵と共に、公爵の屋敷へ向かう。




「ここから先は、言動に注意してください。どこで誰が見聞きし、他の導師に見つかるとも限りませんからね」

「わかりましたわ」


 幌で隠れた馬車の中とは言え、追放したはずの王女の帰還が知られれば、他の導師が先手を打って何か仕掛けてくる可能性もある。


 慎重に馬車を進め、ミリア達は、ミラージュ公爵の屋敷へと到着した。





『げ、国王様がいらっしゃる……』

『ちょっと、今は我慢なさい……』


 公爵の屋敷で応接室に入ると、セイラに耳打ちしたミリア。

 爽やかな笑顔を浮かべミリアを注意するが、セイラも目が笑っていない。


 魔導王国入りしてすぐに謁見し、散々な印象を持った国王ラグマン。つまり、ルミナスの弟君が、そこに居た。


「ラグマン、ラグマンなのね? 大きくなったわね……。でも……酷いわね……」

「お姉様、なのですか? どうして? どうしてここに……」


 突然呼ばれ、国王ラグマンも事情が分かっていないらしい。

 突然現れた姉の姿に目を丸くしている。


 ルミナスは、感動の再開の場面の筈なのだが、あまりにも弟の姿が酷く、幻滅気味だ。

 もしこの場にルリがいれば、美女と……野獣……? などと言っていたかもしれない。


「ルミナス……」


 ただ一人、感動の涙を浮かべているのはミラージュ公爵だった。連れ去られた娘が、やっと帰って来たに等しい場面。思わずルミナスを抱きしめると、二人で言葉を交わしている。



「さて、説明していただけるかしら。ルミナス王女の帰還に、クローム王国のミリアーヌ様とセイラ様が同行している。

 お二人は、今、宿で療養中と伺っていますのに……」


 感動の再開はすぐに終わり、本題に入る。

 積もる話はあるものの、今は緊急事態だ。ミリア達としても、そうしてもらえるとありがたい。


「ラグマン陛下、ミラージュ公爵、それにニックル伯爵。お時間をいただき、ありがとうございました。時間もございませんので、簡潔にお話させていただきます」


「ミリアーヌさん、少々お待ちいただけるかしら。わたくしから、皆さんにひとつ、質問をさせていただきます」


 ミリアが説明を始めようとした所で、割って入ったのはルミナスだった。

 ラグマンとミラージュ、ニックルを見つめて、語り始める。


「昔、この国には、ユニコーンの角がもたらされ、王国は発展を遂げました。その事はご存知ですね?」


「待ちなさい。ユニコーンの事は国家機密のはず。ミリアーヌ王女の前でする話なのですか?」


「はい、叔母様。むしろ、彼女たちの前だからこそ、出来る話です」


 いきなりユニコーンの話題になり、制止しようとするミラージュだが、ルミナスの決意を感じると、話を続けるように促す。

 ラグマンとニックルも、ユニコーンの角が使用されている事は、知っているようだった。


「質問ですが、ユニコーンの角がどのようにもたらされたのか、どう理解しておりますでしょうか?」


「そりゃ、昔の王女が生贄にささげられて、ユニコーンから与えられたのだろ。今更何を言ってるんだい? そんな話の為に呼ばれたのか?」


 最初に答えたのはラグマンだった。今更の質問に、少し苛立ちが見える。


「まさか、王女がユニコーンを討伐して奪ったという噂が真実だとでも? それは、悪質な噂にすぎんぞ」


 ニックルは、アプトロが行っていた噂を知っていたらしく、その話を持ち出しつつも否定する。

 ミラージュも同意見のようだ。


「確かに、そんな噂話がある事は聞きましたわ。でも、それは真実ではありません」


「だったら、あなたは何を言いたいの? 現に、ユニコーンの角は今も魔力を宿している、何も問題がないのでは?」


「叔母様。おっしゃりたい事は分かります。ただ、その場合、ひとつ疑問が残りますわよね。なぜ、ユニコーンは、姿を見せなくなってしまったのか……」


 ルミナスが指摘すると、ミラージュもニックルも反論が出来なくなる。

 その疑問は、魔導王国では謎とされたまま。真実は闇の中になっている話題だ。


「確かに、王女は生贄として捧げられました。そして、ユニコーンから角を賜った。しかし、王女は生きていた。生きて王都に戻ったのです。

 そして、王都の戻ったのち、王家の陰謀によって殺された。それが真実です」


「「「なっ!!!」」」


 真実を伝えると、狼狽えるラグマン、ミラージュ、ニックルの3人。

 何の根拠も無くそんな事を言われても、受け入れ方がわからない。


「しかし、ルミナス? どうして、それが真実だと言えるのですか?」


「昨日、ユニコーンと会い、真実を聞いてきました。これが証拠です」


 ルミナスの合図で、セイラがユニコーンの角を収納から取り出す。

 まだ真新しい角を見せられては、真実と認めざる負えない。


「まさか……」

「嘘だ! そんな事あるはずがない!」


 そこから先は、ミリアとセイラも加わり、真実の詳細、それを知るに至った経緯を説明する。




「……。その結果、わたくしはミリアーヌ王女たちに助けられ、今ここにいる訳です」


「それでルミナスは、真実を公表すると?」


「はい、叔母様……」



「わかりましたわ。少し考えさせて……。

 それで、クローム王国としては、今の話をネタに、我が国に何を要求するつもりですの?」


 真実を知った女帝、ミラージュ。

 ひとつの理解を得た所で、話の矛先をミリアに向ける。


 魔導王国の裏事情を隣国の王族が知っているという事実は、魔導王国としては歓迎できない。ただ、その情報が公開されるとしたら、魔導王国としては痛くも痒くもない話になる。


 ミリアの本心を知ろうというミラージュが、折れるつもりは無いという顔でミリアを睨むが、ミリアは表情を変えずに返答した。


「知り得た情報を元に脅迫する気はございませんわ。ただ、お願いがございますの。

 まずは、わたくしの兵が、今にも戦渦に巻き込まれようとしてますので、止めていただきたい。それと、会っていただきたい人……冒険者がいますの。それを快諾いただければ、今後のみなさまの行動に、可能な限りの協力をさせていただきますわ」


 ミリアとミラージュの駆け引きが始まる。

 提示した条件は、宿の兵の撤退と、冒険者……ルリとメアリーを含めた会談の場を持つ事。ただそれだけ。


 無駄に戦争を引き起こす訳にもいかず、兵の引き際を探っていた魔導王国としても、受け入れて問題がなさそうな簡単な条件だ。


 お互いの国家の行く末を左右しかねない、重要な話し合いが、今、始まった。


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