179 真実
魔導王国の王女ルミナスを伴い、ユニコーンの里がある山に到着したルリ達。
一気に山を駆け上がる。
「この先に里があるわ。たぶん、先方はもう気付いているはず……」
案の定、周囲の雰囲気が変わると、目の前にユニコーンが現れた。
『おかえり。早かったね』
「ご依頼により、魔導王国の王女、ルミナス様をお連れしました」
『うん。ありがとう。君がルミナスさんか。……うん、いいにおいだ』
いきなりにおいを嗅ぐユニコーンに驚くルミナスと、満足そうなユニコーンのヨーク。
お目当ての人物に会えたようだ。
「ヨーク様。わたくしを探してくださったそうで、ありがとうございます」
『元気そうだね。よかった。心配してたんだよ。愛し子に何かあったらってね』
「愛し子……。ルリからもそう聞きましたが、本当なのでしょうか……」
『もちろんだよ。僕たちはずっと、魔導王国のヒトを見守ってるんだ。君の事もね』
「でも……わたしは、私たちは、あなた方ユニコーン様を……」
『何を言ってるのかな? 昔の王女の事かい? 彼女との時間は、楽しかった……』
真実をヨークから直接聞き、ユニコーンの悲しみを知り、先祖の悪行に謝罪する。
ユニコーンの愛し子を先祖が、王家が亡き者にした。
その事件の詳細まではルミナスも聞かされてはいなかったらしく、衝撃だった。
「それなのになぜ。どうしてユニコーン様は、私たちをお守りくださるのですか?」
『それが僕たちの役目だからね。女神アイリス様に授かった、僕たちの役目だから』
ユニコーンとしては、当然の事をしているだけである。
そう言う存在として女神に産み落とされた。それだけの事だ。
ただ、ルミナスは、ひとつ引っかかる事があった。
「あの? 女神アイリス……?」
『アイリス様がどうかしたのかい?』
魔導王国は全体として公聖教会の影響が強く、さらにシスターとして長年を過ごしてきたルミナスは、正統な女神はデザイアだと信じていた。
アイリスは、堕落したデザイアの姉という事になっている。
『デザイア様かぁ。ヒト族の間では、そういう風に伝わってるのだねぇ。否定はしないよ。僕たちが知らないだけで、アイリス様に妹がいてもおかしくはないからね。でも、ひとつ間違って欲しくない事があるかな』
「それは何ですか?」
『アイリス様は、今でもこの世界を想い、恩恵を与えてくださっている。そこに居るルリ、彼女にアイリス様の加護がついているのも、その証拠だよ』
ルリの女神との関わりを聞き、ルリに振り返るルミナス。
目の当たりにしたルリの異常なチカラも、女神の愛し子だというのなら納得だ。
ユニコーンの話では、世界には多くの女神様がいらっしゃるそうだ。それに、人々の祈りが、架空の女神を実在のものとして降臨させる事すらある。
だから、女神デザイアが存在しても、特に問題はない。ただ、女神アイリスを蔑むような事は避けるように言われた。
「間違ってた……のですね」
真実を知り、ショックを隠せないルミナス。
王族として教えられた過去の出来事が、都合よく誤魔化されたものだった。
王国に裏切られ、すがる思いでやっと居場所をつかんだ教会も、どこまでが本当かわからなくなった。
「わたくしの思慮が浅かった……。もっと深く考えれば、疑う心を持てば、わたくしも、弟も……」
『泣かないで……ルミナス。君はよく頑張ってるよ。でも足りないというのなら、もう一度頑張ればいい。君には、僕たちがついている。そして、ほら、こんなに頼もしい仲間もいるんだから』
そう言って、ルリ達の様子を見渡すヨーク。
実際、そうそうたる能力の持ち主たちだ。ルミナスも、少し勇気が出た様子。
「そうですね。もう一度立ち上がる必要があるようです」
「ルミナス様、『ノブレス・オブリージュ』ですわ! 民の為に、立ち上がりましょう」
ミリアがルミナスを励まし、ルミナスは決意を固めたようだ。
「王国に参りますわ! 真実を明らかにし、間違いは正す。まずはそこからです。
お手伝い、お願いできるかしら?」
「もちろんです。一緒に参りましょう!」
このルミナスの決断は、ルリ達にとっても朗報だ。
もし、ルミナスが魔導王国に戻り、国政に関わってくれるのであれば、親善大使としての役目も同時に達成となる。
手伝わない理由はない。
『元気になってくれて良かった。でも、少し待ってね。君たちには伝えなくてはいけない事があるからね』
「そうだ、報酬をいただいてないわ!」
ルリも思い出したようだ。
王女救出の報酬、ユニコーンの角。
『本来は癒しのチカラしかないのだけどね。君たちは変わった使い方をしているだろう?』
「魔道具の事ですね。今よりいい使い方があるのですか?」
『そう。今のままでは不安定だろうからね。僕たちのチカラを、危険な使い方はして欲しくないんだ』
魔道具は、ユニコーンの角に魔法を流す事で、魔石に魔法を付与する。ただ、付与される魔法に不安定さがあり、思った通りの魔道具が簡単に作れないのが、魔道具の難点であり、広く出回らない原因でもある。
『この布で、角を包んでやってみてごらん。魔力が安定するはずだよ』
ユニコーンから渡されたのは、真っ白な布だった。ユニコーンの毛を編んで作った布。サラサラとした手触りが心地よい。
(どうやって編んだんだろう……)
そんな疑問を感じながらも、角を布でくるんで、手持ちの魔石に魔法を流してみた。
魔石に魔力が流れるのが分かる。
それからは、しばらくユニコーンの角を使った魔法付与の練習をしたルリ達。
王都にいったら職人に教える必要もあるので、真剣だ。
『いいかい。約束してよ。このチカラを、決して悪用してはいけない。世界の発展、幸せのために使うんだ』
同じ約束を行い、王国に角を持ち帰ったかつての王女は、奇しくも殺されてしまっている。
ヨークが心配そうに、ルリ達に声を掛ける。
「約束しますわ。民が笑顔で暮らせる世界へと、必ず導いてみせます」
ユニコーンに誓いを立て、里を出る事にしたルリ達。
角と布は、合計10セット貰った。
ルリ達が1人1セットずつ持ち、残りは職人に預ける予定だ。
『ヨーク様、お世話になりました。わたくし、これより魔導王国に入り、民に真実を伝えます。その結果、また昔のような、ユニコーン様と共に歩む豊かな世界へと、進んでいけるでしょう。
最初は、混乱もあるかも知れません。それでも、乗り越えてみせますわ』
ルミナスが決意を伝え、ルリ達は里を後にした。
行先は、もちろん魔導王国の王都。ルリ達の脚力であれば、明日の朝には到着できるであろう。
すでに王都を離れてから、3週間近くが経過しており、その間の動きが気になる。
それに、替え玉として置いてきた少女たちの様子も心配だ。
「急ぎましょう」
「そうね。何も起きてなければいいけど……」
3週間にもわたり、替え玉がバレずにいてくれるのは、ほぼ奇跡に等しい。
無事を祈りつつ、王都に向かう。
その王都では、今まさに、一触即発の状況となっていた。
「ミリアーヌ様はいつお戻りになるのだ? もう誤魔化しきれないぞ」
「モノケロースの方々が探してくれてはおりますが、公聖教会に向かったという情報以降は音沙汰が……」
「兵が宿に突入してくるのも時間の問題です。いっそ降伏した方がいいのではないでしょうか」
「それはできん。クローム王国が弱みを見せれば、確実に付け込んでくるであろう。我々が粘って交渉するしかない」
ミリア達との会談を申し入れたものの、一向に出てこない為、疑いを持った魔導王国。
文官たちの交渉にも限度があり、ついに兵力をもって、クローム王国の兵が滞在している宿を包囲していた。
突入されれば、替え玉の言い逃れは困難であろう。
交戦するにも、兵は100人。敵地ど真ん中となり、相手の兵力は無限等状況だ。
文官たちは、交戦か降伏か、究極の選択を迫られていた。
「不本意だが、兵には籠城の体制をとるように伝えてくれ。ただし、一切の攻撃は禁止する。もし、魔導王国が攻め込んできた場合は、抵抗せずに降伏するように」
ミリアの帰還まで、何とか宿を、秘密を守り切る。
文官たちもまた、必死の戦いを続けているのであった。
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