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177 災害

「策を授けますわ」


 公聖教会の総本山、修道院隣接の畑で、不敵に笑いながら語り掛けるジェーン。

 外で待機しているミリア達が交戦中と分かり、ルリは素直にジェーンの策に乗ろうと考えた。


「お願いします。では、一緒に脱出してくださるのですね」

「えぇそうよ。混乱に乗ずれば、お互いの立場も守れるかもしれませんし……」


 頭脳明晰で魔法に秀でた魔導王国の王女ジェーン。

 味方に付けば、これ以上の戦力はない。



「ルリ、お仲間と連絡がとれるのよね。これから言う事を伝えてくれる?」

「はい、王女ジェーン様!」

「はぁ……。わたくしはルミナス。ルミナス・フォン・イルーム。

 王女なんて昔の話だし、ジェーンは教会での名前。外に出るのだから、ルミナスって呼んでくれるかな?」


 少しは打ち解けてくれたのであろうか。本名を教えてもらったルリ。

 お互い名前が複数あって呼びにくいので、ルリとルミナス、その名で呼び合う事に決める。


「これから、大雨を降らします。それこそ災害レベルの。

 お仲間には、今いる場所から北に3キロほど入った山中、見晴らしのいい場所に、一度退避するように伝えてください」


 現在、ミリア達は、教会東側の森で、魔物と交戦しながら追っ手の兵から逃げている。

 北に向かえば切り立った山があり、登れば辺りを一望できるであろう。


「探知の範囲外に出てしまうかもしれませんが、よろしいですか?」


「一時避難ね。水害に巻き込まれたくないでしょ。そうね、3時間くらいしたら、様子を見ながら教会に近づくといいわ。ちょうどその頃、わたくし達も脱出を行っている最中でしょうから」


 ルミナスの頭には、既にシナリオが出来ているらしい。

 大雨の水害、3時間後の脱出……。謎な部分は多いが、なんとなくストーリーは想像できる。

 言われた事を伝えようと、セイラとの通信を開くルリ。



『セイラ、聞こえる? 交戦中みたいだけど、大丈夫?』

『ルリね。こちらは大丈夫よ。魔物と戦ってたら、兵に見つかっちゃったの』


 ミリアがプラズマを使うほどなのだから、強い魔物であろう。

 探知しながら潜んでいるとは言え、教会の近くに潜み続ける為には、交戦が避けられない状況もある。


『セイラ、今から言う事を聞いて! まずは、魔物を突破して、北に逃げてちょうだい』

『北? 教会から遠くなったら、探知や通信が届かなくなるかもしれないわよ』

『大丈夫。ちょっとの間だけ、避難しておいてほしいの。移動場所と時間は……』

『何かするのね。分かったわ!』


 ルミナスから言われた事をシンプルに伝えると、戦闘中という事もあり、詳細まで語らずに通信を終える。

 信頼関係があるからこその為せる業だ。




 その間に、ルミナスは何か魔法を詠唱していた。

 長い詠唱文。魔力が空に集まっていくのが分かる。

 ルリ達のように無詠唱という魔法の行使ではないが、間違いなく高位の魔法だろう。


(大雨を降らすって言ってたけど、天候を操る魔法なのかしら……?)


「準備できたわ。濡れちゃうから、中に入りましょうか」


 そう言うや否や、空に雲が集まり、雨が降り出した。

 この世界では珍しい、集中豪雨。突然の雨に慌てるシスターたちの姿が見える。

 もちろん、この雨がさらに強まり、教会にとって未曾有の災害になる事など、この段階で知る者はいない。




「では、シスター・ラーズリ、そろそろ昼食ね、食堂へ参りましょうか」

「はい、お姉様」


 何事もなかったかのように修道女の演技に戻ると、ルリとルミナスは食堂に向かった。

 外は大雨、薄暗い食堂。不安な雰囲気の中、とりあえず食事をとる。



『大変です! 雨が地下倉庫に流れ始めたそうです』

『全員、手分けして窓を閉めてください。それから、水が入りそうな場所には砂袋を積むのです』

『『『はい』』』


 食事が終わって午後の作業に入る頃、雨の被害が出始めたようだ。

 シスターたちは、バタバタと雨の対処に走り出した。


「お姉様、私たちはどこへ?」

「食糧倉庫へ参りましょうか。濡れたら大変ですわ」


 雨を降らせている張本人。これからどんな事が起こるのか、頭の中にあるのだろう。

 ルミナスが移動先に選んだのは、食糧倉庫だった。


『ひとつでも多くの食材を、2階の部屋に運ぶのです。みなさん急いで!!』


 倉庫も、多くのシスターで慌ただしくなっていた。

 猛烈な雨が建物を叩きつけ、今にも窓を割って入ってきそうだ。


「さぁ、次いきますわよ」


 少し手伝いをしただけで、ルミナスは次の場所に行くと言った。

 歩きながら、小さな小瓶を嬉しそうに見せてくる。


「これ、美味しい調味料ですの。これだけは確保しておきたくてね……」


 少し舌を出して笑うルミナス。

 何の事はない、脱出前にお気に入りの調味料を確保しただけだった……。


(いい感じに時間もつぶれたし、まぁいいか……)


 ちょっとした、ルミナスの愛嬌のある行動が見れ、ルリも満足だ。





 どごぉぉぉぉん


『『『きゃぁぁぁぁ』』』


 離れた場所で大きな音がしたと思ったら、悲鳴が聞こえてきた。

 その様子を見て、ルミナスが走り出す。


 裏手の轟音は、土砂崩れだったらしい。

 満足げなルミナス。大雨で浸水と土砂崩れ、混乱の中脱出する計画なのだろう。

 ここまでくれば、ルリもこの後の出来事が想像できる。


「始まったわよ。1時間後に脱出するわ。わたくしから離れない事、いいわね」

「はい。でも、どうやって城壁の外へ?」

「見てなさい。もうすぐ、道が出来るから」


(道が出来る? 災害時の緊急通路とかあるのかしら?)


 何が起こるのかワクワクしながらルミナスについて走るルリ。

 するとルミナスは、周囲のシスター達に声を掛け始めた。


「みなさん、ここは危険です。山から離れてください。急いで避難しましょう」


(なるほど。人払いって事ね。人がいなくなって、堂々と歩けるようになる、だから道が開けるのかな?)


 ルミナスの企みを想像しながら、ルリも探知で周囲の様子を窺っていた。

 既に、大量の雨により、床が浸水し始めている。そんな中での土砂崩れ、そこにルミナスが避難を呼びかけるものだから、多くのシスターは迷わず山から遠い、南の門へと走っていったようだ。



「ルミナス様、今なら人目につかず、脱出できそうですね」

「全く、気が早いわね。もう少し待ちなさいって」


 ゴゴゴゴゴゴゴ


 そう言った時だった。

 激しい地響きが鳴り、轟音が響く。


「さて、行くわよ」


 道が開ける。それは、文字通りの状態だった。

 教会の東側で発生した巨大な地滑り。

 それは、城壁を破壊し、建物をいくつか、飲み込んでいた。



「わたくしと貴方は、雨の対処をしている最中に、地滑りに遭遇しましたの。

 その結果、慌てて教会の外に逃げ出すのですわ」


「それって、死んだ事にされませんか? 戻ってくる時、大変じゃありません?」


「大丈夫ですわ。これなら、復旧に数か月はかかります。収まる頃にひょこっと戻りましたら、奇跡の生還者という事で益々神聖視されますわ」



(そうかなぁ。もっと早くバレる気がするけど……。何より、ここまでしなくても、外に出るなら最初の大雨だけで十分なような……)


 やり過ぎてしまう魔術師がここにも居たかと、ルミナスの顔をまじまじと見つめるルリであった。





 その頃ミリア達は……。

 山の中腹で大雨を逃れると、教会の様子を窺っていた。


 そろそろ約束の時間なので教会に近づこうとした時、前方の山が大きく崩れ落ちる。


「うわぁ、たいへん!」

「ミリア、何かした?」

「違うわよ! ルリの魔法かしら?」


 教会の東側、数百メートルを押し流す、激しい土砂崩れを目の当たりにして、純粋に驚いていた。


「これ以上近づくのは危険だわ」

「ルリ達が来るのを待ちましょう」


「でも、あれはやり過ぎよね……」

「山、崩しちゃうとか……」


 犯人が誰であれ、自然災害で無い事は間違いない。

 ここにも、呆れる少女が3人。ただただ、立ち尽くすのであった……。


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