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176 説得

「わたくしは、自分の意志で教会におりますの」


 せっかく見つけた魔導王国の王女の言葉。

 公聖教会の総本山、修道院隣接の畑で、王女であるジェーンから告げられた言葉に、ルリは唖然としていた。


「王女様? 戻りたくないとはどういう事ですか? 導師の憚りで、教会に連れてこられたのでしょ?」


「言葉通りですわ。経緯はどうあれ、ここが気に入ってますの。それ以上でもそれ以下でもありませんわ」


 ジェーンが自ら望んでここに留まっている事は間違いなかった。

 王女を見つけさえすれば、後は連れ出すだけと考えていたルリにとっては、思わぬ誤算だ。

 もし本気で外に出たくないというのであれば、説得する必要がある。



解呪(かいじゅ)解毒(キュア)!」


「ですから、洗脳されても毒に侵されてもいませんわ。それよりあなたは何者ですの?」


 わざと声に出して魔法を唱えるが、とくに変化はない。

 むしろ、冷静に対処される。


「Cランク冒険者、ルリです。王女様の救助に参りました」


「冒険者ねぇ。それ以前に、貴方も貴族でしょ? 雰囲気でわかるわ。誰の差し金? 反王政、あるいは導師に反対する勢力の貴族の方なのかしら?」


「どちらでもありません。私はリフィーナ・フォン・アメイズ、クローム王国アメイズ子爵家の娘です」


「ふ~ん。クローム王国の……。それにしても、リフィーナで、ルリで、ラーズリなのね。ややこしい方ね。

 まぁいいわ。それで、クローム王国の貴族がなぜ私を救助するのかしら?」


 ジェーンの疑問は当然である。

 冒険者が依頼を受けたと言えばそれまでではあるが、他国の貴族が、わざわざ危険を冒してまで接触してくるには、それなりの理由が必要だ。


(そう言えば、何で王女を救出するんだっけ……?)


 そもそもルリ達の目的は、魔導王国と友好関係を結び、エスタール帝国との戦争に備える事。

 さらに、魔道具の流通が円滑になれば、尚良し。

 ユニコーンに頼まれたので救出作戦を実行しているが、友好関係を結ぶべき導師がわざわざ追放した王女を連れ帰るなど、本来は愚の骨頂である。

 導師にとっては、敵対行為に等しい。


「ユニコーンの依頼です……」


「はぁ? 誤魔化すにも他に言いようがあるでしょうに。意味がわからないわ。

 いいこと? 正直に答えなさい。場合によっては、不審者として貴方を通報する事もできますのよ」


 正直に答えたルリではあるが、当然信用されるはずがない。むしろ怒らせたようだった。

 通報されては困るので、慎重に言葉を選びながら経緯を話す。



「クローム王国の親善大使が何をやってますの? 友好が遠のくとは考えませんでしたの? しかし、ユニコーン……。信じがたいですわね……」


「でも、本当なのです。そして、シスター・ジェーン。貴方も、昔の王女様同様に、ユニコーンに愛された人だと……。

 ユニコーンの里に、一緒に行ってはいただけませんか? その先の行動は、私は口出しいたしませんから……」


 ユニコーンと会えば、考えも変わるかもしれない。

 それに、よくよく考えてみれば、依頼は里に連れて行く事であり、その後、王女が魔導王国に関わるかどうかは、王女次第なのである。


「信じるかは別にして、要件は理解したわ。わたくしが、愛し子……。考えた事もなかったわね。

 でも、どうするつもり? ここからは出られないわよ」


 少し前向きになってくれたジェーン。

 ユニコーンに愛し子と言われて、照れてるようだ。


 とは言え、問題は教会からどうやって出るのか……。

 外出が認められるわけはなく、正規に出るのは不可能に近い。


「夜にこそっと脱出するのは、いかがですか? 幸い、外からの警戒は厳しいですが、中からの警備は薄そうですが……」


「嫌よ。抜け出したら問題になるわ。戻ってこれないじゃないの」


「そんなに、ここの生活は良いのですか?」


「えぇ、最高よ。つまらないしがらみもなく、悠々自適な生活。たまに治癒をすれば感謝される。今のわたくしは、幸せなの」


 確かに、治癒の魔術師の待遇は良さそうだ。

 軟禁状態ではあるものの、生活に不便はなく、規則さえ守れば自由だ。

 実際暮らしてみると、快適なのかもしれない。


 また、ジェーンにとって、王女という肩書は、窮屈でしかなかった。

 魔導王国にいれば、確実に政治利用される肩書。

 他国に移ったとしても同様であろう。教会という特殊な環境を除けば……。




「今の魔導王国を、どうお考えですか?」


 話の行き詰まりを感じ、話題を変えるルリ。

 生き方は人それぞれなので、幸せというジェーンを無理に連れ出すことは出来ない。

 しかし、外の出る理由があれば別だ。心変わりもするかもしれない。


「導師に牛耳られたイルーム……。内情は、酷いのでしょうね……」


「私の仲間が、弟さん……現国王にお会いしてますの。状況、気になりませんか?」


「ラグマンと会ったのですか? 元気にしてますでしょうか?」


「……。自分の目で、確かめてはいかがでしょうか……。王女殿下が不在になった事で、ご家族がどのような状況になっているのか……」


 国王ラグマンといえば、ミリアが激怒した相手である。

 碌な生き方をしていないのは明らかだが、境遇を考えるとかわいそうな人でもあった。

 情に訴えればと、弟の話題を出すと、ジェーンは思う所あるのか、遠くを見つめている。




「もう、長く、会っておりませんの。何度も、忘れようとしたのですが……」

「家族の絆って、そう言うものでは? 忘れられる訳なんて、ありませんわ」


 泣き落とし作戦は、少し効果があったらしい。

 ジェーンの虚ろな目には、きっと家族との思い出が映っているのであろう。


「一度、会いに行きませんか? 愛するご家族に……」


 とどめのセリフ。ルリのクリティカルヒット!

 ジェーンの心が揺らいだようだ。


「しかし、外に出る許可など取れるでしょうか……」

「大丈夫ですわ。何とかなります! 信じる者は救われる、ですわ!」


 何の根拠も無いが、自信満々な時のルリの言葉には、何故か重みがある。


 直接届け出た所で、外出許可が下りるはずがない。

 黙って出ていけば、後々問題になる。

 となれば、書き置きだ。手紙を残して去る。それなら少しは、バレても情状酌量の可能性が残る。



「わたくしは、長年勤めた信頼があります。貴方はどうしますの? 誰がどう見ても、貴方に罪が及びますけど……」


 このタイミングで2人が抜け出せば、確実にルリが疑われるであろう。

 書き置きに「休養の為」などと書かれていた所で、関与したと思われるのは当然だ。


「私は、もはやいろいろと素性がバレてますから。この際、真っ向から戦うしかありません。教会に侵入した時点で覚悟しましたので、気にしないでください!」


 アメイズ領は、幸いにも、公聖教会の影響力が薄い。

 子爵家を発展させたアメリが女神のような存在で、信仰を集めている為だ。

 さらに、アメリの生まれ変わりかとも思われているルリが『白銀の女神』などと呼ばれた為、教会の影響力はますます下がっていた。


 教会としては、信仰の対象にもなっているルリを公聖教会の一員にする事で、アメイズ領での影響力を高めたいと考えているのだが、そううまく事が運ぶはずはなかった。



「ルリ、貴方の覚悟は分かりました。一度くらい、口車に乗りましょう。

 ただし忘れないでくださいね。イルームに戻るつもりはありません。状況次第では、弟を連れて教会に戻る、それがわたくしの希望です。よろしいですわね」


「はい。ユニコーンの願いは、あなたの幸せです。

 今も幸せなのかもしれませんけど、ご家族とお会いになって、そして、ユニコーンとお会いいただけば、もっと楽しい未来が広がると思います。

 その後の生き方に口を出すつもりはありません。だって、自由なのですから」





 話始めて、一時間は経っただろうか。

 草むしりをしながら、シリアスな会話を行ったルリとジェーン。外に出る事を了承してもらい、今夜にでも決行しようと、作戦の詰めを行っていた。


 その時である。

 遠くの空に、激しい稲妻が光る。


(ミリアのプラズマ!?)


「シスター・ジェーン、ちょっとごめんなさい。何かあったみたい……」

「いいわよ。お友達が戦闘中のようね」


 慌てて探知を広げるルリ。ジェーンも、探知できているようだ。


 セイラ達の場所を捉えると、周囲に魔物の群れ。

 逆方向には複数の人の反応もある。


(魔物と兵に挟まれてるのかな? 大丈夫かな……)


 その辺の魔物や兵士に遅れをとる事はないであろう。

 それに、ルリが助けに戻っては、せっかくの侵入作戦も台無しだ。

 心配だが、ここはミリア達に任せるほかない。


「助けに行くの?」

「あ、いえ、私の仕事は、貴方を連れて行く事ですので……」

「そう。だったら、策を授けようかしら。うふふふふ」


 容姿端麗、頭脳明晰のうえ、魔力に秀でた王女が、不敵に笑う。

 策を聞こうと、真剣な顔で、ジェーンを見つめるルリであった。


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