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175 王女探索

 公聖教会の総本山に潜入し、いろいろあって入浴中のルリ。

 ルリを救出すべく外で待機中のミリア、セイラ、そしてメアリー。


 魔法によるテレパシーが通じてお互いの無事を確認すると、次の作戦の為に策を練っていた。


 ルリの目下の課題は、浴室から出たら着せられるであろう、魔法を封じる修道服への対応と、薬を盛られる事への対応。

 それらを潜り抜け、王女を探す必要がある。


 ミリア達の課題は、教会への侵入方法だ。

 結論、突撃するのではあるが、出来る限り交戦は避けたい。




(着る前に解呪(かいじゅ)しちゃえば、封印されないかなぁ。でも、レアアイテムっぽいし、壊れたら勿体ないなぁ……)


 この状況で気にする事では無いのであるが、魔法を封じる衣装は、絶対に珍しいアイテムだ。出来れば持ち帰って、その謎を解き明かしたい。ルリの探求心が高まっている。


(魔道具ならスイッチがある。それが、あの対になってる魔道具よねぇ……)


 魔道具工房で学んだ事。魔道具にはたいてい二種類の魔石が使われており、ひとつは魔法効果、もうひとつは制御する魔石が対になっている。


 修道服を脱がせる時にかざしていた魔道具。

 それが、修道服の効果をオフに出来るスイッチのような物なのだろう。


 表だって奪ったりしたら問題があるし、スイッチを解呪(かいじゅ)したら、修道服を二度と脱げなくなるかもしれない。

 出来るだけ入浴の時間を伸ばしつつ、修道服への対策を考えていた。




(修道服の魔封じは……いったんは受け入れるしかないかなぁ……)


 修道服を壊したり、収納で消したりする事も考えたが、今最も重要なのは、魔法を封じられない程度に信頼を勝ち取ることだ。

 王女を探すには、生活の場を修道院に移す必要があるが、信者として信頼を得られれば、他のシスター同様、移れるであろう。



 浴槽の中で、こっそりとアイテムボックスから小さな魔石を取り出すと、魔石に魔力を込める。

 魔道具になる訳ではないが、ルリの魔力を込める事で、少なくとも、セイラが探知することは出来るだろう。そんな期待を込めて。


『セイラ、聞こえる? 私、また魔法を封じられるの。魔石に魔力を流して隠し持つようにするから、魔石の魔力で探知してくれる?』


『出来るか分かんないけど、何とかするわ。魔法封じられるって、大丈夫なの?』


『洗脳されるだけだから、大丈夫よ!』


 セイラにテレパシーを送ると、うまく魔石は握りしめて隠すながら、浴槽から外に出たルリ。

 電話の会話と違い、チャットのような状態で会話しているので、少々通じにくい部分もあるのだが、送った方は伝わったと思っている。……そういうものである。





「ルリ、大丈夫だって?」

「よくわからないのだけど、洗脳されるから問題ないって……」

「それって、大丈夫じゃないよね……」

「ルリだから……」


 セイラの通信を聞き、ますます心配になるミリア達。

 ともかく、明るいうちに侵入経路を探しておこうと、教会の周囲を散策するのであった。





 それから丸一日。

 ルリは、格子付きの部屋で、ひたすらに聖書の勉強をさせられていた。

 丸暗記など、受験以来であるが、受験生を経験したルリには、そこまで苦ではない。


 そして、薬入りの食事と飲み物を、ひたすらに与えられていた。

 口にする全てに、解呪(かいじゅ)解毒(キュア)をかけながら。



「ルリ、気分はどう?」

「はい。幸せですわ。女神デザイア様の慈愛が、体中に満ちております」

「あなたの役目は何?」

「もちろん、女神様の愛を世界に広める事です。その為に、私の癒しのチカラを、惜しげもなく使いますわ」

「そう、その通りよ。良く出来たわね」



 身体強化で聴力を上げ、周りのシスターが何を言っているかヒアリング。

 理想的なシスターの話し方を覚えると、薬の影響が出ているかのように演技するルリ。


『薬の効果が出たようね。もう大丈夫だと思うわ』

『そうか、では、明日にも修道院に移して、次の教育に移れ。修道服は、その時に、見習の服を与えてやれ』


(よし! 思ったより早く、修道院に移れそうだわ……。私の演技力、侮れないわね……)


 精神の洗脳となると、もっと時間が掛かると思っていたが、幸いなことに、すぐに騙せたらしい。

 自画自賛しつつ、翌日の修道院移動を待つルリ。





「ルリ、まずは、おめでとう。これで、貴方も、私たちの妹よ」

「ありがとうございます。お姉様」


 翌朝、予定通り、シスターが部屋に訪れた。

 他のシスターに習い、妹、お姉様と呼んでみる。


「今日から、修道院に移るわ。その前に、あなたの名前をいただいたの。今後は、ラーズリとして、女神様にお仕えしなさい。よろしいわね」

「はい。私はラーズリです。精一杯、お仕えさせていただきます」


 笑いそうになるのを何とか堪えながら、話を合わせて会話すると、名前がもらえた。

 シスターには、教会としての名前が与えられる。ルリは、ラーズリと名付けられる。

 今までの身分や経歴は捨て去り、新しい命を与えられた形になった。


「見習いシスターの修道服よ。着替えたら参りますわ」

「はい。お姉様……」


 そしてついに、厄介な魔封じの修道服を脱がされる。

 もちろん、嬉しそうな顔などしてはならない。必死に耐えながら着替えるルリ。

 役者ルリとして、いや、ラーズリとして、全力で演技する。




『ルリ、魔力が戻ったみたいだけど、何かあった?』

『私は、ラーズリ。女神デザイア様にお仕えしています……』

『え、えぇぇ? 洗脳されてるの? ルリ……?』

『あ、ごめん、間違えた。大丈夫よ、ラーズリに成りきってたから……』

『ちょっと? 説明してよ……。訳がわからないわよ……』


 修道服を脱いだ事で、魔力の反応が変わり、セイラがテレパシーを送ってきた。

 ラーズリに成りきったとか言われ、ますます意味がわからないセイラ。もはや、泣きそうな気持ちだ。



『名前を貰ったの。いいでしょ?』

『いいかは別にして、また名前が増えたのね……。それで? 今どうなってるの?』

『私の名演技で、ついに修道院に行ける事になったわ。王女見つけたら、すぐに知らせるから』

『順調なのね? ……信じるよ? ミリアがうずうずしてるから、急いでね』


 状況がわからないまま、もう2日も経っている。

 特に、ミリアは我慢の限界、すぐにでも突入する勢いになっていた。

 のんびりしているのは、ルリだけ……なのだった。





「みなさん、新しく女神様にお仕えする事になった、ラーズリよ。

 ジェーン、お世話してちょうだい」


 修道院につくと、食堂に連れて行かれる。

 ちょうど、これから朝食のようで、多くのシスターが集まっており、さっそく紹介された。


 ルリ、改めラーズリの世話役として指名されたのは、金髪が良く似合う、20歳くらいの器量の良い、ジェーンという名のシスターだ。


「隣へいらっしゃい。食事の摂り方から、しっかり説明して差し上げますわ」

「お姉様、よろしくお願いします」


 すでに知らされていたのか、ジェーンの隣の席が空いているので、そこに座る。

 食事や奉仕活動、その他、彼女と一緒に行い、シスターとしての生活を教わるらしい。

 就寝する部屋も、同室との事だ。


(……って。食事で喜んでいる場合じゃないわね。王女様、探さなきゃ……)



 魔力の高そうなシスターは、数名に絞り込めた。

 ミリアと同じよう気配、高い魔力を持った人は、そうそういるものではない。

 さらに、ユニコーンのような神聖な気配を持った人となると……。



(う~ん……。隣のシスター・ジェーン。間違いなく、この人だわ……)


 魔導王国では王女の容姿など情報を得られなかったので、正直、探し人がどんな人なのか分かっていない。ただ、魔法に秀でた美人。知っているのは、その程度だ。


 それでも、隣に座るジェーンというシスターは、群を抜いて魔力が高そうに感じた。そして、美人だった。


(ぉぉ、ビンゴ! しかも教育係とは都合がいいわ。二人きりになって、確認ね)



 チャンスはすぐにやってきた。

 食事の後、見習いシスターの業務である、修道院隣接の畑の世話に出るというのだ。


『それらしき人を発見。これから確認するわ』

『よかった。洗脳されてるかもしれないし、注意するのよ』

『了解!』


 セイラに軽く報告すると、ジェーンに続いて畑へと進むルリ。

 すると、ジェーンが話しかけてきた。



「シスター・ラーズリ、貴方、何か企んでいらっしゃるのかしら?」

「え?」

「先程、魔力を広げていらしたわね。探知かしら。それに、教会の外にいらっしゃる方々は、お仲間で?」

「え?」


「概ね、イルームの誰かに頼まれて侵入してるのでしょうが……。わたくし、戻るつもりはありませんの。悪い事は言わないわ。早々に立ち去る事ね」


「えと? あの……王女様?」


「確かに、昔は王女なんて呼ばれもしたわね。

 洗脳されてるとか思ってます? そんなのとっくに解いたわ。わたくしは、自分の意志でここに居ますの。お分かりかしら?」


(何? 全部バレてる? しかも、洗脳ではなく自分の意志?)


 余りにも想定外のジェーンの言葉に、呆気にとられるルリであった……。


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