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138 天の声

 翌日。

 アメイズ領都、子爵家の屋敷で目を覚ましたルリ達は、急いで朝食を取り、朝の身支度を整えていた。

 今日は、やる事がたくさんある。


「リフィーナ様、本日の予定です。

 午前中は、先代のお墓参りと、冒険者ギルドへの報告。午後は、孤児院で地図作りの勉強会となります」


「アルナ、ありがとう。着替えて出発しましょう」


 予定は、メイド三姉妹の長女アルナが、いつもしっかりと管理してくれている。

 ルリ達は、自由時間の具体的な使い方以外は、基本的に案内に従っていれば問題ない。

 まるで、優秀な秘書のようである。



 アメイズ子爵家の墓地は、屋敷の裏手にある。

 奥まってはいるものの、日当たりがよく、静かな雰囲気の場所。

 代々の血縁が眠っており、ルリも、何度も訪れている場所だ。


 一際大きいのが、アメイズ領の発展の礎となったアメリの墓。その周囲に、代々の領主の墓が設えられていた。



 アメリの墓、先代の墓に順に手を合わせるルリ達。

 それぞれに、白銀の装備が全て揃った事を報告する。


「着てるとこ、見せてあげたら?」

「そうね。装着(そうちゃく)


 ミリアに言われて、白銀の装備一式を身に付けた時だった。

 頭の中に声が響く……。


『……めぐり、チカラを……、……まもるのです』


「へ? 誰か何か言った?」


「何も言ってないけど……」


 誰もが首を振るのを確認しつつ、もう一度目を閉じて、意識を集中する。



『世界を巡り、チカラをつけなさい。そして、アメイズの危機に備えなさい。民を守るのです』


(女神様? いや、アメリ様ですか? 世界を巡る……? 危機って何ですか?)



『世界を巡り、チカラをつけなさい。そして、アメイズの危機に備えなさい。民を守るのです』


 はっきりと聞き取れた言葉。

 言葉の主は誰なのか、そして、言葉の意味する所は何なのか、疑問を聞き返すが、帰ってくる言葉は、同じ内容だった。



(わかんないけど、私、頑張るわよ! アメイズ領を……民を守れるように、頑張るから!)


『世界を巡り、チカラをつけなさい。そして、アメイズの危機に備えなさい。民を守るのです』


 心で話しかけても、同じメッセージしか流れない。

 一応、同じ言葉を声に出してみたが、反応は同じであった……。



(同じ言葉の繰り返し……。会話と言うよりは、残存思念的な状態なのかしら?

 展開としては、新しい武器が手に入ったり、魔力が上がったり、……新しい力に目覚める場面よね……)


「民を守るチカラ、受け取ります! 来い!! パワーアップ!!」


 両手を空に向けてかざし、気合を入れて叫ぶルリ。

 天の声を聞き、新たなチカラを授かる場面。テレビや小説では、お決まりの展開である。


 

 しかし、言った途端、脳内に強い衝撃が走る……。


『そんなの無いわよ!! 甘えんじゃないわ、ボケ!!』


「ひぃぃぃぃ……」


 会話が出来るのであれば、先にそう言って欲しかった。

 頭の中の声に、思いっきり突っ込まれ……ボケ呼ばわりされ、思わず悲鳴を上げる。


 優しい女神ではなく、鬼神として名高いアメリ。

 神秘的な雰囲気に舞い上がったルリであるが、楽に力を手にしようとしたルリの気持ちが、アメリに伝わってしまったのかも知れない。

 調子にのった事を反省する……。




「えと、何があったの……? 光ったと思ったら、バチンて感じに消えたけど……」


 傍目に見れば、ひとりで大騒ぎしている少女でしかない。

 ミリアが心配そうに声を掛ける。


「アメリ様だと思うのだけど、……怒られた……」


「「「はぁぁぁぁ?」」」


 ルリの周囲は、天から何かが降りてきたかのように、光が伸びていた。

 その光り具合や、誰かに話しかけるような様子から、ルリが何者かと会話をしている事は見てわかる。

 状況から考えて、相手は、アメリ様か、先代のヴィルナー、あるいは女神しかあるまい。


 そこまでは想像できたのであるが、怒られると言う答えは、想像を超えていたようだ。

 ミリア達はもちろん、母のサーシャまでもが唖然とした顔をしている。



「怒られたって……どういう事?」

「あはは……。甘えるんじゃないって……」

「最後の、パワーアップ……とか言ってた部分か……。何か分かった気がするわ……」


 ルリの性格はお見通しのミリア達。

 チカラをねだった訳ではないと、必死に弁明するルリであった。




「まぁいいわよ。そういう事にしておいてあげる。問題はそこじゃ無いわ」

「そう。まず、アメリ様らしき、天の声を聞いた、つまり、ルリが選ばれた人だという事」

「それに内容も気になるわ。危機に備えろって事は、今後何かが起こるという事でしょ?」


 世界を巡ってチカラをつけるという部分は、まさに、今行っている事なので問題ない。それに、もっと他の国にも行ってみようと考えているルリにとっては、願ったり叶ったりである。


 問題は、危機に備えるという部分。

 もちろん、備えるべく、現在様々な対策を取ろうとしているのであるが、足りているのかの判断が、今の言葉だけでは難しい。


「もう一度アメリ様と会話できないの?」

「う~ん……。呼びかけても反応無いわ……」


 純粋に、交信が出来たのが一瞬だけだったのか、あるいは、怒って帰ってしまったのか……。

 とにかく、それ以降、墓地で天の声を聞く事は出来なかった。




「難しく考えても仕方ないわ。ルリに与えられた使命は、まずは世界を巡る事よね。

 旅の理由が増えた訳じゃない? 前向きに考えましょうよ!」


「ミリア。一緒に来てくれるの?」


「当たり前じゃない。『ノブレス・エンジェルズ』で世界を巡るのですわ!!」


「ファイトですわ!!」

「「「「おー!!!」」」」


 ミリアの前向きな言葉に、セイラとメアリーも頷く。

 円陣を組み、掛け声を上げる、『ノブレス・エンジェルズ』の4人であった。





 墓地を後にし、冒険者ギルドへ向かう。

 ギルドに入るなり、歓声が上がる。


「リフィーナ様だ、リフィーナ様が来てくれたぞ!!」

「ミリアーヌ様にセイラ様、メアリー様もいるぞ!!」


 身分など関係なく、4人とも様呼びになっている。

 軍事演習でミノタウロスの脅威を間近に見ていた冒険者は、『ノブレス・エンジェルズ』の4人を英雄視する傾向が強い。


「皆さん、ありがとう。『ノブレス・エンジェルズ』、無事に帰還しましたわ!!」


 フロイデン領の戦争に出陣した義勇兵には、冒険者も多数加わっていたらしい。

 参戦したという冒険者に礼を伝え、当時の様子を聞くルリ達は、しばらく、冒険者たちの武勇伝を聞く事になったのであった。



「まともな防具も持たずに戦争に向かったのですか?」

「いやぁ、本当に戦いになったら危なかったね。今考えると、怖くなるよ」


「あはは。では、ディフトの街ではポテト芋がブームになってるのですね!」

「今頃、商人たちが商談を始めている頃ですよ」


 ルリ達が戦地に向かったとの噂を聞きつけ、暴動のように武器を取って出陣した義勇兵の生々しい話。まともに戦えるのは少数の騎士団と冒険者の一部程度と言う状態で、結局、何もせずに帰ってきたと言う話。


 今となっては笑い話であるが、当時の住民たちの気持ちを考えると、胸が痛い。




 冒険者との懇親を深めた後、受付嬢のララに挨拶し、白銀の兜が見つかった事を報告した。


「何十年も見つからなかった兜、ついに見つかったのですね。先代様もお喜びになりますね」

「はい、先程、墓前に報告してきました」


 受けていた全ての依頼が達成となった事を確認し、報酬を受け取る。

 集まっていた冒険者たちに再度挨拶をすると、ルリ達は、ギルドを後にした。



「午後は孤児院ね。お昼食べたら向かいましょう」

「「「おー!!!」」」


 元気に向かう、ルリ達であった。


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