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108 大鍋

 ラミアの友達、『アルラウネ』という魔物のアルラネに連れられ、里……竜宮城のような場所に来ているルリ達。


 美味しい食事と踊りを楽しんでいた。

 ……ルリを除いて。


(竜宮城という事は、何かあるはずよ……。気付いたら何年もたってて玉手箱だっけ……?)


 昔話を思い出しながら警戒する。

 無駄に知識があるが故の……決めつけである……。




「姉さん、いっぱい食べてね。お土産のヒト族も、しっかり栄養とって、美味しく育つのよ!」


 完全に食料認定されているルリ達ではあるが、美味しい食事を出されれば、美味しくいただく主義である。もはや否定する事もせず、黙々と食事に手を付けていた。


「今日のメインは、あの大鍋で作るお肉のスープなの。もう直ぐお湯が沸くから、あんた達はこれ食べてなさい。エキスが染み込むように、しっかり噛んで食べなさいね!」


 ルリ達のテーブルに、野菜や木の実のサラダが運ばれてきた。薄緑色のドリンクもついている。


「この赤い実、美味しいわ」

「それはね、お肉を柔らかくするの」


「この野菜、初めて見るわ」

「そっちはねぇ、肉の臭みが取れて、味に深みが出るのよ」


「このドリンク、甘くてスパイシーで、不思議な味だわ」

「調味料をたくさんブレンドしてるからねぇ。だからお肉が美味しくなるのよ」


((((んんん?))))


 ルリ達はふと気づいた。……肉が美味しくなるサラダを、私たちだけが食べさせられている。……それって、調理されてる? 柔らかくて美味しい肉に育つのは、自分たちなのではないかと。




「あの、すみません、アルラネさん、お手洗いを借りてもよろしいでしょうか」

「あら、いいわよ。そこの通路の先ね。しっかり身を清めていらっしゃい」


(……)


 状況を探ろうと、席を立つルリ。

 気配を消しながら、厨房の様子を見に行く。


 グツグツグツグツ

 シャーコ、シャーコ


 ヒトが丸ごと煮込めそうな、巨大な大鍋で、スープが湯気を上げている。

 隣では、巨大な包丁を研いでいる妖精たちがいた……。


『状況は……良くないわ』

『でも、私たちがメインディッシュと決まった訳じゃないし……』

『ラミアの友達だし、すぐに退散するのは難しいわね……』


 ルリの報告を聞き、小声で会話する。

 暴れて逃げ出す事も可能ではあろうが、ラミアの手前、その選択肢は取りたくない。




「それじゃぁ、メインディッシュよ!」


 アルラネの声で、大鍋が食堂に運ばれてくる。客の目の前で調理する演出らしい。

 緊張感を増すルリ達。


「先に……味見をしましょうね。そこの娘、オレンジ色の髪の娘、こっちに来なさい!」

「ひっ! お……美味しくないわよ……」

「はぁぁぁぁ? 食べてないのに何で味がわかるのよ! 意味がわかんないわ!」


 震えるメアリーの腕をつかんで、連れて行こうとするアルラネ。

 慌てて、ルリが立ち上がった。


「わ、私が行くわ!」

「ル、ルリ……?」

「大丈夫。いざとなれば、……ねっ!?」


 生命の危機となれば、女神のチカラが解放される……はず。

 メアリーに微笑みかけると、ルリは大鍋の側に向かった。



「こっちよ。ここなら、中のスープが見えるでしょ」


 大鍋の周りに準備された席。中がのぞき込めるように、少し高くなった場所に案内され、スープを覗き込んだ。

 金色の透き通るような、美味しそうなスープ。立ち上がる湯気からも、絶品であることが分かる。


「えと、美味しそうなスープですね。……服は、着たままでいいのかしら?」


「はぁぁぁぁ? あんたバカ? 変態?

 お風呂じゃないのよ。どこの世界に、スープの味見で服を脱ぐバカがいるのよ?」


「へ? でも……、私がスープに……?」


 大鍋に放り込まれると思っていたルリだが、味見用の小さな器を渡される。むしろバカ呼ばわりをされて、戸惑うルリ。

 今の所、スープの具材にされそうな気配はない。


 ちなみに、『アルラウネ』は身体を草花で装飾する習慣があるので、魔物にしては珍しく、服のようなものを身につけている。

 裸でも全く気にしないラミア達とは、少し違う。



 すると、挙動不審なルリをまじまじと見つめていたアルラネが、突然笑い出した。


「アハハハハ! あんた、鍋の食材にされるとでも思ったのね。そんな訳ないじゃない。

 姉さんが『退屈しない』と言うのが分かったわ! このおバカと一緒に旅すれば、確かに毎日が楽しそうね。姉さん、私も仲間に入れてもらうね!」


「あれ……?」


「もし、あんた達を食材にするんなら、こんな所で丸ごと鍋に放り込んだりしないわよ。お肉は小さく捌いてからじゃないと、食べにくいでしょうが……」


「……でも、お肉が美味しくなるサラダで……」


「そうよ。これからたっぷりお肉食べてもらうんだもの。お腹壊さないように、先に消化が良くなる野菜をね。ヒト族は姉さんよりも弱いでしょ」


 アルラネとしては、ルリ達の胃腸に気を使って、特別メニューのサラダを用意してくれていたらしい。


「それよりも、味はどう? ヒト族には塩味が強いかしら?」


 本気で味見をさせようとしていたことが分かり、スープに口をつけた。

 それは、あっさりしているのにコクがある、旨味が凝縮されたスープだった。


(あぁぁ、塩ラーメンのスープ……行列で並んだお店と同じ味だ……)


「アルラネさん、美味しいわ! この世界で一番かも知れないわ! ヒト族でも、全員が美味しいって言うと思う!!」


「そう。良かったわ!!

 それじゃぁ、みんなもこっちに来て! 食べ方はねぇ……」


 妖精たちが、肉や野菜を運んでくる。もちろん、ヒト族の肉ではないし、一口大に切り揃えられている。……魔物視点なので、肉1枚1枚がステーキ並みの厚さがあるのであるが……。


(あぁぁ、しゃぶしゃぶ……だ)


 アルラネの用意したメインディッシュは、巨大な鍋で食べる、しゃぶしゃぶ風の料理だった。



「何、このお肉? 大きいのに口の中で溶ける。何枚でも食べられるわ!」

「野菜が入ると、スープがまた一段と美味しくなるわね!」


 さっきまで怯えていたのが嘘のように、感動の声を上げながら肉や野菜を頬張るミリア達。

 自分たちが食材にされるというのは、自分たちの勝手な勘違いだと分かったので、今となっては笑い話である。


 今、食材になっていないだけであって、アルラネがルリ達の食材認定を取り消していない事は、もはや忘れてしまっていたのであった……。





 食事が終わり、それぞれの歓談の時間を過ごす。

 ルリ達は、妖精と戯れていた。


 ラミア達も、旧交を温めたようだ。『蛇女』『人魚』『アルラウネ』という仲良し三姉妹。

 揃うのは数百年ぶりだという。


「アルラネも一緒に来るかの? 明日の朝には発つがいいかの?」

「ええ、大丈夫よ。それで、どこに向かってるの?」

「さぁ、わからんのう。セイレンは聞いてるか?」

「どこかのヒト族の街に行くんでしょ? どこでもいいわよ」


 魔物たちにとっては、ルリ達が何の目的でどこに向かおうとしていようが、特段興味は無いようである。

 ただ、行く先々で、楽しいトラブルが起こる。それだけで、彼女たちの長い時間の1ページとしては、十分なのである。





 その頃、森の中では……。

 護衛騎士が右往左往していた。


「温泉の場所には、既に誰もおりません。その後の移動の痕跡も、辿れそうにありません……」

「全く、セイラ様はどこに行かれたのか。とにかく、周囲を探そう。遠くには行かないはずだ」

「馬はここに居るんだ。朝には戻って来るはず! あまり移動せずに探すぞ」


 外の温泉。

 男である護衛騎士が、ついて行く訳にはいかなかった。


 馬と一緒に離れている様にと言われ、森の入口近くで待っていた、護衛騎士の面々。


 あまりにも戻りが遅いので温泉の場所まで行ってみたが、誰もいない。

 近くで野営している様子もない。



 結局、朝まで、セイラ達を探し続ける事になり、疲労困憊。

 いつも貧乏くじを引かされる、可愛そうな騎士たちであった。


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