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300 ~A Cup of Coffee~  作者: うつろあくた
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Long time no see.

 ちら雪が不意に勢いを増して風まで呼んでやさしい吹雪になった。


 もう三月も半ばだっていうのに。


 でもきっとこの冬最後の雪。




「傘、持ってくりゃよかったな」


 雪まじりの向かい風にわずらわしげに目を細める祥子、


「この風だと差しても折れちゃうかも……おおおお!」


 と、こちらは風に体を預けて遊んでいる聖夜子。黒いコートに雪の粒がスパンコールみたいだ。


「にわか雪だとは思うけど――」


 バス停まではもう少しあるね。


「茶店でもありゃいいんだけどな」


「それならあそこ。違いますか?」


 吹雪のレースの向こう、少し先を指さす聖夜子。


「目がいいな。確かにそれっぽいけど。看板出てないよね」


「飛ばされないようにしまっちゃったのかもしれません。コーヒーの匂いしますよ?」


「鼻はもっといいな」


「風下なので!」


「猟犬か。まぁいいや、行ってみようか」




「こんにちは~!」


 澄んだベルの音に続いて、聖夜子の声が店内いっぱいに響いた。


 テーブルに頬杖をついて雑誌をめくっていた初老の女が顔を上げ、眼鏡をずらし聖夜子に目を慣らす。


「……ああ、いらっしゃい」


 そして、おだやかな微笑と迎えの言葉。


「ここは……喫茶店ですよね?」


 聖夜子はくんくんと鼻を鳴らす。


「ん? 相変わらずね」


「今日は、やっていますか?」


「ええ。風が強いから看板はしまっちゃったけど営業中だよ、よいしょっと」


 おまけして初老の女店主ミストレスが、本を閉じて立ち上がる。


「よかった!」


 ほらね、という顔で振り返る聖夜子。


「…………」


 祥子は店に足を踏み入れたきり、突っ立って店内を見回していた。


「お店、やってるそうです」


「うん」


 上の空な返事。


「祥子?」


「あ、ごめん。珍しい内装だな……と思って」


「…………」


「お席の準備出来たのでどうぞ~」


 店主は一番奥の席を案内した。

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