Long time no see.
ちら雪が不意に勢いを増して風まで呼んでやさしい吹雪になった。
もう三月も半ばだっていうのに。
でもきっとこの冬最後の雪。
「傘、持ってくりゃよかったな」
雪まじりの向かい風にわずらわしげに目を細める祥子、
「この風だと差しても折れちゃうかも……おおおお!」
と、こちらは風に体を預けて遊んでいる聖夜子。黒いコートに雪の粒がスパンコールみたいだ。
「にわか雪だとは思うけど――」
バス停まではもう少しあるね。
「茶店でもありゃいいんだけどな」
「それならあそこ。違いますか?」
吹雪のレースの向こう、少し先を指さす聖夜子。
「目がいいな。確かにそれっぽいけど。看板出てないよね」
「飛ばされないようにしまっちゃったのかもしれません。コーヒーの匂いしますよ?」
「鼻はもっといいな」
「風下なので!」
「猟犬か。まぁいいや、行ってみようか」
「こんにちは~!」
澄んだベルの音に続いて、聖夜子の声が店内いっぱいに響いた。
テーブルに頬杖をついて雑誌をめくっていた初老の女が顔を上げ、眼鏡をずらし聖夜子に目を慣らす。
「……ああ、いらっしゃい」
そして、おだやかな微笑と迎えの言葉。
「ここは……喫茶店ですよね?」
聖夜子はくんくんと鼻を鳴らす。
「ん? 相変わらずね」
「今日は、やっていますか?」
「ええ。風が強いから看板はしまっちゃったけど営業中だよ、よいしょっと」
おまけして初老の女店主が、本を閉じて立ち上がる。
「よかった!」
ほらね、という顔で振り返る聖夜子。
「…………」
祥子は店に足を踏み入れたきり、突っ立って店内を見回していた。
「お店、やってるそうです」
「うん」
上の空な返事。
「祥子?」
「あ、ごめん。珍しい内装だな……と思って」
「…………」
「お席の準備出来たのでどうぞ~」
店主は一番奥の席を案内した。