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いち

2話目です。

サワサワ……。風が吹き、葉の擦れる音が聞こえる。それとともに、囁くような男女の声も。


『ふふふ、可愛いわぁ』

『そうだね。天使のようだよ』


(ゆめ…?)


柔らかい声とともに、ぼくの意識が浮上する。


『お前達、静かにしないか……ほら、起きるぞ?』

「……んぅ」


二人の男女を宥めるように、低く甘い別の男の声がした。それは、優しく…愛おしむ気持ちがひしひしと伝わってくる。

ドキドキとしながら、目を開けると…。


「!?」


絶句した。視界いっぱいに広がる景色はそのくらい衝撃的だった。

空は水色ではなく、淡い黄色や桃色などの優しい色が混ざり合い、不思議な色をしている。草木は輝くように生え。まるで、物語の世界のようだ。

不思議な夢だと思い、キョロキョロと周囲を見渡していると、背後からガバリと抱きしめられた。


「なに…!?」

『寝てても可愛かったのに、起きたらさらに可愛いなんて……どうしましょうこの子!』


興奮したように話す女の声。起きる時に聞いた声の一つだ。早まる鼓動を抑え、振り向いた。


『まぁ、瞳は菫色なのね。黒い髪と合ってて素敵だわ』

『うん。僕らの周りには少ない色だ。とってもチャーミングだね!』

『だから、そのように一気に話すんじゃない』


しかし、振り向いた先にいた人達によって再び動揺した。

淡く金色に輝く髪を持つ男女。顔立ちがほとんど似ていることから家族なのだろうと伺える。

そして、その横にやや呆れるようにして立つ濃紺の髪の男。深い緑の瞳は、男女を咎めるようにキツかったがぼくの視線に気づくと柔らかく緩んだ。


『初めまして小さな童、お目覚めはどうだ?』

「?」


ぼくに抱きつく女の人を引き剥がしながらそんなことを言う。


(目覚め?)


ぼくは夢の中にいるのではないのか。首を傾げて、男を見上げる。


「あなたは、だぁれ?」


男に名を尋ねると、自分に異変が起きていることに気づいた。

声が高くなっているのだ。女にしては少し低めだった声が、三歳児程のたどたどしくも鈴が鳴るような声へと。そして、体もすっぽりと女性に覆われるほど小さくなったことにも。


『俺は、ユドラという。好きに呼んでもいいぞ』


微笑んでぼくの頭を撫でた濃紺の髪の男ユドラ。ぼくは動揺を隠せないでいた。

……ここは、どこか。五感がはっきりしているし、思考も正確にできている。夢ではない?しかし、そんなことあるはずが。……ぼくは、死んだの、か?

ある考えに行き着くと、途端に胸が苦しくなった。


「ふっ、くっ……!」

『おいっ!大丈夫か!』


悲しいとかそういう意味での苦しさではない。まるで、拒絶されるかのような息苦しさ。いや、もしかしたら拒絶しているのはぼくの方なのかもしれない。呼吸はままならなくなり、倒れた。


『お願い、否定しないで。受け入れて。このままでは死んでしまうわ!』


懇願するようにポロポロと涙を零しながら、金髪の女がぼくを抱きしめる。

なぜ、そこまでぼくを心配することが出来るのか。他者との関わりが少なかったぼくには分からない。


「な、かな……いで……」


喘ぐように空気を吸いながら、彼女のためにぼくは言葉を紡いだ。


「うん、……受け、いれる。……おねー…さん、達……を」

(そして、ぼく、自身も)


そんな思いを込めて伝えると、金髪の女は『光の精霊の名において命ずる、この者を癒す光を!』と叫んだ。

次の瞬間、彼女を包むように…否、ぼくと彼女を包むように光が溢れた。


(光の精霊の名において……か。何だか、ファンタジーのよう)


呼吸が落ち着き、ゆっくりと光の眩しさから閉じていた瞼を開く。開いた目に映ったのは、心配そうに瞳を揺らす人間離れした美貌を持つ三人。

……やはり、夢ではないのかもしれない。夢ではこんな苦しさを感じるわけがないのだから。

なんだか、どっと疲れてしまった。悩むものでもない。否、悩んだらダメな気がする。おそらく、再びさっきのような状況に陥る気がするのだ。予想でしかないけど、何故か絶対そんなことになる気がする。

ぼくは何も感情を込めずに、三人の男女を見つめた。


『何が、起きた?』

『この子が、この世界を否定しようとしたの。そして、この世界もこの子を拒否しようとした』

『そんなことは有り得るのか』

『有り得るも何も、実際に起こったんだけどねぇ』

『えぇ。この子が私達を受け入れると言ってくれたから助けることが出来たけど、そうでなければ…』

「……しんでいた、と」


金髪の女が言おうとした言葉をぼくが代わりに言うと、三人ともギョッとした顔をした。

思わず苦笑する。何か驚くことでも言ったっけ?あぁ、成程。三歳児が言う言葉ではないか。別に、取り繕う気など全くないから気にしないが。


「あはは、おねーさん、おにーさん、ゆーさん。ぼくは、おそらく、いちど、しんだにんげんです」

『『『っ!?』』』


ゆるりと口元を緩め、笑いながらそう言うと、三人は愕然とした。

無理もない、見た目三歳児が「自分は一度死んだ人間」などと言ったのだから。

次は明日…、できれば今日投稿します。

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