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不思議ホールに挑む者  作者: けろよん


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2/4

降り立った世界

 青空が広がっていた。草原が広がっていた。そして、スライムが跳ねたりゴブリンが歩いたりしていた。

 そこが俺の降り立った穴の中の世界だった。


「まじかよ。これじゃあまるで異世界じゃねえか」


 異世界という存在はまったく知られていないわけではなかった。

 俺の所属する国家不思議調査局の中でも特級と呼ばれるクラスは元々、異世界を調査するために用意された物らしい。先輩の調査員は何人も入り口とされるトラックに跳ねられて旅立ったということだ。

 今では非人道的だと非難されて、異世界に行く行為は禁止され、特級国家不思議調査員の活動も現代に限定されたものになってしまったが。


「どういう理屈かは知らねえが、異世界をまさかこの目で見ることになるとはな」


 俺はとりあえず近くを歩いていたゴブリンから棍棒を取り上げて頭を殴っておいた。ゴブリンは目を回して倒れて気絶して消滅した。初めてのモンスター退治だ。

 だが、感動などは無い。俺は別にモンスターを倒すためにここへ来たわけではないのだから。


「ザコの相手をしてもしょうがない。早くカワウソロボを見つけないとな」


 俺は腕輪の発信機を使って周囲をサーチした。反応が無かったら困っていたところだが、幸いにも反応があって居場所を特定できた。


「あっちだな」


 俺はその方向へ向かって歩みを進めた。




 そこには泉があって吹き上がる水しぶきが虹を掛けていた。

 異世界の不思議な動物達が集まる中央では、ガラスのように透き通るユニコーンに乗った小学生ぐらいの少女がいて、茶色いカワウソロボを抱え上げて見つめていた。


「カワウソさん、カワウソさん、どうしてお前は喋ってくれないの?」

「それはそのカワウソがロボットだからさ。ちょいとご免よ」


 俺は周囲の邪魔な動物達を掻き分けながら少女に近づいた。ユニコーンが円らな瞳で見つめてきたが、誰も敵対する行為は見せなかった。

 俺は安心して少女に向かって話しかけた。


「俺はエージェントM。国家不思議調査局の者だ。お嬢さん、この穴は一般人は立ち入り禁止だぜ」

「Mさんは入ってるのに?」

「俺は調査員だからな。この穴を調査するのが俺の仕事だ。お嬢さんはこの異世界の人間かい?」

「ううん、あたし、麻衣。田舎町の三丁目のおばあちゃん家に暮らしてるの」

「三丁目か。この穴のすぐ近くだな。地元の人間か。ここは封鎖してたはずなんだがな」

「友達が抜け道を知ってたの。封鎖とはすり抜けるものよ」

「その意見には仕事がら同意するわけにはいかねえな。帰りな、俺の上司とか面倒な奴に見つからんうちにな」

「そういうわけにはいかないわ。ここには友達と一緒に遊びに来てるの」

「友達同伴か」


 ならば見つけて帰らせないといけない。俺は考える。

 もし任務中に一般人を不思議世界の事件に巻き込ませでもしたらそれはここを担当した自分の責任だ。給料を減らされ、始末書も書かされるかもしれない。

 俺は減給も始末書もご免だった。保身を胸に少女に訊ねる。


「それじゃあ、その友達のところに案内してくれないだろうか。俺から彼らに話をするからさ」

「いいよ~ん」


 麻衣は笑顔で快く了承してくれた。馬の首を叩くとユニコーンは方向転換した。すっかり慣れた馬のようだった。


「案内するからついてきてね」

「おう、分かった」


 少女を背に乗せたユニコーンがゆっくりと歩き出す。俺は案内されるままについていった。

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