光太郎編1話:与えた微々たるダメージ
僕の名は中川光太郎。ベースを弾くことが何よりも好きなごく普通の20代のサラリーマンだ。とある事情で先日、バンドを抜けてきたところさ。
そのバンドというのが幼馴染である新城勇気と始めたPieces Blueというバンドだ。
勇気は所謂、熱血タイプの人間だ。僕とはまるで正反対の性格だったせいかいろんな場所、いろんな人と知り合うきっかけになった。
というのも何より勇気は異性に人気のあるタイプだったからな。ちなみにベースを初めて弾く事なったのも最初、あいつに無理やりベースを持たされたからだった。でもそれがきっかけでベースにのめり込んだのだ。あいつといると退屈しなかったがそれも今となっては昔の話。
なぜなら僕は基本的に人を信じない。
もちろん勇気だって例外じゃないが今回のバンドを離れる事になったのはさすがに残念だった。
ギターもドラムも僕のベースの成長を精一杯後押ししてくれたからな。僕とは対照的に熱血タイプの勇気と僕が仲違いしたのには訳があったんだ。その前にもう一人紹介しておかなければならない人物がいる。
僕の現在の彼女である日比野玲子だ。彼女はつい先日まで勇気と付き合っていて一緒に住んでいたんだがあいつの性格のせいで日に日に精神が弱っていく玲子を僕が見兼ねて助けた。
完全過ぎるほど波風を立てないように僕と玲子は愛情を育んだ。もちろん勇気も周りの人間も僕がこうして手助けした事は知る由もないはずなんだが…ともあれ今は僕と玲子がこうして一緒にいるというわけさ。
しかしバンドをやめてから僕という人間が変わっていくことになるなんてこの頃は全く思いもしなかった。
玲子を傷つけた勇気と決別する時だ。
「おい…なあ…俺たちは親友じゃなかったのか…?それに玲子が突然いなくなった事…おまえは本当に知らないのか…?」
「知らないと言っているだろう。それに親友?おまえが勝手にそう思っていただけだろう?」
「光太郎…おまえ…。玲子が消えて…おまえまで…」
勇気が玲子を失ったショックで冷静な思考じゃなかったのが幸いした。
僕は勇気とバンドを切り捨て玲子や周りの友達と楽しく今までと変わらない生活を過ごしていくことになったのだ。
あいつの周りに女は絶える事がない。たとえそこで意気消沈したとしてもまた新しく女を見つけるだろう。あいつにせよ大したダメージではないはずだ。