結束編2話:玲子の中の革命
それからというものバンド活動は順調に進み勇気と光太郎は仲違いする前よりも息の合ったコンビになっていた。そして各々の楽器の技術も数段上がっている事からバンドにおいて同じバンドマンからも客からも一目置かれるようなバンドに成長したのだ。
そんなある日のことだった。
光太郎がついに昇進したということで祝いにラーメンを奢ると約束をしていた勇気。ラーメンを食べ終わり光太郎と道を歩いていた時だった。
「いや〜まっさかおまえが25にして課長に昇進とはな〜!どんな裏ワザ使ったんだよ?」
「裏ワザ?普通に仕事をこなしていたらいつの間にかそうなっただけの話さ。ん?なんだあれは?おい、勇気、あれはケンカか何かか?」
ふと光太郎が目の前の騒ぎに気がついた。若い男女が口論になっているようだ。
「ん〜…あ、あれは!?…玲子…?!」
そこで男と口論になっていたのはあの玲子だった。
「スグル…あなたがそうやって全て台無しにしたんでしょう?!もういいじゃない!その子のところに行けばいいじゃない!」
スグルと呼ばれた男はそこで顔つきが変わる。
「っるせーんだよ!おまえ一発やったからって彼女面してえらそうな事抜かしてんじゃねえぞ、コラ!!!!」
スグルは口論に打ち負けそうになり頭に血が上ったのか腕を大きく振り上げた。
「…あの野郎…!」
勇気はそう言って舌打ちをすると素早く二人の間に入った。すごい音がして勇気は後ろのめりに倒れた。
「お…おい!勇気っ!大丈夫かっ?」
光太郎は勇気を助け起こす。勇気は立ち上がるとスグルを睨みつけた。玲子は突然の仲裁者に驚きを隠せずただ唖然とするばかりだった。
「勇気…光太郎…どうしてこんなところに…?それにどうして二人が一緒にいるの…?」
さすがに2対1では分が悪いと感じたのだろう。スグルは玲子に背を向けて捨て台詞を吐いた。
「おまえみてーな女はコリゴリだぜ、もう二度と連絡してくんじゃねーよバーカ!」
「コラ…てめえ待て…」
すっかりキレていたのであろう勇気はスグルの肩を掴んだ。
そして10分後…
公園のベンチに座る勇気、光太郎、玲子。気まずさからか誰も口を開かなかった。その沈黙を破ったのは勇気だった。
「ったく…力の加減も知らずに揉めるからあんな危ない目に遭うんだよ。おい、光太郎!もう十分休んだろ?帰ろうぜ!」
「ふう…わかったわかった。しかしあの男をあんなになるまで殴る事はなかっただろうに…。玲子、まあそういうことだ。気をつけてな」
振り返り玲子と目も合わせようとせずにその場を立ち去ろうとする勇気。そして後を追うように光太郎も玲子に一言そう言った後歩き出した。
「ちょっと待ってよ!!!!!!!!」
玲子のあまりに大きな声に二人とも歩みを止めた。
「…どうして?どうして私を助けたの?勇気…私が殴られたらあなただって気分いいはずでしょう?私はあなたを裏切ったんだから!」
しかしその言葉を受けて勇気はまた歩き始めながら言った。
「関係ねえよ、揉め事見かけて間に入ったらお前がいたってだけの話だ」
玲子は勇気と光太郎の二人が見えなくなるまでその後ろ姿を呆然と見ているだけだった。
そしてその帰路の途中に光太郎は勇気に一言言った。
「全くおまえはいつでも誰かのスーパーヒーローだな〜」
「うっるせー!ああ〜…殴られ損だ今日は!」
「…あれだけ仕返ししたのに?」
そんな会話が繰り返されている中、まだ公園に佇んでいた玲子の頭の中にもまた革命が起き始めていた。