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現実



 閲覧していた病院に張り込んでいた記者の最終更新時間が三時間になろうとする頃、ついに事態が動いた。

 ニュースで病院のことが取り上げられ、リポーターが鬼気迫る表情で現状を伝えている。


「患者の突然な暴走で病院内は大変混乱しておりますが、警察官の誘導で多くの人が無事避難し、今は病院前で厳戒態勢が敷かれている状況です」

「避難した人々によりますと、悲鳴が聞こえ訳もわからず避難させられた。床に血痕が点々としていた。二階部分は立ち入り禁止になっていた等々、情報が錯綜している模様です」


 テレビを前にやはりなってしまったかと頭を抱える。

 こうなるともはや病院内で暴走している原因を警察が対処出来なければ、ゾンビ映画のようになし崩れてしまうだろう。


 一旦、他の部屋で持ち込んだ物を整理していた雫も、今は絶句しながらテレビを観ている。


「雫、大丈夫か?」

「……これって……そういうことよね?」

「あぁ、残念ながら現実だ」


 現場に居た警察も緊急性を感じ取ったのだろうか、所謂SWATのような特殊部隊が銃を担ぎ配置につく場面が映し出されている。

 犯人がいくら狂暴であろうと発砲すら躊躇されがちな日本において、初動としてはこの上ない立ち上がりだ。

 もし、これが立て籠り犯ならここから時間がかかる説得が行われるが、相手はおそらくゾンビで意志疎通は図れない。

 攻めるか攻められるしかなく、中へ攻めれば奴らの餌食、外で発砲すればマスコミの餌食になり得る。

 世間がゾンビという脅威を認識しない限りは。


「しかし、このままただ人間側がやられるのはもどかしいな」

「そうね……ネットで危険性を伝えてみる?」

「ネットか。おかしな奴扱いされても……なにもしないよりマシだな」

「私は健に連絡してみるね!」


 ネットの利点は影響力だ。

 見られないことの方が多いが、興味を引かせれば自動的に広まってくれる。

 リアルだと街ですれ違う人々に「ゾンビが出ました!」なんて言い触らしても、なに言ってんだコイツでおしまいだが、ネットにはそんな手間も羞恥心も不要だ。


「タイトルは……【緊急】ゾンビ出現! ウソと思うなら開くな! こんなんでいっか」


 人は命令口調や半信半疑なことに反感を持ちやすい。

 そこをつついてやれば余計見たくなる。


「勇真大変! 携帯が繋がらない……」

「もう回線がパンクしているのか!? 思ったより状況はまずそうだ」


 まだ余裕はありそうだったのに病院組のニュースで混乱が早まったようだな。


「俺が忠告するまでもなかったか。逆に健が心配だな……」

「助けにいかなきゃ!」

「そうだな……今ならまだ奴らも少ないはず」

「用意するね!」

「待った! 行くのは俺一人だ」「え……?」


 予想外なのか面を食らった表情で固まる雫。


「健達が家に居れば早いが、居ない場合すれ違いになる。その時にここに誰も居ないと上がって来れないだろ」

「でも!」

「まだゾンビの詳細が分かってなくて危険なんだ。ここを頼む」

「……無事に帰ってきてよ」

「任せろ。雫はここから双眼鏡で正面の道路を確認していてくれ。裏はフェンスと川だから五十メートルは離れた対岸から人やゾンビが来ることはまずない」

「うん。健達が来たら裏ルートの準備ね?」

「そうだ。北側の端にあるボタンを一度押したら梯子が降りっぱなしだから俺が出たら一旦戻して、帰ってきたらまた頼む」

「ねぇ、エレベーターと非常階段は?」

「エレベーターは電力を落として使えなくして張り紙をしておく。非常階段は住人がバリケードをしていない限りは使えるが、このフロアは階段とエレベーターの入り口にある防火シャッターで入れなくする」

「他の人は信用するな、ね。わかった。夜になったら見つけづらいから気を付けてね……」

「あぁそうなったら目印としてこのレーザーポインターもどきを等間隔で合図するさ。行ってくる!」


 まだ夕方だが夏から秋になりつつある時期だから暗くなるのも早い。

 健の家までは自転車だと十分もあればいけるが、歩けば片道三十分はかかる。


 武器や携行品等をリュックに詰め込み簡単な身支度を済ませ、エレベーターで降りて使用を禁止、正門から辺りの様子を伺う。

 どうやらこの辺は少し街外れにあるおかげか目立った騒ぎになってなく、住人にも会うことはなかった。


「よし、これなら自転車で行ってもまだ平気かな」


 通学用に使用しているいつもの赤いママチャリに跨がり、道路や人に異変がないか確認しながら普段より緩めに進む。

 まだ辺りに救急車や警察のサイレンは鳴り響いていないが、異変をいち早く感じ取るには細かな違いに気付けないといけない。


 空は曇り、鳥は心なしか少な目で週末にしては道交う車はいつもより多め。

 道行く人は皆携帯を見ながら不審そうな表情をしていたり、電話が繋がらないことに焦りを見せ足早に帰路についているといった感じだ。

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