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麦酒


「急げ! こっちだ!」


 必死に逃げ回り時間を稼ぐも、未だに数体のゾンビがしつこく追いかけて来ている。多分、嗅覚タイプか聴覚タイプだろう。

 このままでは空港にゾンビが居た場合挟み撃ちにされるので、早いところ適当な民家か雑居ビルへ転がり込もう。

 民家だと聴覚タイプに聞き付けられる可能性があるが、ビルだと内部にゾンビが複数居るかもしれない。危険だが馬場をこのままにするわけには……。

 ともかく、今は追っ手を撒けなければじり貧だ。


「勇真! あの家は!?」

「良さそうだな。鹿田、内部にゾンビが居ないか確認を頼む」

「あいよ!」


 背より高い塀に囲われ入り口はスライド式の鉄製の門、中は広い庭に鯉を飼っていそうな水辺と盆栽、どう見ても普通の家とはかけ離れた敷地と門構えだ。

 一言で言うとヤクザが住んでそう。


「勇真さん中は大丈夫だ、綺麗なままだぜ」

「よし、入り口は閉めたしここなら門から距離があって音を立てても気付かれにくい。一旦身を隠そう」


 居間で布団を拝借し馬場を寝かせ、救急箱とアルコールの類いがあるか家中をしらみ潰しに探す。

 残念ながら薬や食糧、飲み物まで空っぽでどうやら住人が持って逃げたようだ。


 戻ってくると皆は警戒したままだが、息が切れるほど逃げ回ったせいでさすがに疲れを隠せないでいた。

 それに横たわっている馬場の容態も深刻そうだ。徐々に問いかけに反応しなくなっている。


「馬場君……」

「ほら、栗山も心配してっぞ馬場しっかりしろ」

「うぅぅ」

「ダメだ、ほとんど聞こえていない」

「勇真どうする?」

「……さっきのゾンビが散り散りになったら予定通り空港へ向かおう。馬場はここで寝かしておく」

「ここに?」

「それってつまり……」

「いや、そうじゃない。後で助けるためだ」


 担いで移動をすると戦闘は鹿田に任せっきりになり、複数居れば逃げ一辺倒になりやすい。

 元通り俺が加われば対処し切り抜けやすいのと、道中でアルコール探しも継続して行える。

 無理に動かさず休ませる意味も込め、とりあえず置いていくのが正解だろう。


「ここは少々のゾンビなら防げる構造になっている。見張りはなしで置いていっても大丈夫だろう」

「そうね、ずっと連れて歩くのは大変だし……」

「ならチンタラしてられねぇな。勇真さん、さっきのゾンビは俺達で片付けてさっさと進もうぜ」

「そうだな。予定外にロスしたから時間も惜しいし処理するか」


 外に出て家を通り過ぎた方角で奴らの後ろ姿を発見し、気付かれる前に奇襲を仕掛ける。

 十体程居たが、ものの一分もかからず処理が完了。やっぱりこういう時に男手があるととても助かる。


 他のゾンビは辺りには居ないため、すぐさま雫達を呼びに行き空港へ向けて再出発開始。

 何事もなく建物を目視で確認できる距離まで来れたため、双眼鏡で空港周辺を見渡してみる。


「珍しいな、フライト待ちの奴らは居ないようだ」

「そりゃもう予約ができないからな」

「中は……?」

「さすがに外からじゃ見えんな。大丈夫そうだし近付いてみようか」


 正面入り口の自動ドアまでやってきたが、中は殺風景なまま人影一つすらない……当たり前か。

 それに電源を落としているのかドアが勝手には反応せず、手で触っても中々開かない。ナイフの先端をドアの間に挿し込み、テコで少しこじ開け二人がかりでどうにか開くことができた。


「っつー……案外重てぇなぁ」

「意外に分厚くて頑丈だしな。だが、閉めきっていたのは中に人が居たってことだ」

「でも、一体どこを捜したら……?」

「広すぎるわね。全部調べてたら日が暮れるわ」

「そうだな……人が居そうなのは一階の診療所や休養室、三階のドラッグストアやコンビニ、五階の展望デッキぐらいか」

「げっ、そんなにひれぇの!?」

「詳しいわね勇真」

「あぁ親父がしょっちゅう海外に行ってるから、何度も見送りしている内に覚えたんだ」


 ここまで広い空港だと、自分なりの目印を見つけておかないと迷ってしまうことが多い。

 実際、迷子のアナウンスを何度も聞いたことがあるくらいだ。キッズルームにすら大人が辿り着くには時間がかかるだろう。


 その代わりここだけでなんでも揃いやすく、ロビーから隣接しているホテル内でレストランやシャワールーム、リラグゼーション施設や展望デッキでプチ観光気分を味わえるので海外からも人気らしい。


「とりあえずはアルコールも探しておきたい。ドラッグストアにならあるだろうから先に行ってみるか」

「そうね、任せるわ」

「んじゃ早いとこ探そうぜ」


 静寂に包まれた一階は生存者への期待が薄い。外からゾンビに見つかりやすいことに加え、籠城しているなら食糧があるところかすぐに逃げれるところで休んでいるだろう。

 なので、しらみ潰しに捜すなら二階からだ。


「荒れてるな……」


 ドラッグストアに到着し陳列品を確かめていると、食糧コーナーの棚は乱雑に散らかっていた。

 しかし、血痕がないことからゾンビと争っていたかどうか手がかりはなく、薬品や酒類は手付かずのようだ。


「無人の店って気味がわりぃな」

「鹿田君でも怖がるんだ?」

「そりゃあ最初から居る化け物を眺めるより、突然現れるかもしれない状況ってのは心構えが違うだろ? 何体居るかも不明だしな」

「ふふ、そうかもね」


「アルコールっつっても酒は何がいいんだろう……」

「あ、勇真これ。確かコンビニで私に勧めてきた物よね?」

「ん? あぁ新発売のやつか。なになに……嫌なこと辛いこと、飲んで忘れませんか? 飲めば頭はクラクラ足はフラフラ、ゾゾッと体内を駆け巡る飲みごたえ、その名はゾンビール!」

「……これが健が飲んだ奴?」

「……あぁ、思いっきり書いてあるな」


 最初見た時はこんな宣伝気付かなかったけど、アルコール五パーセントどころかゾンビ百パーセントじゃねぇかよ!

 良い意味でも悪い意味でも流されやすい日本人にはいい謳い文句なのかもしれないな……単純すぎてなんか悲しい。




 ブクマ・閲覧いつもありがとうございます。


 お知らせですが11月から仕事環境の変化に伴い、執筆状況が遅くなりがちになると思います。

 書き溜めた際には連続投稿すると思うので、またお知らせします。



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