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静と動


 あれから例の書き込みは音沙汰がなく、テレビを点けニュースで情報を確認するしかない。

 ネットで調べようにも情報が錯綜していてどれも信憑性が薄く、本当の当事者ならまだ書き込む余裕がないと判断している。

 なぜなら一番近くで張り込んでいたと思われる奴でさえ、もう二時間も更新がないからだ。


「ねぇ……もう日が暮れちゃうよ。健もまだ来ないし大丈夫かな?」

「あいつなら大丈夫さ。ただ……親戚が居るらしい病院は危険かもな」

「え? 病院がなんで?」

「健が電話している時に悲鳴を聞いたって言ってて、それから連絡が取れていないらしい。今もそうだから動けないのかもしれない」

「それってつまり……もうゾンビが外に!?」

「そこまでは不明だな。警察が押さえ込んでて情報が漏れていないのかもしれないし」


 気にはなるがそんなところへ野次馬しにいく程馬鹿なことはしない。

 それに期待していた記者の更新がないところを察するに、何かトラブルに巻き込まれたのは間違いないだろう。


「いくら考えてもしょうがないから早めに寝とけよ。このまま深夜辺りに騒ぎが発生すると一番寝られなくなるから」

「そんなこといっても……まだ明るいし心配で眠れるわけないじゃん。それにここ勇真の部屋だし!」

「あぁ部屋ならこの階の空き部屋どこでも使ってくれていいぞ。何部屋かは食糧や飲み物の保管場所に使ってるけどな」


 なにしろ我が十一階は他に住人も居ないため使い放題だ。

 非常階段や裏ルート以外の侵入経路を封じればちょっとした立て籠り気分を味わえる。


「はぁ……そういう意味で言ったんじゃないのになぁ」


 トボトボと寂しそうに空き部屋を探しにいった雫を尻目に、視線をテレビやネットに戻す。

 いつ事態が発生するか、ここからは我慢との戦いだな……。



――――――

――――

――



「美優! ダメだ待てったら!」

「離してお兄ちゃん! 友達が学校で待ってるの」


「母さんと約束しただろ? それに勇真が言ってることが本当ならむやみに外へ出すわけにいかない」

「勇真さんのことを信じてないわけじゃないけどお母さんとも連絡が付かないし、それならそれで葵と智香が危険よ!」


 妹の美優はまだ高校二年生で簡単なお留守番だと思い、友達と後で合流する予定だったらしい。

 先程の母からの電話と勇真から聞いた内容を話した途端これだ。

 友達を助けると言って話を聞きやしない。全く誰に似たんだか。


「葵ちゃんと智香ちゃんてよく家に遊びにくる子だよな?」

「うん……今日も学校が早めに終わったから私の用事が済んだら遊ぼうって感じで」

「それで学校で待ち合わせか?」「そうよ。私だけが家近かったし着替えるのも面倒だからって」


 まだ学校に居るのか……。

 母さんも気になるが連絡なら携帯で出来るし、今なら……まだゾンビの目撃情報もないよな。


「よし! なら俺も着いていくからそのまま勇真のマンションまで行こう」

「え? いいの?」

「あぁ、このままここに居ても喧嘩しながら無駄に時間が過ぎるだけだ。母さんに一応書き置きだけ残しておくよ」

「うん、ありがと! 用意してくるね」


 動きやすい服装をなるべくリュックへ詰め込み、窓の鍵も閉めこれで準備オーケーだ。


「美優、準備は済んだか?」

「健兄〜遅い〜」


 とっくに準備を済ませていた美優が玄関口で頬を膨らませている。


「遅いってお前、男より準備早いって色々とどうなんだ……」

「さ、行こう行こう!」


 俺の心配なぞ全く聞いておらず、急いで玄関の鍵を閉め暗くならない内にと学校へ駆け出した。



 美優が通っている学校へは徒歩二十分の距離にある。

 これでも近い方で自転車なら楽に向かえるが、二人乗りだと自由が効かず武器も持てないので徒歩で向かうことにした。


「……? やけに人が少ないな」


 昨日は家に帰る前ならまだ談笑している主婦や遊んでいる学生が所々に居たりと、いつもと変わらない風景だったが今は通る人もまばらになっている。


「そういえば同級生の子も親が体調悪くて早めに帰ったり、先生の中でも休んでる人がチラホラ居たっぽいよ」

「それっていつからだ?」

「昨日からそんな感じ」


 体調が悪くなる被害は大人ばっかりか。

 新たな伝染病? にしては学生や俺の親には伝染してないよな。

 勇真が言うにはゾンビってのは次々感染するらしいが、過程を詳しく知らないから茶化さずに少しは真面目に聞いておくべきだったかな……。


「嫌な予感がする。美優急ごう!」

「うん。このバット重い……」


 外は何に出くわすか不明なため周りに見られても差し支えないバットを武器に選んだが、美優は不満なのか愚図っている。


「もう少しで学校だろ? 我慢してくれ」

「まぁお兄ちゃんよりはマシだけど……」


 チラッと向けられた視線の先には俺の武器が握られていた。

 そう、防御用に選んだ傘とラバーカップである。


「傘はともかくなんでラバーカップなの?」

「ゾンビは人間を見つけたら噛むらしいぞ。ならこれで口を封じてしまえばいい」

「ん〜なんか発想がただの間抜けなような……」

「俺が囮になって防いでいる間に美優が殴るか逃げるかするって決めただろ?」

「そりゃそうだけど、健兄のこと知らない人が見たらラバーカップ持ってうろついている変態だよ。葵や智香だって困惑しそう」

「仕方ないだろう。畑もないのにクワやスコップ持ち歩く方が物騒なんだしさ」


 そんなに悪いかこれ?

 痒いところに手が届く的な存在だし、人間にも武器として効くぞ嫌悪感な意味で。

 もしかしたら、お手軽簡単ラバーカップが世界に必要とされるかもしれん。


「はぁ……妄想に耽るラバー兄さんは放っておいて、ほら着いたよ学校」

「お!? 早いな」


 特に障害もなかったせいか、ラバーカップのことを考えているだけであっさり正門に着いていた。

 まだ夕暮れ前だが人はもうほとんど帰っているのか静寂に包まれている。

 重い正門を開け閉めし、正面の靴箱側から中へ入ってみると違和感が襲う。


「本当に葵ちゃんと智香ちゃんがここに居るのか?」

「そのはずなんだけど……」


 誰も見当たらない校舎は不気味でなにより音がしないと、何故かこちらも忍び込むように音を立てずにしか進めない。


「美優、待ち合わせの教室はどこだ?」

「二階の右端の教室だよ。ここが中央階段だから登った所から八つ目ね」


 さすがマンモス校は違うな。教室が多い上に遠い。

 ゆっくり進んでいくと五つ目辺りで床に変な汚れが点々と目立つ。


「あ、踏んじまった。なんだこの黒茶色のような液体」

「みんな掃除して帰ったはずだし、こんなの帰る時には無かったけど……」

「まだ新しいみたいだぞ。靴で擦ると汚れが広がるし」

「これ……あっちまで続いてる」


 よく見ると教室内に入ったような後と俺達が向かっている端っこまで、各教室の廊下が点々と汚れている。


「いくぞ。バットを離すなよ」

「……うん」


 息を呑んでお目当ての教室前まで来た。

 ドアは開けっ放しで中を覗きこむ。

 机や椅子が少し散乱しているが誰もいないようだ。

 調べようと中に踏み入れたその時、端にあるロッカーから物音が聞こえた。


「誰!?」


 美優が驚いて声をかけてしまうも反応は薄い。

 俺と美優がアイコンタクトをし、ロッカーへ徐々に近づく。

 俺は傘を開き、美優はバットを構える。

 もし何かが襲ってくれば傘で防御、ラバーで口封じ、美優がフルスイングで完璧だ。

 手で三、二、一の合図と共に意を決してロッカーを開ける。


「きゃあああ! 来ないで! あっちいって!」

「うわっ?!」

「智香? 智香なの!?」

「……えっ?」


 錯乱していた声の主は美優の呼び掛けに応じ、辺りをキョロキョロとしている。


「美優! よかった無事だったのね!」

「え、えぇ……そんなに慌ててどうしたの? ていうかなんでロッカーの中に?」


「あいつらを見てないの!?」

「あいつら?」

「涎を垂らした化け物よ!」

 化け物? 美優と目を合わせるがもちろん何も見ていない。


「いや俺達は何も見なかったが……智香ちゃんだね? 俺が分かるかな?」

「あ、美優のお兄さん……先程は取り乱してすみません」

「え、あ、いや大丈夫だよ!」

「急にあいつらが来たと思っててそれでもうダメだって……なんで手にラバーカップを?」


 話してる途中でもそんなに気になるのかなこのラバーカップ……。

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