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 雫が反射的に振り向く。玄関を開けて様子を見ている俺の姿を発見。説明する暇もなく近付いてくる。


「勇真、おかえり」


 顔は笑っているが目が笑っていない。気のせいだろうか……雫の周りに黒いオーラが見える。


「た、ただいま――」

「あのね、これはどういうことかしら?」


 “これ”を指差して聞いてくる。


「いや、あの――」

「健を捜しに行ったのよね? この女は何?」

「フィアンセでーす」

「なんですって!!?」

「ちが、ちょ、くるみお前は黙ってろよ!」


 説明しようにも雫のマシンガントークで有無を言わさず蜂の巣にされ、くるみが誤解を増やして雫もヒートアップしていく。

 くるみめ……絶対にこの状況を楽しんでやがるなこいつ。


「さぞかし仲がよろしいようね?」

「雫話を聞けって! そいつとはなんでもない。ほら、フードを見てみろ。さっき大量のゾンビから助けてくれたやつだから勧誘してきたんだよ」

「まぁ、なんでもないだなんて……手を繋いだりお前が欲しいだなんて声をかけてきたのに」

「繋いだってそれは塀を登るときだろ! 欲しいのは戦力として! 言い方が悪かったのは謝っただろ」

「勇真く〜ん、どちらが本当のことを言ってるのかな?」


 雫の手にはいつの間にか小さい鎖鎌が握られていた。まるで死神のたたずまいだ。いや、感心してる場合じゃない。


「あははもうダメ耐えらんない! あなた、からかいやすいから面白いわね」

「ちょっと! 二人して私を騙したのね!?」


 いや、俺に至っては無実なんですけど。


「な? なんにもなかっただろ」

「な? じゃないわよ。乙女をもてあそんでおいて」


 いつ俺が弄びましたか?


「一先ず、落ち着いたところで情報を整理しましょうか」

「「お前が言うな!」」


 場を乱した本人だけあっけらかんとして話を進めようとする。

 ちょうどそのタイミングで智香ちゃん達が玄関を開けてやって来た。

 俺を梯子で引き上げた後、残りの二人を呼びに行ってもらっていたのが今集まってくれたか。

 もう少し早ければ無駄な修羅場を経験せずに済んだのに……。


「あれ?」

「ん?」

「先輩……くるみ先輩じゃないですか!?」

「えっ、智香なの?」

「そうですよ! 生きてたんですねー!」

「ちょ、智香、くるしぃ……」


 くるみを見るや否や猛スピードで抱きつきにいく智香ちゃん。

 まさか知り合いだったとは……そういえば性格や見た目の雰囲気は似ているな。


「どうしたんですかその髪! 新しいお洒落発見しちゃったんですか?」

「あ、あぁいやちょっと違うけど……みんな混乱してるから落ち着こうよ」

「えへ、すみません。久し振りに会えて嬉しくなっちゃって」


 くるみが珍しく押し負けてるような気がする。というか、この中で智香ちゃんだけが勝てるかもな。


「えーっとあたしの紹介をするわね。小倉くるみ、十九歳の元OLで智香より二つ上の先輩ってとこかしら」

「私が部活動をやっていた時によくしていただいて、学園のマドンナだったのがくるみ先輩なんですよー」

「そうだったかしら? 覚えてないわ」

「こんな感じで男子には冷酷に対処する“男割りのくるみ”なんて言われてましたよ」

「余計なことは言わんでいい!」


 あー分かる。ラブレターとか貰っても、その場でビリビリに破りそうなタイプだもん。マドンナで性格良い子って居ないよな……都市伝説じゃね?


「美優とは会ったことないと思いますけど、葵のことは分かります?」

「その子? 葵、葵……あー思い出した! よく智香の隣歩いてた子ね?」

「は、はい!」

「髪型が変わってたから気付けなかったわ。うちのバカ男子が葵ちゃん狙いで動いてたみたいだから迷惑だったでしょ?」

「い、いいえ……告白された程度なので」


 それ迷惑にカウントしないとかあなたは聖母か。


「ま、入りたての下級生にちょっかい出す三年生なんてろくなこと考えてないだろうから、少し絞めといたかんね。手出しは減ったはずよ」

「え、ええっと……ありがとうございます」


 やる事がマドンナではなく番長って言うんじゃないかな。


「んで、こっちが美優です。先輩が卒業してから仲良くなったので面識は無いかな?」

「どうも……黒川美優と申します」

「美優ちゃんか、よろしくね。黒川ってことはお兄さんが健?」

「そ、そうです! ご存知なんですか?」

「うん、それを伝えに来たのもあたしの役目かな。でもちょっと待っててね。最後にまだこの人の紹介が知りたいから」


 この人とは当然雫のことだ。全く接点がないし、さっきの騒動をやらかした関係で既に犬猿の仲みたいになっている。


「ふん、私は灰原雫。歳はあんたと同じだけど、勇真や健と同学年の大学生よ」

「へぇ〜勇真の彼女?」

「そ、そうよ。何か文句ある?」

「あなたも大変ね。彼女がいながら他の女とデートだなんて――」

「おいいつからそうなった。俺が文句あるぞ」


 皆の視線が集まって痛い。くるみも雫も引き下がれないのか分かってやっているだろ。


「あなたはなんなのよ? 勇真との関係を説明しなさい!」

「別になんでもないわよ。先に健に助けられたから、勇真の力になってやってくれって頼まれただけよ」

「お兄ちゃんが?」

「うん、美優ちゃんにも心配かけたけど俺は大丈夫だって伝えてくれってね」

「良かった……ありがとうございます!」


 ただ伝えただけなのに律儀だなぁ本当に。この歳上二人もこういうとこ見習ってくれんかね。


「続きは俺が話すよ」

「うん、任せた」

「説明上お前のことも……言うぞ?」

「うん……お願い」


 くるみから聞いた順序で余分なとこを省いて皆に伝えていく。

 くるみが体調不良になったこと、健に助けられ互いの現状を知ったこと、コーヒーにウイルスが仕込まれていたこと等々。

 話し終えると皆一様に信じられないという表情を隠せないでいた。特に智香ちゃんと美優ちゃんだ。


「くるみ先輩が……ゾンビ?」



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