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好奇心


 嫌な予感が当たってしまったか……と一瞬黙ってしまうが、できるだけ詳しく聞きたいため話を続ける。


「健、その少し前からどうなったか教えてくれないか?」

「あ、あぁ……親戚の体調が一向に良くならず親も交代で様子を見ていたらしい。すると次々に似たような患者が増え、医者がその現状に頭を悩ませていたようで親にも経過を観察しないと処置しようがないと断言したらしい」

「なるほど、医者がそういうなら尚更新種のウイルスや集団感染の疑いが強いな。それで?」

「親もずっと居るわけにいかないし週一、二回は様子を見に来ると医者と相談をして決めた直後にさっきの電話だったんだ」


 回復の見込みがない患者が増え続けていたわけだからな。

 感染の疑いもあり、おそらくどこの病院でも似た対応をしてなるべく隔離患者との接触を避けたいんだろう。


「健よく聞いてくれ。もしかすると本当にゾンビの前兆かもしれない」

「あれは勇真がいつも観ているフィクションだろ? まだゾンビとは分からないんじゃないか?」

「あぁ嘘であってほしい。ただ、実物を見たときにはもう手遅れなんだ。家で家族を待つのなら戸締まりを必ずして、物音を立てずに二階から外の様子を見てほしい」

「……分かった。問題が無ければすぐにでも向かうさ。もし来なくても……捜しには来るなよ?」


 健のことだ。俺達が危険に晒されることを心配して言ってくれているんだろう。


「あぁ……俺と雫はずっとここにいるつもりだ。外の様子は常に気にしておくから、来たらエレベーターを使わず非常階段と裏ルートで頼む」

「了解。雫とえっちぃことでもして待ってな!」

「するか! 今までの心配を返せ!」

「アハハじゃあな!」


 最後までなんともあいつらしい会話だったな。


「健はなんて……?」


 横で聞いてた雫が心配そうに聞いてくる。


「心配せずに雫とえっちぃことして待ってろってさ」


 大分省いたが雫の生い立ち上これがベストな答えだ。


「ばっ!? 健め余計なことを……!」


 本人は健への復讐を燃えたぎらせているが、他人に茶化されると恥ずかしがり簡単に話題を逸らせることを俺も健も分かっている。

 雫は幼い時に中々帰らない両親を祖母と家で待ち続け、結果両親は事故死してしまった過去があるため、健の件でわざわざ思い出してほしくない。

 話を誤魔化せるなら俺にも好都合だ。


「ともかく状況は悪いようだぞ。いよいよゾンビ発生かもしれん」

「えっ、どどどどうしよう!?」

「まずは落ち着け。そのためにここに来たんだろ」

「ぎゃ、逆に勇真はなんで落ち着けるのよ!」

「心構えが出来ていたからだな。突然街中にゾンビが!? って場面に遭遇しないだけマシだ」

「そりゃそうだけどさ……」


 ありがちな崩壊場面を目が腐るほど映画や小説で予習したから、俺自身驚きの反復が少ないのかもしれん。

 最初に苦労する食糧調達をクリアしているおかげもあるだろう。

 とはいえまだまだ油断はできんな。


「そういえば友達には連絡しとかなくていいのか?」

「ん〜言っても信じてくれないか変人扱いされるだけかも」

「俺と同じだな。一応言ってみるがここに大勢けしかけられても困るから信じないならそれで構わん」

「だよね……助けたいけど信じてくれないとね……」


 雫が俺達と仲良くなった経緯もそうだ。

 変わった趣味であるゾンビの話は仲間内で中々できなかったらしい。

 そんな時に俺達がゾンビ話しているのを偶然聞き、話かけられたのが最初だ。


 俺とはゾンビ話で盛り上がり健はあの性格だから分け隔てることなく接し、いつの間にか雫には居心地の良い場所になっていたらしい。

 つい話が長くなりすぎて遅くなることもしばしばあり、健が門限とか大丈夫? と尋ねたとき、両親が他界し育ての祖母も最近亡くなっていたことを知った。

 そして、俺にも今日本には両親が居ないことや同じく一人っ子なため親近感が沸いたとのことだった。


 この時から余計な気を遣わせまいと、俺と健が雫に親のことを迂闊に聞くのはタブーだと決めている。


「まぁ俺達変人な部類だけど、きっと変人が生き残りやすい世界になっちゃうしな」

「まだ一人じゃなくて良かったよ〜」


 若干否定してほしかったけど完全にお仲間扱いされてました。


「そういやあいつどうなったかな」

「あいつ?」

「ほら病院前で張り込みしてた奴だよ」


 書き込みが更新されていないかチェックするのがここ最近の楽しみでもある。


「一時間前が最後か……警察がなにやら慌ただしく動き出したから突撃準備しますって書いてあるな」

「もしこのまま更新なかったら……」

「あぁ、まず間違いないだろうな」



――――――

――――

――



「おっようやく変化があったか?」


 ここ五日間張り込みを続けて昨日になってやたら病院への人の行き来が増えている。

 最初の情報を頼りにイカれた患者が運び込まれた場所を見つけたはいいが、音沙汰なしで記事にするのを諦めかけてたぜ。

 全く、これでゾンビじゃなきゃここまでの苦労がパァってもんだ。


「ん? 警察が入っていくな……よぉし!」


 カメラが入ったバッグとメモ帳や小型ボイスレコーダーが常備してある上着を羽織って確認し、混乱に乗じて付いていくタイミングを見計らう。


「へっ普通に行っても門前払いで記者なんか入れてくんねぇからな。せいぜい利用させてもらいますぜ」


 病院内外がより一層慌ただしくなり潜り込むには絶好のチャンスだ。


「へへっまずは患者の振りしてどこまで付いていけるか試してみるかな」


 うまく受付もスルーしながら警察が進む方向へ一定の距離で付いていけている。

 しかし、さすがに大きな病院だから中も広い。

 あちこちの部屋で患者が寝ているため、すれ違う人に気を配る余裕もないほど忙しいようだ。

 やがて一つの部屋の前で警察が何やら話し合っている。


「あれは……隔離室か? となれば最初の奴の可能性が高いか」


 思わぬトントン拍子で目標に辿り着いたぜ。

 後は中の奴がゾンビになっている所を写真に収めれれば上出来だ。

 まぁ命の危険もあるしそんなにうまく事が運ぶとは――


「キャアアアアアァァァ!!」


 隔離室の中か!? 警察も慌てて内部へ入っていく。


「うわ……マジかよ……」


 目の前にはもはや隔離がどうのいってられない光景が広がっていた。

 中で世話か計測をしていたと思われる看護師の防護服は裂かれ、辺り一面に血が飛び散り動きもしない。

 そして、それをしたであろう張本人はその傍で看護師を貪っている。


「いや観慣れて耐性あったはずなんだけど実際はキツいわ……」


 警察もまだ仕切られている部屋に踏み込めないのか部屋の外の医者と揉めているようだ。

 そうしている内に外の声が気になったのかゾンビらしき男は食事を止め、声のする扉の方へ向かっていく。


「もうこれでいいだろうよ。さっさと写真撮ってずらからせてもらうぜ」


 ゆっくりと歩く異常者をフィルムに収め、足早に立ち去ろうとするが警察に気付かれてしまった。

 だが、扉の方から叩くような音が聞こえ警察の意識がそっちに向いたのでダッシュで逃げる。


「ふぅ……ひとまずこれで追い付かれる心配も……あん?」


 気付けば元来た道とは違う方向に進んだらしく、人気があまりない病棟へ迷い込んだようだった。


「ちっ、これだから大きい病院は……」


 行きは警察にバレないように尾行したからか正確な道順までは暗記していなかったのが災いしたな。


「まぁいい、中庭にでも出ればすぐに外へ出れるだろ」


 気にせずどんどん進むも外に出れる道がない。


「なんでこんな静かで暗くなってきて……あ、霊安室?」


 変なところに迷い込んだと思ったら遺体がある場所なのね。


「そりゃこんなとこに人いねぇわハハ」


 完全に間違えたと引き返そうとしたとき――ゴトッと霊安室の方から何かが落ちたような音が聞こえた気がした。


「!? 今音しなかったか……?」


 普段なら気のせいでスルーできるが、ここ連日張り込んだ記者魂が邪魔をし確かめずにはいられない。


「開く……よな」


 本当なら開かないでほしかった諦めがつくから。

 想いとは裏腹に扉はギギィと音を立て開く。


「暗すぎて分からん、電気はどこだ?」


 近くの壁づたいを探ってみるとそれらしくスイッチがあった。

 そして、それは点けなければよかったとすぐさま後悔したがもう遅い。


「ひぃぃぃ!! なんで五体も!」


 つい声を出してしまい立ち尽くしていた死人――ゾンビが一斉にこちらを向く。

 そして――


「あぁぁぁあやめてくれぇぇええ!!」


 悲鳴を上げれば上げるほど奴らは襲いかかり、意識が段々遠退いていく。


「あ……がっ」


 もはや声にならない声しか出せず、助けを求めるには無駄な場所だと気付いたのが最期の記憶だった。



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