助平
このままだと女子二人に操られてしまう。うまく話を戻さねば。
「と、とにかく奴の話でもしながらマンションまで戻ろう」
「そうでした! あの人を信用できない話まだでしたね」
「風林火山? 違うなぁ……」
まだ兵法のこと考えてんのかよ。
「奴の話を順番に思い出してほしい。まずは避難所」
「ゾンビが外や中にも現れて脱出した話ですか?」
「うん。中に何人避難していたか知らないが、顔も知らない人達の中でゾンビ化した人は寝るまで元気だったと言っていた。親しくもないのにそこまで分かるなんて少し変だ」
まるで全てを観察していたかのようにな。
「それって……」
「あぁ、ゾンビ化するのを知っていたのかもな。それだけじゃない。事態を全て見ている側で事細かに語った後、脱出の話がやけにあっさりしている。嘘か作り話に聞こえたな」
「え? だったらどうやって家まで逃げてこれたんですか?」
そこなんだよな。お世辞にも筋肉隆々とは言えず華奢な方だ。
「分からない。でも、一緒に逃げた人が本当に存在するなら道中で犠牲にしたかもな。普通、あんな豪邸を見たら中に避難させてくれって言われるだろうし」
「そこまで酷いことをするような人に見えませんでしたが……」
「葵は優男に騙されやすいからねー。すぐ信じちゃう」
「そんなことないもん!」
あ、風林火山からおかえり。
「少なくとも裏がある人物なのは間違いないよ。CDCに勤めているのが本当なら、呑気にこんなとこでお茶をすすってるのも変だし、事態に焦っている素振りもなかったしな」
「あの会話でよくそこまで見抜けますね……」
「ねーただのエロいお兄さんじゃないよね」
おい待て、なんだその称号は!
「勇真さんには雫さんが居るから平気よ」
「そだねー」
どういう意味だこら。後、雑に処理しないで……コクってもないのにフラれた感じがして嫌だ。
「あ、それでなんでしたっけ?」
「あいつは希代の悪ってこと」
智香ちゃん、君本当は何歳なの?
「うぉほん。奴とは距離を取って様子を見よう。帰ったらつけられていないか確認しなきゃな。それと、二人にお願いがある」
「? なんでしょう?」
「パンツ見せてとか?」
「エロから離れろ!」
言ったら見せてくれるのか、こんちくしょう!
もし見れるなら言うさ。今はセクハラで捕まる心配もないんだからな!
「健が帰ってきてない場合、美優ちゃんへのショックが心配だ。二人なら慰めやすいかと思って、美優ちゃんが無茶をしないよう様子見を頼みたい」
「なーんだ、お安いご用ですよ」
「えぇ、任せてください」
これで一安心か。いや、健さえ無事で居てくれたら悩まずに済むんだけどな。
軽い食糧と飲み物を所持してるから、すぐに困ることはないはず。
うまく逃げ切っていればいいが……。
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「――くん。健君!」
根原さんの声で起こされる。
「あ、え、おはようございます根原さん」
頭が妙にスッキリしていて凄く心地良い。
寝る前の疲れが嘘のように吹き飛んでいる。
「ふぅ、よかった。もう目覚めないかと思っていたよ。気軽に挨拶できるならもう大丈夫かな」
「え、なんでですか?」
「心拍数が下がって危なかったんだよ。そして、君が眠ってから丸三日が経っている」
「そんなに!?」
起き上がると自分の身体にいろいろと器具が取り付けられ、横にはモニターのような物で数字が上がり下がりしているのが分かる。
「あんまりにも目覚めないものでね、勝手に付けさせてもらったよ」
「いえ、大丈夫です。心配かけてすみません」
根原さんが次々と器具を外していき、入院患者のような格好から解放されていく。
「これでよし、と。気分はどうだい?」
「それが不思議と絶好調な気がするんです。体力が回復したおかげですかね?」
「ふむ、身体を少し動かしてごらん。筋力の衰えは感じるかい?」
「いいえ、歩くのも平気です」
むしろ、前より力が上がっている気がしなくもない。
試せる機会がないと調べようないけど。
「なら大丈夫だろう。まだ若いから寝たきりでも、三日じゃさほど影響はなかったということか」
「良かった……あ! 俺を探しに来た人は居ませんでしたか!?」
三日も経っていて、勇真達がまだ探し続けていたら危険だ。
ゾンビに出くわす確率も常に上がるわけだし。
「あー多分彼らだろうと思うが、ここから離れた個人商店の方へ向かっていくのをカメラ越しに見たよ」
「そ、それで!?」
「用が済んだのかこの辺には立ち寄らず、どこかへ帰っていったみたいだったね」
「そうでしたか!」
無事ってことだな。なら後は、俺が突然帰って驚かせてやるだけだ。
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