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策士


「皆半信半疑で視聴していたと思う。外で交通事故が多発し、帰るに帰れず避難を余儀なくされた。その時はまだ彼らの姿を見ていなったが、最寄りの小学校の体育館へ避難した。そこで特に年配の方は外の事など露知らず、のほほんとしている様子が見受けられた」

「若者はどうでしたか?」

「遊んでいる者も居れば、スマホとにらめっこしている者も居たかな。あまり重大さが伝わってなかったんだろう。入り口は守られていたし、食糧も分配されて不満らしい不満も少なかったと記憶している」


 一息つく。彼の話が本当ならその時点ではまだゾンビを制する力があったということだ。


「だが、避難して三日目ぐらいだったか早朝に外が騒がしくなった。何人かはそれで目が覚めたんだと思う。気になり体育館の扉を開けると、門の入り口を守っていた兵隊が……仲間の兵隊を食べていた」

「なんでそんなことに……怪我をしていたとか?」

「それは今となっては分からない。しかし、中に逃げ込んで扉を閉めたのも束の間、今度は体育館の中から悲鳴があがっていた」

「もしかして、ゾンビが……?」

「あぁ、寝る前まで元気だった人が急にね。それを合図に寝ていた人が飛び起き、事態を察すると急いで外へ飛び出した」


 寝起きで頭が上手く回らずタイミングも最悪、外のことなんか知りようもないか。


「何人かで止めようとしたが逆効果で怒号が飛び交い収拾がつかず、ついに突破されてしまった。外へ出た時、入り口を守っていた人は居なくなり……代わりに数体のゾンビが居た」


 そして挟み撃ちになり体育館内は阿鼻叫喚……と。


「私は体育館裏へ逃げ、柵を登り飛び越えて脱出することができた。他にも十人くらいは同じように逃げれたようだった。そして道中でゾンビをどうにか避けたり倒したりして一人一人自宅へ帰っていき、私も無事にここまで帰れたというわけさ」

「……それは災難でしたね」


 避難所の崩壊理由はなんとなく分かった。

 やはり噛まれていなくてもゾンビになる――小綺麗ゾンビが発生したんだろうな。


「その後はずっとここに?」

「えぇ食糧の心配はないし、外から侵入されにくい造りになっているので、たまに外の様子を覗いてるぐらいなんですよ」

「いいなーお兄さんの家なんですよね? 凄いお金持ちとか!?」

「ハハハ、金持ちかどうかは分からないが困ってはいないよ。本当なら家政婦が二人は居るんだけど、僕が留守の間に帰っちゃったみたいでね。こんな世の中だから仕方ないし当然さ」

「へぇ彼女は? あ、奥さんが居たり?」

「い、いないよ。僕ってそんなに老けて見えるかな……」


 智香ちゃんの先制攻撃にたじたじなようだ。

 確かにここは独り暮らしにしては広すぎる。

 わざわざ家政婦を雇ってまでこんな豪邸へ住む理由が何かあるはずだ。


「失礼ですがお仕事は何を?」

「CDCって分かるかな?」

「……疾病管理予防センターのことですよね」

「そう、よく知ってるね。私も研究員のはしくれで、普段はそこで研究をしているんだ。今は長期休暇を取ってここに帰ってきていたのさ。日本に来たタイミングは悪かったようだけどね」


 CDCといえばアメリカ合衆国にある疫病対策の要。

 なんでも本当にゾンビが現れた時用のマニュアルすら存在するらしく、度々ゾンビ映画にもこの名前や施設が出るぐらい有名だ。


「え、お兄さんアメリカに住んでるの? すごーいセレブじゃん」

「セレブ……か。いや、そんな大層なもんじゃないさ」

「でもでも、そんなとこに居たならゾンビもどうにかできるんじゃないですかぁ?」

「それが……まだ日本しか確認されておらず、向こうで研究しようにも一度生きたままのゾンビを運ばなくちゃいけないんだよ。海外へ行く方法を含め、今は無理といっていい」


 日本にしか居ない……?

 なら、より人為的にもたらされたパンデミックの可能性が高くなる。

 一体何のために日本を狙ったんだ?


「貴重な体験とお話をありがとうございます。そろそろはぐれた仲間を探して帰らないと日が落ちるので……」

「あぁそれなら泊まっていけばいいじゃないか」

「え、マジ? ここに!?」

「ちょっと智香……」

「それが帰りを待たしてる人も居るのでお気持ちだけありがたく受け取っておきます」

「そういうことなら無理に引き留めないさ。仲間が早く見つかるといいね」

「はい、もし無事ならまたご報告に来ますので……失礼します」

「あ、君達の名前を教えてもらっても大丈夫かな?」

「いえ構いませんよ。僕は赤井勇真、彼女達は白石智香と緑川葵です。あなたの名前を伺っても?」

「私か。私はうしとら王雄たかよしだよ。じゃあ帰りに気を付けてね」


 お礼を言いそそくさと外に出ると、二人とも何か言いたげそうに見つめてくる。


「勇真さん、あの名前を使ったってことは……」

「あぁ、奴をほぼ信用していないさ」


 俺達が普段名前しか呼び合わないのは名字が枷になるからだ。

 大事な時以外は迂闊うかつに名字を名乗らない決まりにしている。

 身バレを防ぐ目的と何かあった時の合図に名字を使うため、さっきのように相手が居ながら警戒心を仲間に伝えれるのが大きい。


 名前を変えないのは普段の呼び方でバレるし、嘘をつくには少しの真実を混ぜるのが効果的だからだ。

 下の名前は名字みたいに制限されずありふれているしな。


「やっぱり……理由を聞いてもいいですか?」

「そうだな。極端に言えば話が出来すぎている」

「だよねー。彼女なしとか嘘見え見えだし」


 いや、そっちは気にしてない。


「私もさー馬鹿な振りしてるの疲れたんだよねー」

「え?」

「智香の十八番おはこだもんね。あぁやって情報を聞き出すの」

「えぇ?」

「にひひ葵にはバレてたか。勇真さんにも言ってなかったから、中々うまくとぼけた演技できてたっしょ?」

「えぇぇ!?」

「ほら、まずは味方から騙すのが兵法のなんたら……だっけ?」


 素で騙された。なにこの子、末恐ろしいぞ……。



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