豪邸
ここ2、3日PVが爆発的に増えているので土曜日分を繰り上げ投稿しておきます
次は土曜か日曜に投稿します!
さて、彼はこのまましばらく起きないだろう。
差し出した飲み物を何も疑わずに飲むなんて、この世界では鴨だよ健君。
だが、死にそうな所で私に見つかったのは運が良かったと言えよう。
君を追っていたゾンビ……ディテクションタイプは振りきるのが大変だからな。
私じゃなければ見捨てられるのがオチだ。
君がウイルスと適合し“覚醒者”になるまで、最低三日はかかるか。
まぁ適合すれば……の話だがね。
その間、私は刑戮場でも見に行くとしようか。
いや、その前に――。
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「くそっ! どこへ行ったんだ健……」
あれからコンビニまで戻ったり違うルートで進んでみたりしたが、一向に健が見つかる気配がない。
女子高生組も荷物を担ぎながらの移動で体力が限界に来ているようだ。
「こんなに、探しても……いないなんて」
「もう、マンションへ、帰ったの、でしょうか……」
「そうかもな。一度戻ろう」
このまま彼女達を連れてこれ以上動き回るのは危険だ。
体力がない状態で誰か一人でもゾンビに襲われれば、反応が遅れ守れない可能性がある。
そう思い引き返そうとした時、少し先の方で電信柱の影から足が出ているのを発見した。
ここからでは見えないが、壁を背にもたれかかってるように見える。
「健!」
「あ、勇真さん待って!」
「危ないですよぉ……」
二人の制止も聞かずに急いで駆け寄る。
「これは……」
「健さんが相手していたゾンビ?」
「でも、これ致命傷がないですよ……」
確かにコンビニで出くわして健を追っていったゾンビに似ている。
試しにネイルガンを頭にぶちこむも完全に活動を停止していたようだ。
それに、健と戦ってやられたのならあるはずの痕がない。
「ネイルガンで撃たれた形跡も打撃で倒された形跡もなければ、首も折られてない」
「なにか変ですね……」
「あ! 血飛沫がない」
そういえばそうだ。壁にもたれかかってるこのゾンビ。
もし、誰かとの戦闘でやられたのなら、頭を壁にぶつけた反動で血ぐらい付いているはず。
しかし、こいつは至って綺麗に置かれているようにも見える。
誰が? 何のために?
「君達は人間かい?」
急に俺達以外の声がしたため、内心慌てて距離を取る。
声の方向を振り向けば男が居た。
細身で身長が高く髪は茶色で厚手のセーターを着ている。
いつの間に居たんだろう。
「えぇ、まだこいつらじゃありませんよ」
「驚かせてすまない。そこの家の窓から走る人影が見えたもんでね。久々に人間が居ると確認したくて声をかけさせてもらったんだ」
その男が指す家は普通の住宅より遥かに大きかった。
「そうでしたか。ちなみにお一人ですか?」
「あぁそうだ。こんな世界になって心細くてね」
「なぜ避難所に行かれなかったのですか?」
「勿論行ったさ。……もうないがね」
「……詳しく聞かせてもらえませんか?」
「いいよ。ここじゃ危ないから部屋へ案内するよ」
後ろの二人と顔を見合わせ頷く。
警戒はするが休憩もしたいし、興味深い話も聞けそうだから誘いに乗ることにしよう。
「広い……!」
智香ちゃんが驚くの無理はない。
俺だってこんな広いリビングは初めてだ。
というか、この家自体が家政婦一人じゃ間に合わないぐらいの部屋と広さもある。
ここに一人で住むとは何者だ……?
「どこでも好きにくつろいでくれたまえ」
「どこに腰かけよう……」
「いえーい」
「なら、俺はここで」
葵ちゃんはまだ状況が飲み込めず悩んでいる。
智香ちゃんはベッドにダイブの如くソファーを独り占め。この子順応性が高すぎる。
俺はガラステーブルを挟み床の座布団に座り込む。
「久しぶりのお客様だからいろいろ切らしていて申し訳ない。ジュースでもいいかな?」
「えっと……」
「はーい!」
「いえ、お構い無く」
葵ちゃんとアイコンタクトする。
こういった予想外の人物から食べ物、飲み物を出された時はまず拒否をすること。
それでも出してきたら安易には飲み食いしないようにと伝えてある。
……約一名忘れていそうだ。
「一応皆の分も置いておくからお好きにどうぞ。さて、お待たせしたね。じゃあ本題に移ろうか」
「はい、お願いします」
「まずは僕が避難所へ行った理由からだね。騒動があった初日、僕は喫茶店に居ながらニュースで事態を知った」
彼はそう言いながら握っていた湯呑みを置いた。