病気
でも、おかげで助けられたわけだしなんとも言えない。
「なるほど、ここは安全なんですか?」
「そうだね。セキュリティは中々だし、奴らが侵入できることもないだろう。ほら、コーヒーでも飲んで落ち着くといい」
「ありがとうございます」
差し出されたコーヒーを飲み干し、ふと気付く。
「あ! 俺はどのくらい眠ってましたか!?」
「ん〜三十分ぐらいじゃないかな」
「そ、それで俺の他にカメラで見かけた人間は居ませんでしたか!?」
「いや、この辺には健君以外誰も来てないよ」
「そうですか……」
完全にはぐれちまったらしい。
頭の痛みで正直どこを通ってきたかも定かじゃないし、逃げることに必死だった。
急に消えたから心配しているだろうな。
「仲間が居たのかい?」
「はい、三人ほど一緒に行動をしていました」
「外は危険だからねぇ。君が無事だと彼らに知らせてあげられたらいいんだけど」
「いえ、根原さんまで危険な目に遭わせるわけにはいきません! 俺が回復したら自力で知らせに行きます」
「そうか。君の体調なんだけど、おそらくアルコール摂取後の激しい運動で血流のめぐりが悪くなり、偏頭痛を引き起こしたんだと思う。酒を飲みたくなる気持ちも分かるけど、危険だから程々にね」
何も言ってないのにズバズバ当てられる。医者ってすごいな。
「参りました。なんでもお見通しなんですね」
「まぁ医者だから多少はね。おかげで退屈せずに済んだよ」
苦笑いしながら答えてくれるが、ずっと一人だったなら退屈という言葉にも頷ける。
「ところで健君、ゾンビについてどう思う?」
「どうって……突然人が化け物になって、人を見掛けたら襲う厄介な病気ですかね」
「ふむ、病気か。病気なら治せることもあるわけだがあれはどうかな……。細菌とウイルスの違いは知ってるかい?」
「いえ、そっち方面は全く……」
ちんぷんかんぷんです。
医者のありがたい話を聞こう。
「説明すると細菌は細胞があり栄養があれば自分で増殖でき、人に病気をもたらすこともあれば人の生活面で良い細菌もある」
「ふむふむ」
「逆にウイルスは細胞がないため人や動物の細胞に感染し、細胞の中で自身をコピーし細胞が破裂するまで増え続け、破裂後別の細胞へ感染を繰り返し増殖する。ここまではいいかい?」
「うんうん」
いいえ、もう分かりません。
「そして一番の違いは抗生物質が効くか効かないかに別れること。どっちに効くか分かるかい?」
「うーん、ウイルス?」
「残念ハズレだ。ウイルスには効き目が全くなく、今も抗ウイルス薬なんてのはあまり開発されていないんだ」
「ほぇ〜効かないとかヤバイですね!」
俺の語彙力もヤバイ。
「ついでに問題を出そうか。一番分かりやすく身近な病気は風邪だと思うけど、細菌とウイルスのどっちに分類されると思う?」
「むむむ……皆すぐ病院に通うからこれは細菌ですね!」
「惜しい、ウイルスだよ」
惜しいも何も二択を外したんですけど。
根原さんの優しい言い回しが逆に泣けるぜ……。
「風邪ってのは実は病院に来なくてもいいんだ。ウイルスだから抗生物質は効かないからね」
「そうか! じゃあ一体診察して何の薬を出すんですか?」
「免疫力回復の栄養剤みたいなもんかな。ウイルスは感染してしまったら、安静にして免疫力で治していくしかないからね」
そういや俺風邪引かないんだった。
知らなくても仕方ないねしょうがないね!
「でもワクチンとか作られますよね? あれはどういう仕組みですか?」
「ふふふ、よく気付いたね。人って面白い身体の構造をしていてね、一度細菌やウイルスにかかると身体が覚えていく。そして体内で免疫が作られ同じ病気になりにくくなるんだ」
「おぉ神秘的!」
「……しかし、それだと一度病気にならないといけない。わざとかかるなんてしんどいでしょ? そこでワクチンの出番だ」
「待ってました!」
合いの手要らない?
でも、根原さんも説明が盛り上がってきてるってばよ!
「複数種類があるがざっくり言うと、その病原体を薄めた状態で感染させ、免疫を作りやすくするのがワクチンの役目さ」
「予防接種とかそうですよね?」
「そうそう! かかってから治すと言うよりかかる前に防ぐのが本来のワクチンの意味なんだ。けど世間じゃ誤解されがちで、ウイルスをすぐ治せると思われてるね」
「俺もそう思ってました」
やっぱ医者ってスゲーな。
聞きたいことを的確に先回りして教えてくれる。
「それでだ、なぜこんな説明をしたかと言うと、ゾンビが出た原因はウイルスなんじゃないかと想定してるんだ」
「え、つまり免疫がないと治しようがない?」
「そうなるね。ワクチンを作るにもそのウイルス自体がないとほぼ無理だ。あんな連中が大人しく採血させるわけもないしなぁ」
ウイルスだから抗生物質も無意味。なんてこった。
「頭が痛くなりますね……」
「あぁ、治らない以上は増え続けるし感染源も特定できない。だから人類は思ったより長丁場の戦いになりそうだ」
ひとしきり説明を受けたためか、どっと疲れが増した感がある。
まだ身体も不完全らしい。
「凄くためになる話をありがとうございます! 疲れが取れないのでもう少し寝ててもいいですか?」
「あぁ、医者冥利に尽きるよ。ゆっくり休んでくれたまえ」
本当にいいお医者さんだ。
こんな人が身近に居るなんて心強い。
早く勇真に教えてやらなきゃ……な。
「……ようやく眠ったか。君には期待しているよ、サンプルくん」
中途半端な知識ですので大まかに間違いがあれば指摘をお願いします!