難敵
「今の音は!?」
女子達が慌てて駆け寄り、奥の健はビールをこぼしている。
「近いな……十中八九ゾンビだろう」
「まずいですね」
「は、早く行きませんか!?」
確かにこのまま音の主を探っていると、遭遇待ちをしているようなものだ。
健を呼び戻して隊列を組み直し、気付かれないように忍び足で進んでいく。
幸い、音の主が俺達に向かってくるようなことはなかった。
もしかしたら獲物を見つけて食事にありついているのかもしれない。
一先ずは皆と顔を合わせ安堵する。
そのまま目的地の薬局まで五分程度の距離まで無事来れた。
後はこの交通量も多いメインの通りを渡って道沿いに進めば到着だが――。
「うわぁ、ゴキブリみたい」
「いっぱいいますね……」
「あぁ……気持ち悪いぐらいにな」
道を埋め尽くす人、人、人。
いや、もはや人ではないが地獄絵図とはこのことか。
早速、見つかり難い路地から双眼鏡で確認。
フラフラと事故っている車や他のゾンビに身体をぶつけながら、彷徨い続けている。
「こっからどうする勇真?」
「あの薬局は無理だな。他を探すしかない」
別の薬局となるともう二十分はかかるが、ここよりはマシだろう。
引き返そうと皆に指示を出し、先程のコンビニ近くまで戻ってきた。
「皆、ストップ」
ジェスチャーに切り替え、コンビニの方向を指差す。
三体のゾンビが彷徨いているのが確認できる。
「健、前に来てくれ」
「おう、ついに戦闘だな!」
「手短に手順を。俺と健がまず引き離して一匹ずつ処理する。残った一匹は智香ちゃんと葵ちゃんで動きを封じておいて、無理そうならどっちかに合流してくれ」
「ラジャー!」
「はい!」
コンビニの駐車場まで進んでゾンビを挟み俺が左サイド、健が右サイドから攻める。
勿論対角線上には立たないようにし、ネイルガンで頭や胸の辺を狙う。
「アアァ……」
「ヴアアアァァ!」
先頭のゾンビは真っ直ぐ女子の方へ進み、威勢のいいゾンビが健の方へ向かう。
俺に近いゾンビはやる気がないのかほぼ無気力状態だ。さっさと始末してしまおう。
「くそっ、うまく当たらねぇ!」
「くうう……葵、早く足狙ってこかして!」
「待ってよ私だって怖いんだから……」
こっちのゾンビは難なく撃破。
皆訓練とは違って恐怖心も手伝い、不規則に動く相手に手こずっているな。
「葵ちゃん離れてて!」
「はいぃ!」
後ろから追いつき勢いそのままで膝裏を蹴飛ばす。
バランスが崩れるのを期待したが、意外に足腰が強く少々よろけた程度で効いていない。
怒りを買ったのか奴はこちらに向き直す。
「ちぃっ! 不意討ちだったはずなのに」
「ヴオオォォォォ!!」
「ひゃあっ!」
「このっ!」
後ろから刺又で援護してくれているが、さほど動きを封じられていないのかお構い無しに突っ込んできている。
「こいつは普通と違う、智香ちゃん達は首根っこを掴んでくれ!」
「力が強い……」
「今です勇真さん!」
不器用ながらもどうにか首だけ捕捉。
奴の歩調ペースは読めた。この距離なら外しはしない。
「こんのぉぉぉぉぉ!!」
眉間に連射のように撃ち込む。
「ヴォ! ヴォ! ヴォァァァ……」
三発目を叩き込むとやっと効いてくれたのか、力なく膝から崩れ落ちた。
だが、油断はしない。倒れただけで活動を停止したかは分からない。
映画で観た倒れた相手へ二度撃ちする知識を借り、後頭部を集中的に撃ち込み、痙攣していた奴はすぐに動かなくなった。
「やった!」
「ふぅぅ……」
「もう大丈夫だろう」
たかが一匹に三人がかりでやっと、それにネイルガンで計八発も撃ち込んで終わりか……。
想像以上に強いし処理にこれだけ時間かかるなら、少数相手じゃないとこの先絶対やられる。
これが健が言っていた力が強いゾンビなのか?
「そうだ健は!?」
後方を振り返るも見当たらない。ゾンビも居ない。
「どこへ行ったんだ……?」
くそっ、時間をかけすぎた!
反対側に居た女子達に聞いても途中までしか分からないらしい。
「勇真さんが手伝いに来てくれた頃には健さんの走る背中が見えました」
「おそらくコンビニの脇道から逃げたかと……」
「健の相手もこいつと同じ強タイプだとまずいな……追いかけよう!」