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外出


 そんなこんなで刺又でのトレーニングとネイルガンの的当て、ゾンビの観察に時間を費やし騒動初日から一週間もの時が過ぎていた。

 変化といえばニュースが段々と真実を隠さなくなり、避難所が次々に崩壊していること、救助したくても備蓄と収容人数の関係でどこも受け入れ体制が不十分なこと、未だ改善の目処が立っていないことが告げられるばかりだ。


 俺達の方はというと、ゾンビの観察である程度の行動予測を立て模擬トレーニングを行い、この環境にも徐々に慣れ始めていた。


「勇真、ちょっといい?」

「なんだ雫?」


 皆から少し離され隅に呼ばれ、なにやら話したいことがあるらしい。


「あのね、ちょっと困ったことになって、女子四人も居るとさすがに……あれが来ちゃったの」

「あれ? こっくりさんでもしたのか?」

「するか! 違うわよ月一のあれよあれ!」

「あぁ……生理の――」

「濁してるのにハッキリ言うな!」


 中々に良いボディブローをもらう。痛い。

 どうでもいいけど声が大きすぎて皆に丸聞こえだぞ。


「それでね、その用品が欲しいのもあるんだけど、ついでに他の子の服も余裕がほしくて……」

「事情は分かった。まだ危ないかもしれんが、一度実戦を交える機会と思えばちょうどいい時期だろう」

「ほんと!? よかったぁ反対されるかと思ってた」

「理由が理由だから放っておくわけにいかないし、観察していてゾンビにさほど変化がみられなかったからな。その確認もしたい」


 実はあまりゾンビが前の道を通らず、思ったより観察不足だったのも外に出てみたい理由だ。

 この辺に居る数が少ないのか人口密集地へ誘われたのか……いずれにせよ今が動くチャンスだろう。


「でも、ここに残るのは誰にするんだ?」

「残る? 皆で行かないの?」

「体調が悪い子を無理に連れていく必要はない。それに、出掛ける際に梯子を出したままここを完全に留守にするのも気が引ける」

「そっか……じゃあちょっと相談してみるね」


 一人で待ち続けるのも辛いだろうから待つのが二人、外へ行くのは四人がベストか。

 俺と健は外せないとして、女性陣から二人だが……。


「勇真決まったよ! 健も連れていくなら私と美優ちゃんが留守番で、智香ちゃんと葵ちゃんを一緒にお願いできる?」

「ん、あぁもう決めたのか。構わないよ、行くなら早い方がいいだろうから準備を急ごう」


 目的地は薬局と服屋でいいとして、服は意外と嵩張るから後回しにしてまずは薬局だ。

 少し遠いが車は使えないな。

 音で奴らを誘き寄せるか、道が塞がれて通れない可能性が高い。


 なにより駐車場にある軽自動車は、ゾンビを一体轢くだけでラジエーターがイカれるかバンパーが凹んですぐ使い物にならなくなるだろう。

 装甲車や改造トラックならまだしも、映画のように普通の車が何体も轢けるなんてあり得ない。

 ガソリンだって有限だ。一週間も経てばどこも取り合いになっているかもな。


「準備できたぜ。ネイルガンもバッチリだ!」

「私も刺又準備完了でーす!」

「守ってもらうばかりですがお願いします」

「健兄と智香、葵を頼みます勇真さん」


 車の不便さを考えていたら準備が済んだみたいだな。


「よし、皆のリュックも用意したし背負ったら早速行こうか」


 梯子を降りマンションの入り口まで行き辺りの様子を窺う。

 祝日の早朝のように辺り一帯物静かで、物音すらしないことに不気味さを覚える。


 移動は徒歩、最短で薬局へは三十分。

 だが、ゾンビを計算に入れると迂回や戦闘で倍以上はかかりそうだ。


「俺と健が先頭と最後尾を守るから、智香ちゃんは左側、葵ちゃんは右側を重点的に注意してほしい」

「わっかりましたー!」

「はい!」

「勇真、後ろに何かあったら口笛鳴らすわ」


 これで一先ずは安全に進める。

 あの夜から初めての外出だが、道には何人かの残骸……と言うべきか食べ残しが散乱していた。

 襲ってくる気配はなく、動くかどうかも怪しい。

 そいつらからなるべく距離を取りつつ先を急ぐ。


 途中のコンビニで休憩がてら中を覗くと、まぁ予想通りに荒らされていた。

 ただ、若干冷蔵庫に飲み物が残っていたり食べ物以外はあまり手をつけられていない。

 健と見張りを交代し、女子二人も中を物色している。


「んー下着やガーゼくらいしか目ぼしいのはないかー」

「ないよりはマシだよね。あっ、こっちは?」

「あー肩が凝りそう。おっコーヒーあんじゃん」


 道中の緊張が解けたのか、入り口からでも気が抜けた声が聞こえる。


「ちょっと、これ見てよ。あの美男美女が結婚てマジ?」

「さぁ雑誌の言うことだから……」

「うへぇ、まじぃ……お口直しにビールっと」

「おい、健なに飲んで――」


 と、言い終わる前にどこかでガラスが割れるような音がした。



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