訓練
期待していた朗報……とはならず、より事態の深刻さが増す情報が読み上げられる。
この周辺だけならまだしも全国同時多発だと、ここもすぐに助けは望めない。
「ひどい……」
「あちゃー逃げ場なしか」
「そんな!」
葵ちゃん、智香ちゃん、美優ちゃんの三人が口々に呟く。
智香ちゃんだけは驚きより勘弁してくれと既に達観している気がする。
ニュースはそれ以上被害については詳しく語られず、最寄りの各避難場所や化け物に見つかりにくい過ごし方を説明するばかりだ。
「全国規模か……より救助は見込めないな」
「どこもゾンビだらけなんて……」
「外は迂闊に動けないか」
避難所以外にも生き残りは俺達のように多数いるはずだが、人間だけを見つける手段なんてこの時代にそうあるわけもない。
ましてや、避難所を守るだけで精一杯なのがパンデミック初期の兆候だ。
沈静化できればまだしも、外の状況下でここに来るなんてそれこそいつになるか分からない。
「あーっと、健には先に話したことだが皆聞いてほしい」
ニュースから視線が外れ全員がこちらを向く。
「今後の俺達の行動なんだけど、まずは手渡した双眼鏡で一週間ゾンビの観察をしてほしい。どんな些細なことでもいいから違和感があれば各自メモに書いてくれ」
「違和感?」
「ゾンビの足が普通より速いとか人間以外に釣られる習性を見つけたとか、普段のゾンビと動きが違えば違和感扱いでいいぞ」
「はいはーい、勇真さん質問!」
「はい、智香ちゃんなんだい?」
「まず普段のゾンビが分からないんですけどー」
しまった。確かに俺と雫目線で話してたから、ゾンビがどういうものか普通の人は分かりにくい。
「そ、そうだったな。普通ゾンビは歩いて人間を探して見つけたら手を伸ばす、そんで人間を捕食してまた探すって感じで食欲のみで動く死体なんだ」
「んー私達が見た奴と同じだね」
「だいたいはね。作品によって何で人間を見つけているかバラバラだけど、基本は視認してから追っかけるね」
「ふむふむ」
「雫と……健はまぁいいとして、説明するより映画で実際に見て知識をつけてもらった方が早いかもしれん」
「いや俺も知らんし!」
「ゾンビ観察はそんなところかな」
健の抗議はスルーし、次の話題だ。
「後は部屋に籠りすぎていざという時に身体が動かないと困るから、ゾンビを想定した簡単な訓練もしようと思う」
「訓練……嫌な予感」
「健はネイルガンの練習、女子は刺又の扱いに慣れることだな。刺又で捕らわれるゾンビ役は健だ」
「やっぱりかよ!」
不安が的中した健に皆同情どころか、刺又を手にやる気をみなぎらせている。
「健兄、覚悟!」
「わっ! やりやがったな美優!」
「きゃっ! 力が抑えられない……!」
「皆違う方向から押さえるんだ!」
「はい!」
「こう?」
「討ち取ったりー」
「ぐえっ……う、動けん」
俺は指示だけで参加していないが、五箇所から刺又で動きを封じられる哀れな健。
「そう、いい感じだ。刺又は一人ではほぼ役に立たないため、必ず二人以上で別方向から押さえつけること。いいね?」
「あっ、はい」
「えいえい」
「なんか物足りないわね」
「ちょっとやり過ぎなんじゃ……」
「お前ら後で覚えとけよ! 特に勇真と雫!」
残念だが拘束された犯人が喚き散らかしているようにしか見えんよ。哀れ健。
「周りが狭いときは相手を壁に押さえつけるのが有効だが、広いときは地面に押さえつけるといい」
「健、さぁ寝てもらうわよ!」
「おま、キャラがちげぇし台詞がなんかヤバイぞ!」
抵抗虚しく最終的に雫に寝転ばされたうつ伏せ実験体を尻目に、押さえつけるポイントをレクチャーしていく。
「まずは腰回りの胴を押さえる」
「ここかな」
「次に首根っ子かな」
「とおっ!」
「ぬぉ! なんか掛け声がおかしいって」
「う〜ん、後はゾンビだから腕とか足首を封じれるなら大丈夫そうかな」
「ほいっ」
「覚悟!」
「いてて、誰だ! 今ケツぶっ刺した奴は!?」
さすがに四人も居れば安全に封殺できそうだな。
「以上が簡単な取り扱い方法だ。相手がゾンビだから思わぬ力で暴れるかもしれないが、なるべく足を狙い転倒させて動きを封じるといい」
「「「「はぁい」」」」
「可愛い声出しときながら、こいつらやることえげつねぇよ!」
解放された健が必死に訴えかけるも当の本人達は気にせずあっけらかんとして、女子会の如く盛り上がっている。
口に出しては言えないが、この娘達はゾンビより恐ろしいのかもしれない。
一話だけ投稿する予定でしたが、21〜22時前後にもう一話だけ上げて書き貯めしようと思います!
ブクマもありがとうございます☆
おかげでランキングに載れているのでやる気が出ます!