覚悟
美優ちゃん、智香ちゃん、葵ちゃんとバラバラな見た目でも仲良いのは不思議だが、それは俺達も似たようなもんか。
「よし一通り済んだね。俺達のルールってか、遠慮は要らないから名字より名前で呼び合うようにしてほしい。さん付けでもいいし呼び捨てでも構わないから」
「はーい。勇真さんそれはなんでですか?」
「智香ちゃん、出来るだけ皆が分かりやすく、統一した呼び方の方が好ましいかなと思ってね。健と美優ちゃんなんか名字が同じなわけだし、名字を使うとどこか距離感もあるしさ」
「わっかりましたぁ!」
「他にも質問があれば皆どんどん遠慮なく聞いてくれ。質問が無くなれば次の重要な心構えに移るぞ」
今は特にないようで、目線で皆次の発言を待っているのが分かる。
「まずはこの世界についてだ。外の状態はまだ被害が分からないが、一番気を付けて欲しいのは生存者に見つかることだ」
「見つかる?」
「そう、急な事態でロクな食事もできていない、或いは避難場所が見つかっていないと誰かをあてにしたくなる。そこで俺達は他人から目を付けられないように過ごす」
「助けても良い人とは限らない……だったよね」
雫が思い出すように発言をフォローしてくれる。
「そうだ。最悪俺達が追い出されて占拠される可能性もある。酷なようだがこれ以上ここに生存者を増やすメリットもない。俺達は自衛隊でもないんだから、人命救助だのそっちのことは任せておくこと」
雰囲気が少々張り詰めている。
だが、いずれ言わなければいけないことだ。
俺達には他人を助ける余裕はないと。
「極端な話、健康な大人ですら明日には命を落とすかもしれないんだ。小さい子供や物分かりが悪い老人は自分で生きれないため、今後この世界ではお荷物にしかならないだろう。その事は肝に命じておいてほしい」
思うところがあるのか皆一様に考え込んでいるようだ。
「それと例のゾンビ……と呼んでいいかは不明だが、奴等の行動パターンを知らないと不安だ。十一階なら大丈夫とは思うが、念のため音や光を外に漏らさず、双眼鏡で奴等の動きをよく観察しておいてほしい」
「これね、皆の分もあるみたいだから渡しておくね」
「大まかには今はそんなとこかな。後は武器についてだが、俺と健が攻める武器、女性陣には守る武器で立ち回ろうと思う。この刺又は相手と距離を保ちながら拘束できるため、この世界では重宝するはずだ」
「はい、これも私達の分配っておくね」
「もし皆で外にいくことになって奴等が現れたら、それで抑えて俺か健のどちらかを呼んでくれ。すぐにこれで処理する」
「それって釘を撃つやつ……?」
「あぁ、ネイルガンだ。奴等に近付かずに一方的に処理ができるし、労力もいらない。音は少しするがすぐに複数処理も可能だから、現状一番使いやすい武器だと思っている」
いつもゾンビ映画を観ていて、手頃な銃がない日本ではどれが最適か妄想することがある。
結果、殺傷力は銃に劣るものの弾の入手難易度、安全面、中距離からでも攻撃可能なネイルガンが候補になっていた。
実際に奴等に使ってみて、これより簡単な武器は知らない。
ただ、構えたままの移動だと少し重いから普段は暴発しないようリュックにしまうのがベストか。
「近接武器ならバットでもいいが、毎回腕を振り抜く力と奴等にあたった衝撃で力を込めれば込めるほど反動で痺れるはずだ。戦えば戦うほど身体が後々きついだろう」
「確かにな、疲れて爆睡してたもんな俺。こっちの方が楽だぜ」
戦ってきた健がそういうんだから間違いない。
現に奴等は弱点も不明だ。定番の頭はそうだろうけど、他にもあると狙い撃ちしやすいんだがな。
「奴等に関しちゃ観察するまでそんなところかな。生活については飲み水や食糧は問題ない。保存食でもこの人数なら一年分はあるだろうから」
「ほぇ〜そんなに!?」
「あぁ武器や買い出しにあちこち回って買い込んでおいたんだ。おかげで貯金がすっからかんだが、もう価値もなくなるだろうし」
「それでここで籠城する気なんだな。用意がいいこった」
正直運が良かったんだろう。
日頃からゾンビ映画を観ていたこと、予兆に気付けたこと、十一階に住んでいたこと、どれか一つでも欠けていたら一週間も生きていけなかったかもしれない。
「あ、なんかニュースが騒がしくなってるみたい」
話はもう終わりかけだったからちょうどいい。
何か進展でもあれば今後の動き方も変わってくる。
「えー繰り返しお伝えいたします。各地の情報を照らし合わせますと、人喰い病患者の数は日本全国に広がっており、未だに対処法が不明で依然終息の目処が立たない状況とのことです」
いつも閲覧とブクマ有難うございます(o>ω<o)
今日は多分もう一回更新しますが、この先は繁忙期とストックの関係で投稿間隔が少し空いてくると思います〜