紹介
次の日、朝五時には目が覚めニュースを確認するが、大した情報も進展もなかった。
外の様子もまだ少し薄暗いため、寝る前と変わった様子はない。
携帯やネットは未だに混雑していたり接続がしづらかったりで、当面は役に立ちそうもない。
「やっぱりか……。情報が共有できれば被害も対処も違ってくるんだけどな」
ネット社会といえど、ほとんどのゾンビ映画でも活躍の機会はない。
動画で事前に危険を知らせるタイプも、周りで被害が発生するまでは所詮作り物と笑われておしまいだ。
なので、事が起こってしまった後のネットなら他の人からの情報も……と少し希望を抱いたのだが、使えないのではどうしようもない。
ぼけーっとそんなことを考えているとどこからかドアが閉まる音がした。
「健は……まだ寝てるよな」
本人はまだぐっすり寝ているようで、音の犯人から除外。
音は近かった。玄関側からだ。しかも、内側な気がする。
「鍵は閉めたっけ……まさか奴等が?」
油断していたといえばそうだ。
鍵を閉めずとも奴等が器用にドアノブを回せると思ってはいない。
街中の奴等はただドアを叩くような仕草しかしていなかった。
見てないだけでもしかして、ピッキングゾンビなんて居たりするのか!?
焦りが募る中、静かに立て掛けてある刺又を手に持ち音の主を探す。
玄関側から入って左手にある最初のドアが開いている。
あれ? あそこって……
「あ、勇真おはよう」
「おい何がおはようだふざけんな」
声の主は雫。今しがた風呂場から出てきて身体にバスタオルを巻いて俺と鉢合わせた感じだ。
髪もまだ乾かしていないようだが、その格好で挨拶とは慣れすぎだろう。
「いやん、そんなにジロジロ見ないで」
「見てない。なんでお前がここに居るか不思議なだけだ」
「それはほら、シャワー使えるの勇真の部屋だけだし? 乙女の身嗜みとして朝シャンを」
「だからって黙って使うことないだろうに。乙女がそんな格好でうろつくかよ」
「勇真達を覗きにいったら、まだ寝てて起こしたら悪いと思って……雫ちゃんの湯上がり姿で許して?」
「そりゃお気遣いどうも。他の子達もシャワー使う時にはなるべく事前に言ってくれ」
「ガーンまた私の誘惑無視された……」
本人の耳には届いてなさそうなので、一旦服を着てもらってから出てきてもらう。
シャツとホットパンツを身に付けて出てきたが、ややふてくされているようだ。
そんなにシャワーのことをきつく注意したつもりじゃないんだが、まぁいいか。
皆には再度八時に集まるよう雫に伝えておく。
八時とは言ったが美優ちゃん達もあまり寝つけなかったようで、交代で早めにシャワーを浴びに来て、居間に全員が揃ったのは七時半だった。
「みんな早いねおはようさん。集まってもらったのはまだ自己紹介が済んでないのと、これからの心構えについて注意したかったからだ」
「おぉ勇真が先生に見える!」
「健は赤点生徒役な」
「なんで!?」
朝から呼び出してみんなの雰囲気がやや堅かったが、健とのやり取りで緊張感がほぐれたのか女性陣に笑顔がみられる。
この調子で自己紹介を済ませよう。
「えっとまずは俺から。白木勇真、二十歳、血液型はB型。健や雫と同じ大学に通ってて、このマンションの実質管理人てところだ」
「次は俺かな。黒川健、同じく二十歳、血液型はABだったかな。美優の兄で風邪一つ引かない超健康体だ。ちなみに赤点は取らないしそんなに馬鹿じゃないよ!」
無鉄砲だが仲間思いの行動派なため性格は良いが、茶髪で雰囲気チャラ男が言っても説得力は皆無だ。
健のことをよく知らない女子高生二人から疑惑の目が向けられている。
「私の番ね。灰原雫、勇真達と同学年だけどまだ十九歳で血液型はA型。実家が金持ちなこと以外は勇真の癒し系担当でぇす」
「え? やっぱりお二人ってそういう……」
「おいこら誤解させるな! いつ癒されたんだよ。はい次!」
美優ちゃんが内心思っていたのか納得しかけて後ろの二人も頷いている。
残念だが癒しの心当たりが全くない。
「あ、私は黒川美優です。高校二年生の十七歳で血液型はA型。勇真さんとは昔から兄共々仲良くさせていただいてて、安心できる場所もありがとうございます!」
よく出来た妹とはこのことか。
健とは対照的なしっかり者で、正義感が強いのは兄も妹も似ている。
昔は髪型がツインテールだったが、今では幼く見られたくないとかで少し染めてサイドテールかポニーテールによくしている。
礼をそこそこに受け取り、残り二人の紹介を待つ。
「はーいあたしは藍沢智香でっす! 美優と同じクラスで歳も同じ、血液型はB型だよん。健さんと美優に助けられて家には帰れないため、そのままご厄介になってます」
明るめの茶髪ロングでギャル風な見た目なのに芯は案外しっかりしていそうだ。
美優ちゃんより更に元気なムードメーカーってイメージだが、健曰く智香ちゃんが指さしたら気を付けろ! と寝言で言っていた。
「最後は私ですねぇ。栗山葵と言います。同じクラスなんですけど歳はまだ十六で血液型はO型。んーと後は、スポーツが得意なんで見た目と反比例だなんてよく言われますー」
女性陣唯一の黒髪で長さはボブが伸びたような感じ、おっとりというかおとなしい系な気がするが、スポーツが得意とは言われるまで全く思わなかった。
ちなみに一番胸も大きいから、好意を寄せる男子も多そうだ。
どこぞの令嬢に足りないのはこの子の大人しさと成分だよ全く。