懺悔
健と無事再開し、一同が俺の部屋に集まり、もう夜九時というのにみんなニュースに釘付けだ。
内容は原因不明の奇病により日本全国で対処に追われていること、対策として決して外出はしないこと、物音をたてたり部屋を明るくしないこと等が次々に告げられている。
俺が出ていってからの例の病院ニュースだが、一時間もしない内に中からゾンビが出てきて現場は大混乱。
銃を構えていた部隊も背後から同じ服を着ていた仲間が覆い被さり挟み撃ち、そこで中継も途切れたとのことだった。
他の緊急ニュースもスタジオで議論されるだけで、具体的な現場はほとんど映らなくなっていた。
「あれほどの部隊でも鎮圧できなかったか……」
ボソッと独り言が出てしまい、微かな希望すらやられてしまったことに落胆する。
相手は全力で襲いかかってくるのに、やはり日本では発砲できなかったのか?
「勇真……大丈夫?」
「ん、あぁ俺は平気だ。予想では警察がもっと対抗できると思ってたんだ」
雫が心配そうに見つめる。
俺が中々帰ってこないから余計に心配をかけたかもしれない。
そんな時に外の健達を発見し、健がゾンビを惹き付けて離れた後に、面識もない美優ちゃん達をここから誘導して助けてくれたようだ。
ニュースを眺めながらみんなの方も眺める。
健が連れてきた女の子達は疲れきっており、ニュースを見て頭の中も混乱中のはずだ。
元気印が取り柄の美優ちゃんですら疲弊している。
健はさっきまで裸だったんだ元気が有り余ってるんだろう。
「このままニュースを見ても進展なさそうだ。みんな眠そうだからまずは寝て疲れをとらないか?」
「うん……恐いけど仕方ないよね。じゃあ案内してくるね」
疲れているだろうから自己紹介は明日にして、一旦解散しようということで女の子達は雫に任せて健と俺だけが部屋に残る。
この階の部屋はエレベーター側から三部屋は買い出しした荷物を放り込んでいるため、ここを除く後六部屋は使い放題だ。
ちなみに部屋はいつでも使えるように簡単な寝具やカーテンは配置しており、電気や水道代も大家持ちで即使えるため問題ない。
ガスは個人で契約が必要なので無理だが、この部屋なら熱いシャワーを使える。
冷蔵庫や洗濯機はないからここで使ってもらうしかない。
まぁそれもいつまで電気や水道が保つか分からないが。
「健も大変だったな」
「まぁね。勇真の言う通りになるとはなぁ」
テレビのぼんやりした明かりと小型照明の慣れない明るさで語り合う。
電気をつけてゾンビや他人に見つかるのはまずいため、買い置きしておいた分は雫たちにも渡してある。
「健が家に居ない時はちょっと覚悟したよ」
「家? 来たのか? 来るなと言ったのにさ」
「まだゾンビが少ないと思ったんだよ。あ、健の家少し壊したすまん」
「なに!? まぁいいさ、その代わり安全な場所に泊まらせてもらってるしな」
健がどこか不安げな様子だが、心当たりを思い出す。
「……親御さんのことか?」
「ん? そうだな……連絡は不可だし、ここまで帰る手段もないだろうな」
隣の県の病院――つまりニュースに映っていたあの病院に居た可能性が高い。
先に避難させられていれば無事だが、健も半ば覚悟しているようだ。
「こんなことになるなら俺も付いていくか、引き止めればよかったかもな」
「健……」
自分の責任であるかのように力なく笑い項垂れている。
かける言葉が中々見つからないが、こうなったのは結果論でしかない。
ある日突然ゾンビが溢れ出した! なんて歴史上にもないのだ。
天災と同じく起こる前に行動なんて人間には難しい。
「そうは言うが、俺だって映画やドラマの中だけでしか起こり得ないと思ってたんだぞ」
「半分馬鹿にしてて悪かったよ。まさか戦争より酷いことが急に起こるなんてな……」
「いや、俺も健に同じこと言われても急には信じきれなかったさ」
「でも、事前にくれた勇真の情報のおかげで美優や友達を救えたのは間違いない。ありがとな」
「お、おぅ」
お調子者キャラがいつになく真面目だから調子が狂うってもんだ。
「親のことはこれ以上は悔やんでも仕方がない。代わりに美優達が助かったと納得しておくさ」
「そうだな。健も無事でなによりだったよ。そういや思い出したが、なんでもラバーカップで戦ったんだって?」
上半身裸のずぶ濡れ健と合流した後、風邪を引かれては困るためすぐにシャワーを浴びさせ、その間に美優ちゃんからここまでの経緯を聞いていたのを思い出す。
「ん? そうだぜ救世武器だったぞ!」
「あんなのじゃダメージ与えられんだろう? 防ぐにしても傘をもう一本だな……」
「んでも、結構前に勇真がゾンビはかぶりつくって言ってたからよ。口封じれば勝ちじゃね?」
「どういう発想してんだか……」
結果助かっているんだから効果はあった、としか言えない。
しかし、威力もない武器で敵に近付きすぎるのは、欠点だらけで危険だろうよ。
俺なら絶対にしたくない。