3. 一人目
国の名前とか沢山出てきますが、現時点では覚える必要ありません。
ノリで書いただけなので。
より長方形に近い四国、みたいな形をイメージしています。
「人が多いでござる。怖いでござる。でもペナルティはもっと怖いでござる」
終焉の森から急ぎ脱出したカールは、飛翔魔法で海を越え山を越え、一年以上前に冒険者として住んでいた街、ヴァラレーに戻ってきた。
ちなみに飛翔魔法は短時間でMPを大量に使うため、大魔法使いでも三十秒が限度と言われている。
もちろん本人はそんなことは知らず、飛翔魔法が得意な人は自由自在に空を飛べるのだと勘違いしていた。
もしそうなら街にいたころ空を飛んでる人を見かけただろうに、何故そのことに気付かない。
ポンコツである。
ヴァラレーの街はアスルクローレ大陸の南東部に位置するヴォルス国の北部にある街。
アスルクローレ大陸は大きく五つの国で統治されている。
北西部:エヒヌ国、人間至上主義、コチュー国と仲が悪い
南西部:コチュー国、人間排他主義、人間を嫌っておりエヒヌ国と仲が悪い
北東部:カマレー国、文化を重視し、特に食の充実ぶりが有名
南東部:ヴォルス国、なんでもありの緩い風土
中心部:セイカ国、上記四国に隣接する円形の土地で、圧倒的な武力を保有しており、各国ににらみを利かせている
ヴォルス国とカマレー国の仲は良く、交流も盛んであるため、この二国の国境に近いヴァラレーはそこそこ活気のある広い街として機能している。
周辺に強敵が現れるようなダンジョンもなく、肥沃な大地に恵まれ、住みやすい街として人気が高い一方、冒険者にとっては自らの力を生かせる強敵がいないため、治安維持や薬草採取など安定志向の冒険者のたまり場となっている。
「(みんなに見られているような気がする。影でヒソヒソ言われてるこの感じ、あの村に居た時と同じ感じだ。何が悪いんだろう)」
大通りを歩くカールは、そう思って改めて自分の身なりを確認した。
森での生活は快適性重視の簡素なデザインの服装であったが、街に出るということで森で採れる素材を活用して冒険者風の服装を作ってきたのだ。
実際、周囲を歩く冒険者の男性と比べても傾向は似通った作りになっている。
身だしなみは整えてあるし、お風呂に毎日入っていたから清潔で体臭が酷いということもないはずだ。
一体何が原因で注目されているのかカールには分からなかった。
「(うう……もうやだよぅ。逃げたいよぅ。でもペナルティ嫌だよぅ)」
トラウマとも言えるペナルティ警告に強制的に後押しされ、カールは逃げ帰ることが出来なかった。
ちなみにカールは自分のことを普通の冒険者風に装えていると考えていたが、もちろんそんなことはなかった。
身につけている装備は素人目にも分かるくらいに一般的な冒険者の装備品とは質が違い、身だしなみも貴族以上に清潔に整えられている。
そして顔もややイケメンの部類に入るカールがキョドリながら往来を歩いている。
注目されないはずが無かった。
「お、カールじゃねーか。なんだよ生きてのか!」
「(……ふぇ、誰!?)」
突然名前を呼ばれて振り返ると、そこにはいかついおっさんの姿が。
トラウマが刺激され、体がビクゥっと反応して一歩後ずさりしたが、その顔には見覚えがありどうにか逃げ出さずに済んだ。
「おお、相変わらず人付き合いが苦手なんだな。わりぃわりぃ」
冒険者ギルドでいつもカールの対応をしてくれたおっさんだ。
カールとの距離感を理解している数少ない知り合いである。
ただし、もしここで馴れ馴れしく肩を抱いて来たならば、トラウマに怯えるカールは混乱して世界を滅ぼしていたかもしれない。
おっさん、世界を救う。
「生きていてくれて良かったわ。またこの街で冒険者やるなら俺んとこ来いよ」
ガハハと笑いながらおっさんはカールの元から去って行く。
トラウマが無ければ再会を喜べたかもしれないのにと、カールは少し残念に思った。
喜んだところで自分から話しかけることは絶対しないくせに。
「懐かしいな……」
たった一年、されど一年。
改めて街の中を見渡してみると、見覚えのある風景がそこかしこにあった。
新しい建物やお店もあるにはあったけれど、街の中心部のラインナップはまったく変わっていなかった。
それだけこの街が安定していて好まれているという証拠なのだろう。
「とりあえず宿を確保しないと」
もちろん独り言である。
ぼっち生活が長かったカールは思わず独り言を口にしてしまう。
これもまた街の人から奇異の目で見られる原因なのだが、カールがそのことに気付くはずもない。
馴染みの宿はまだあるだろうか。
さきほどのギルドのおっさんと同様にカールの性格を知っていてコミュニケーションがとりやすい貴重な人が働いているはずだ。
新しい人がいませんように、あの人が受付でありますように。
「おう、らっしゃい」
カールの願いが届いたのか、慣れ親しんだおっさんが受付にいた。
カール、知り合いはおっさんばかりである。
おっさんハーレムならすぐに完成するのではないだろうか。
そんなことをカールに言ったら世の中のおっさんを駆除しに旅立ちそうだが。
宿屋のおっさんはカールを一目見ると、目元を一瞬ピクリと反応させたが、それ以上に特別な会話をしてくることはなかった。
「何日だ?」
何日止まるのか。
数字で答えるだけだからコミュ障のカールでも簡単だ。
「(……三)」
指で三本。
小さい数字は口にしなくても良いから安心だ。
数字だろうが口にはしない。
だってコミュ障だもん。
「おう、値段は変わってねーよ」
カールはそもそも一日いくらだったか覚えてなかったけれど、このおっさんなら適当に出せばやってくれる。
少しぐらいちょろまかされても気にしない。
コミュニケーションがこれだけ楽なら全財産支払っても良いくらいだ。
「宿は確保したけれど金が切れそうだな。金を確保してくるか」
昔稼いだお金はほとんど残っていなかったため、所持金が非常に乏しい。
このままでは三日後に宿の更新をすることすらままならない。
終焉の森で手に入った素材を売れば簡単に大金持ちになるけれども、カールがそのような目立つことをするはずがない。
冒険者ギルド
街で出会ったおっさんが窓口対応してくれる。
しかも、壁に貼られたクエストの紙と素材をセットでカウンターの上に置けば、金が勝手に出てくる。
ポイントはレア素材やクエストに無い素材を持ち込まないことだ。
その場合価格交渉という難易度の高いシチュエーションに挑まなければならない。
とはいえ、急に大金が入用になることも考えられる。
その場合はおっさんのカウンターにレア素材を持ち込めば、こちらの意図を組んで何も言わずに換金してくれるのだ。
おっさん素敵。
やっぱりおっさんハーレムで良いんじゃない?
「(……あんまり良い素材クエストが残ってないな。タイミング悪かったかな)」
以前であれば1か月程度の生活費になる難易度のクエストが多かったが、今日はまったく見かけない。
仕方なく低難易度低報酬の薬草採取クエストを選び、街の外に採取に出かけた。
終焉の森には低レベルの薬草など生えていなかったので手持ちには無かったのだ。
勝手知ったる街の外、ささっと薬草採取してカールは小金を手に入れた。
薬草採取はそもそも生えている場所を探すことが難しい。
群生地が見つかってもクエストのたびにむしり取られてしまうからだ。
再度生えるのにある程度時間がかかるため、今現在どこの群生地に薬草が生え残っているかは、行って見なければ分からないのだ。
カールはスキルを活用して一瞬で生き残りの群生地を特定して移動したが、普通の冒険者であれば数日かけてクリアする難易度だ。
街に戻って小金を手に入れたのは良いものの、これから何をどうすれば良いのか分からない。
ハーレム候補となる女性の頭上にハートマークが表示されているらしいが、街を歩きながら女性を注視してえり好みするナンパ師のようなことをコミュ障ができるはずもない。
そもそも女性と目が合うだけでテンパってしまうのだ。
対象の女性を見つけたところで一体どうやって関係を持てと言うのか。
「(ぼっちカムバーーーック!)」
どうして職業ぼっちのレベルを最大にしてしまったのかと後悔しながらトボトボと街中を歩いていると、路地裏から諍いの声が聞こえてきた。
どうやら女性が男性に絡まれているようだ。
「(うわ、嫌な声聞いちまった……)」
自分には関係ないから、弱かったころのカールならばそう思って逃げていただろう。
だが、今のカールには力がある。
助けられるのに無視するのは、罪悪感がある。
助けた相手と話をするのも嫌だから、男をぶん殴った後にさっさとこの場を離れよう。
お礼と言って変に付きまとわれるなら最悪別の街に移動したってかまわない。
そう決意したカールは路地裏に入った。
男が壁越しに女を威圧している。
カールからは男の背中に隠れて女の姿は見えない。
男は武術に長けているようには全く見えず、特別強いスキルを持っているわけではないことが、カールの鑑定スキルで明らかだった。
よし、さっさと殴って終わりにしよう。
そう思ったカールは男の背に声をかけた。
「おひ、なはにお……!」
噛んだ。
というより、まったく呂律が回らなかった。
『おい、何をしているんだ!』
たったこれだけのセリフすらまともに言うことが出来ない。
あまりの恥ずかしさに顔が紅潮し、変なリズムでステップを踏み始め、キョドリはじめた。
「ああ?なんだてめぇ!」
そんなキョドリなんて素知らぬ顔で、男はカールの方を振り返り恫喝してきた。
「や、ややや、やめっ!」
声が詰まる、裏返る。
会話ではなく一方的に言葉を投げつければ良いだけなのに、それすらできない。
情けなくて恥ずかしい。
が、相手はあからさまな悪人。
漏れ聞こえた会話から、無理矢理女性を自分のパーティーに入れようと脅していたことは分かっている。
もういいやとカールは戦闘態勢に入った。
「はっ、俺様と殺る気か?俺様を誰だと思ってやがる。ヴァラレー最強、泣く子も黙るロアとは俺のことなんだぜ」
「は?」
思わず声が出てしまったが、実はこれが街に戻ってきたはじめてまともに相手の言葉に返した『会話』だった。
「(……こんな弱い奴が最強ってどんだけこの街の冒険者のレベル低いんだよ。それともホラ吹いてるだけか?)」
「ダメっ!逃げてっ!」
相変わらず男の体が邪魔で女性の姿は見えないが、声だけは聞こえてきて、カールの身を案じている。
ロアは実際にヴァラレーの街で最強の冒険者だった。
その力に溺れ、数多くの女に手を出し、街では乱暴を働く狼藉ものであるが、近隣のモンスター退治に役立っているため街人は文句を言うことが出来なかった。
チートなカールにはゴミでしかないが。
「(……まぁいいや、さっさと終わらせよう)」
「さあ、かかって来いよ。地獄に送ってうっ……!」
ロアの懐に潜り込みパンチを一撃。
それだけでロアは崩れ落ちた。
「(やっべ、やりすぎたか?殺してねーよな。モンスターとばかり戦ってたから加減が分からねーな)」
カールだけでなく、この世界では皆、悪人を殺すことへの抵抗は無いのだが、終焉の森での生活が当たり前だったカールにとって、街では力を抑えて扱わなえればいけないことに今さらながら気付いて焦っていた。
そんな内心焦っていたカールに、敢えて見ないようにしていた方向から声がかけられた。
「あの……ありがとうございました。お強いんですね」
意を決して声の元を見ると、柔和な顔立ち、全体的に程よい肉づき、腰まで伸びるストレートヘアー、大きくは無いけど小さくもない適度な大きさの胸、両手を前で組んでお嬢様かと思ってしまうくらい清楚な佇まい。
カールの好みにクリーンヒットなその女性の頭上には、大きなハートマークが浮かんでいた。
路地裏、助ける、テンプレ。
書いてみたかった~(主人公がアレなので格好つかないですが