3.初めての外出 正門前で
「このカードで僕はこの軍施設をいつでも抜け出せるんだ……」
ザクスは徴兵集合式の前日にベッドに横になり、配布された特権証を目の前に翳し、手で弄び、眺めながら呟く。
ザクスは懐疑的にそのカードを見ていた。
自分だけに渡された権利とその象徴であるカードと服。
明日はその服を纏い式典に出席しなければいけないらしい。
一平民と思っていた自分が、明日の式典で奴隷平民貴族王族を一纏めに整列させ扱う軍で特別扱いされることに軽い恐怖を受けているがその特典の一つが外出自由であるという。
しかし、考えても仕方がないことであることであるとそれほど遅くなる前に思考を切り上げ翌日に備えた。
式典を終え、数日後に講義や訓練の都合を付けて空いた時間がザクスにできる。
「よし、荷物の準備はよし、行くか」
ザクス一般兵の軍服を纏い、荷物を担ぎ軍施設の正門出入り口に向かう。
他の者達は訓練をしていたり、講義を受けたりしている。
訓練も、講義についても部隊ごとに時間が異なっており、ザクスは講義の免除があるため時折時間の空きができるようになっていた。
その時間の空きを使えばいろいろできるだろうと想像していた。
それで、ザクスは外出し、王都の市で購入するべきだと判断し、自分で調達しようと考えた。
ザクスは軍施設内の建物の立ち位置を確認しながら正門の方へ歩みを進める。
軍施設の大正門は閉じており、通用門があったが、その内側の門の側に小屋が立っていた。
その小屋の外、通用門側に守衛兵が立っていた。
「そこの者止まれ! 今日の軍人の出入りは無いはずだ。外出は認められない! 戻れ」
ザクスが正門に近づくのを見かけた守衛兵にザクスは呼び止められる。
「あ、あの、えーと」
ザクスはガタイの良い厳つい表情の衛兵の野太い声もあり、視覚聴覚からすぐに反応できず、声を出すがどもってしまう。
「なんだ! 何処の隊の者だ! 訓練や講義があるだろう! それに一般兵や新兵は施設外へ出ることは禁止されている。誰も出ることは許可されていない」
ザクスの怯むようすを見た守衛兵の男は脱走兵かと疑いをかけ、強い口調で再び注意をする。
「こ、これ、僕のなんですが、これで出れないですか?」
その怖い守衛兵の圧倒的な圧力にザクスは怯えながらも必死に持っていた特権証のカードを守衛に見せる。
「ん? なんだ? カードなどを見せやがって、軍隊証を渡してきても……まあ、なんか理由がありそうだから見てやるが……」
威圧してきてはいたが守衛は律儀にザクスの差し出した特権証を確認する。
「んん!? んんんん!? これは軍隊証じゃねーな。特権証か!? 今年現れた特権兵様ってのはお前さんのことかぁ」
特権証を確認するとザクスを検分するように怯えるザクスを上から下まで見る。
「特権兵様なら、通さないわけにはいかないな。しかし、新たな特権兵様は平民と聞いていたが、随分と弱腰だな。自分に自信がないのか。初めての外出位は特権兵の服を着て来いよ。脱走兵かと思っただろ。まあ、見慣れないうちから一般兵の服でここを通ろうとしたら今回みたいなことを繰り返すことになるから良いことではないな」
「は、はぁ」
横柄な様子でザクスに守衛兵の男は語り掛ける。
特権兵は軍施設からの外出は自由なので引き留める理由はないのだが、守衛兵は軍施設からの脱走兵は出さないように見張りをしなければいけないことを説明する。
その語りにザクスはあまり関心がないのか、怯えてしまっていて耳に入ってこないのか
中途半端な返事を返す。
「せめて誰が来て見怯まないくらいの元気だけでも出すべきだ。まぁ、今日は初めての外出ってところか。楽しんでくるといい」
気さくに助言をしてくる守衛兵の男だったが、ザクスにとっては初めての外出の洗礼を手痛く受けた感じになってしまう。
そして、守衛兵の男は最後にザクスに気合を入れるように通用門を通すと同時にザクスの背中を勢いよくはたく。
「痛っ!?」
大きな音と痛みがザクスの背中に響き、声を出した。
背中をさすりつつ、守衛兵の方に振り返ると、満面の笑顔で送り出してくれていたので、文句を言うことも言えず、痛みに耐えつつ、王都の街並みに向かって歩いていくのだった。