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1.貴族のお嬢様

今年は特権兵と呼ばれる特殊な新人の軍人がいるらしい。

徴兵集合式や軍での催しの時に軍の皆にアピールするかのように行動されていた。


大公令嬢のネリア・カルース・ジェイルステンダントと公爵令嬢のクローディア・アリス・フィリルローテンの特権兵に選ばれた人に対する認識はその程度のものだった。


彼女達が徴兵されて、その訓練が進んでいた時、予定の半年のカリキュラムを終えずに戦地に赴任することが言い渡された。


初めての戦地はドートロスと言う場所で、本来の日程より1か月早い赴任である。


彼女達の部隊は牽制軍には参加しなかったが、彼らが大敗を喫して帰ってきた時、野営地が騒然となって、慌しくしていたことを覚えている。


「私達も戦地に行って死んでしまうのかしら……」


クローディアが呟いた時、ネリアが言葉を返す。


「戦場は危険でも私達を守ってくれる人がここに居るからそんなに心配しなくても」


戦場での死に直面して怯え始めたクローディアを慰めるようにネリアが抱きしめる。


「私が守って見せます。ネリア様もクローディア様も」


ネリアの騎士のクロス・ブラム・ローレンガルドがさも当然であるかのように胸を張って宣言する。


「よろしくお願いしますね」


クローディアはクロスに守ってもらうような立場ではないがネリアと昔より仲が良いため、いつも一緒にいた。


クロスとも交友が深い。


そのため彼に頼ってしまうのは仕方のないことだった。


そのようなやり取りをしていた時、薬学講義を履修し、成績が良かった彼女達は特別召集を受ける。


「お嬢様達だけ召集を受けるとは。俺は立ち会えないのか?」


クロスは交渉してみたが受け入れられなかった。


「薬の調合をするだけのようですので、それほど危険はないようです。臭いは強いようなので臭いに対して何か準備しておいていただけますか?」


悔しがっているクロスにネリアは気を使い個人的な支援をお願いした。


こうして、彼女達の初の任務が薬の調合作業となった。


「この技術は素晴らしいですわね」


「こんな風に薬を作るなんて講義では学びませんでしたわ」


特権兵のザクスの個人指導を含めた指導に対し、ネリアとクローディアは感動により、ザクスについての認識が身近なものになる。


6日間の調合作業で技術が成長した彼女達もほぼ全軍の出陣で元の隊と共に出兵した。

しかし、その戦場はそれほど厳しくはなく、クロスに守られつつ、戦場をそれほど苦も無く生き残った。


王都に戻った彼女達を待ち受けていたのは止め処なく状態が変化する日々の連絡だった。


「クローディア、聞きました?」


「えぇ、私達は見事にザクス様に振られてしまったようですわね」


王都に戻った時、一番初めに彼女達に届いた連絡は彼女達自身がザクスへの褒賞の選択肢になることだった。


取り巻きの1人になる。


もしかしたらそのまま彼の妻になる可能性があると伝えられたのである。


彼女達はあくまでも貴族で自分達に結婚の相手を選択する権利はないことは知っていたが、婚約者候補の中から正式に決まるのは17歳の徴兵期間終了後だと聞かされていたので、このまま相手が決まってしまう可能性は寝耳に水だった。


しかし、その次の日、耳にしたのはその話がなくなったという一報である。


それによって、彼女達のプライドは傷つけられる。


「ネリア。行きます?」


「うん、ザクス様はいつ来てもいいとおっしゃっていましたから、今日から行きましょう」


2人は頷き合ってザクスの部屋への訪問を決意する。


彼女達は女性として、助手としてアピールしようと画策する。


クローディアは意欲的に彼の調合の部屋で真似て同じような薬を作ってみようとする。


……が、失敗する。


ネリアは上品で優雅にザクスに話しかけ、彼と親しくなれるようにアピールしてみる。


……しかし、関心を持ってもらえず失敗する。


「今日こそはあの薬の生成を成功させて見せます」


「いっぱい話しかけて私のこと気にしてもらえるようにして見せるわ」


3日目にもなると、やる気の空回りがクロスの眼にありありと見えるようになってきていたが、クローディアは薬の調合を、ネリアはザクスとの会話を頑張ろうと2人で決意し続けて行動する。


「お貴族様の道楽に付き合うつもりはないのでご遠慮願いたいです。明日は来ないでください」


3日目の帰りがけにネリアとクローディアの2人はザクスに訪問を拒否されてしまう。


「明日は……明日は来ないであげるよ」


「明日だけではなくて当分来ないでください。お願いします」


完全に取りつく島がないと2人は理解し、引き下がりザクスの部屋を出る。


「駄目でしたね」


「そうですわね」


ネリアとクローディアは落ち込んで2人の宿舎の部屋に帰り、呟いた。


「生成の成功喜んでくださったのに」


「打ち解けた感じでいっぱい話せたのに」


2人は目的は果たせたが、その結果がザクスと繋がらなかった。


「この失敗を次に生かそう。相手がザクス様になるか別の人になるかわからないけど」


「はい、私達は成長しました」


2人はザクスへのアプローチ失敗ではめげずに次に目を向け、行動を起こそうとする。


ザクスとのやり取りは彼女達にとって成長の一助でしかなかった。


次の目標を何にするか、何を楽しむか、彼女達の自由な時間はそれほど多くはない。


一時たりとも無駄はしまいと、意識を切り替えるのだった。


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ザコの僕には無理だと思うのですが
ザコの僕には無理だと思うのですが1章~サイドストーリ~
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