五話 灯子と会合と面倒事"All my affairs"
九時、異能力者の集まり"九重の家族"の会合が始まる。
議題を見守るだけの萩原灯子であったが、虎の件になると話が変わる。
虎の調査の面倒事。押し付けられたのは……。
九重の家族――――それは長である紅月家と八分家の血縁を指す言葉である。
九重の家族の歴史は平安時代後期にまで遡り、初代紅月家当主である紅月纏の命により、今に至るまでずっと人のため、世の為と会合を続けてきた。
時代が流れ歴史が移ろう中で紅月率いる九重の家族の権威は薄れ、会合は今や稲見村でひっそりと行われるだけだが、それでも続けられるのは伝統と言うだけではなく、それぞれ体に宿る異能力。神通力があればこそである。
灯子は九時になり、華蓮と用意した膳が並べた後、紅月の大座敷で始まった会合の様子をただ眺めていた。
灯子自身は当主としてではなく次期当主として参加しているだけであり、発言権はない。それに無理やり口をはさむほどの議題もないので、灯子は暇つぶしも兼ねて一人一人に目を向けることにした。
「次の議題だが、最近作物が動物に荒らされる被害が増えている。電気ネットなどを自費で張っている家が増えたが、効果は薄い。何か対策をしていただけないかと要望が来ている」
序列第一席"九炎"の紅月家。当主は、紅月和仁。
上座に座り、灯子ら分家の上に立つ、いわゆる本家の当主である。
艶やかな黒髪にシワのない端正な顔立ちは、四十の年齢を重ねたと思えないほど若く見える。静かに棘のない落ち着いた声は街にでも出ればモテるだろうなと灯子は思う。
しかし、紅月和仁は滅多に屋敷から外へ出ない。それは、鶯色の正絹着物の下に見える包帯と、滲む血の色が見えることが原因だろう。灯子が知る限りずっと昔から体中に血をにじませている。おそらく九重の家族たる象徴である異能力、神通力に関わると思われるが、その理由は教えてくれない。
灯子がじっと見てるのに気が付き、ふっと紅色の目がこちらに向いた。そして笑みをそっと浮かべる。大人の色気が漂ってきそうだ。実にエロい。と、灯子はそう思う。
「電気ネットなんぞ美月が山中の者どもにはなんも効かんわ。四つ足のもんはどれも頭のいい連中ばかりじゃ。無駄な金を使ったのぉ。はっ、アホらしい」
序列第二席"炎幻"の萩原家。当主は、萩原幻灯。
上座である紅月和仁から見て右側に座るくそったれハゲジジイもとい、萩原家当主。そして九重の家族の中では最年長の重鎮である。灯子はこの幻灯のすぐ後ろに座布団もなく正座して控えている。当然のように灯子の膳もない。当主と次期当主の扱いの差はかなり大きい。
九重の家族の序列は神通力の強さ順であるとされ、萩原家は他の分家よりも高い位に位置する。くそジジイ幻灯はそれを笠に着ているのか知らないが、発言をすればいちいち見下したり馬鹿にしたりする。灯子の嫌いな所である。
能力は火や炎を媒介にして生み出す幻。物理的に触れることや知覚した内容を共有できると言った凄まじい能力だ。そして、萩原の血筋の性質なのだろうか、この能力は必ず孫にしか発現しない。次期当主として灯子が選ばれているのはそのためだ。灯子としては面倒であることこの上ない。
「餌付けされていると山から下りてきちまうと聞きましたが、そういうことぁ無いんでしょうか。もしくは、山ん中の食料が減ったって言うことは?」
序列第三席"弔炎"の灰鳴家。当主は、灰鳴己。
萩原幻灯の向かい側。つまり灯子の正面に座り、皆が着物を着る中で唯一黒スーツに身を包んでいる元極道という男だ。
中学卒業を待たず裏社会に入るが、炎の血族としての神通力を発現し、紅月家の当主である紅月和仁によって足を洗うことになるというトンデモ人生の持ち主である。
歳は24。なんということか灯子の中学時代の同級生である。灯子としては同級生が既に灰鳴家の当主として自分より高い位置にいるということが面白くない。ただ、灯子の性格を一番理解しているので付き合いは楽という側面もある。
能力は九重の家族の火葬を担当していると聞いたのと、灰に関わる能力であること以外は知らない。己自身も軽く口にする者でもないと教えてはくれない。ま、なんにせよ灯子にとっての腐れ縁者である。
「いーじゃねぇーかほっとけよんなの、それでもっつーなら?降りてきたもの全部ぶっ殺せば?トラバサミとか毒団子とか山中にばらまいとけよ。金はあんだろ?んじゃ動物狩りの連中雇えば?ははは、いいね、毛皮とか売っちまおうぜぇ」
序列第四席"炉炎"の熨斗家。当主は、熨斗ム雲
物騒な物言い、気性の荒い性格、反平和主義者。萩原幻灯の隣に座るその男は、幻灯とはまた違った意味で灯子が嫌う人間である。
白いぼさぼさの髪に目の下の異様なクマ。着物の袖から見え隠れする手首には無数の注射痕が残る。今は更生したとは聞くがそれも定かではない。
ただ、当主としての才覚は相当なものらしく、灰鳴家が見つかるまで、つまり灰鳴己が能力を発現し、紅月和仁に見つけてもらうまで九重の家族の火葬を担当していたと聞く。空間を一つ炉に変えてしまうという能力だというが、熨斗家以外の人間が入れば焼け死んでしまうので、見た者はいないらしい。
こうして会合に出席するのも気まぐれで、警察から逃げるためにここにいると本人から冗談交じりに聞いたことがある。
「郷也兄ちゃんなら……自分がどうにかするって言ったかな」
序列第五席、"炎視"の火埜家。当主死亡により断絶。
灰鳴己の隣、灯子がつぶやくその席に座る者はいない。九重の家族の中で失われた血筋の一つである。
生きていれば三十二になるその彼は、模範的とは言えないけど、正義を追い求めた刑事だった。数年前に消息を絶ったあと、しばらくしてから死亡報告を聞かされた。
能力は様々なものをサーモグラフィーのように見ることができる能力。実際に物体を持つものから、幽霊とかいう非現実な超常現象すらも捕えることができる。
彼には子供も血縁もいなかったため、火埜家を存続させることができず断絶した。過去には憎んだこともあったが、今は謝ることができなかった灯子が兄と慕っていた男。最後の当主の名前は、火埜郷也。
「物騒だなム雲。やたらに殺生をするのは論外だ。脅しを込めての爆竹などは一時的には有効かもしれん。試してはどうだ」
序列第六席"蒼炎"の緋森家。当主、緋森華蓮
熨斗家の隣に座る蒼着物の女当主。灯子の剣術の師匠でもあり、刀鍛冶を趣味とする剣客。すらっとした横長の目には見惚れんばかりの蒼い瞳が宿っている。
紅月家の使用人の様な事をしながら、さらに紅月の裏手にある玖ヶ火神社の巫女をすると言う多彩な才覚を持っているところは灯子にしてみれば羨ましい限りだ。刃物マニアで熱中すると目の前で振り回すことが無ければだが。
能力は物体に蒼い炎を宿すこと。蒼い炎を宿した物体は通常よりも強い衝撃を発したり、刃物に付与すれば切れ味が増す。簡単に言うと攻撃力が上昇する。
時代が時代なら女抜刀斎として名を馳せたのに。と言うのがたまに聞く華蓮の愚痴であり、それが逃げた華蓮の娘、緋森家次期当主である緋森哀華の悩みであると、灯子はうんざりしながら聞いた覚えがある。
「と、虎の話はしなくていいんでしょうか?秋的にはそっちをどうにかした方が……ああ、いえ、本当にいたらって話ですけど」
序列第七席"仏炎"の祠堂家。当主、祠堂秋
火埜家の席の隣に座るのが、灯子が着付けを手伝った九重の家族最年少のツインテール当主。卒業間近の小学六年生。
先代であり秋の母である祠堂秋火が事故で(紅月和仁の息子、紅月陸がやったのでは?という疑惑もあるが)亡くなってから、すぐに当主になり会合に出なければいけなくなった。
祠堂家の能力は必ず女性にのみ発現し、数珠や独鈷杵といった様々な道具を使うようだが、急な世代交代もあり、祠堂秋が使えるのは母親の形見で譲り受けた紅の宝石のみ。その宝石から炎の魔人を呼び出して使役するだけのようだ。
父親も母親と同じ事故で亡くなっており、今は兄と二人暮らし。こうやって会合があるたびに呼ばれるので稲見村には泊りがけとなる。大変な事この上ない。
「そうそう。僕も気にはなっていたんだ。虎の話。それが本当なら秋ちゃんの言う通り先に議論すべき話だと思うよ。まぁ僕としては、僕自身が調べるのは遠慮したいけど。虎は、うん。怖いしね」
序列第八席"動炎"の西部家。当主、西部志里
緋森家の隣に座るのは、灯子曰く本の虫である男性当主。蔵であったときの様なぼさぼさ頭は何とかしたようだが、時間が経つにつれはねっ毛が出てきている。普段の無精は癖になるようだ。
探偵と言う特殊な職業をしているがフィールドワークは得意ではなく、自称安楽椅子探偵を名乗っている。解決したところは一度たりとも見たことない。
能力は他の九重の家族の神通力のように、自分で作り出すことはできないが、火や炎を自在に操ることができるというのが特徴だ。それも操る際には動物の形を取るといったユニークなもの。
現在、紅月家の当主、紅月和仁の命で日本全国の炎の神通力を持つ人間の調査をしている。ちょっと前に見つかった火渡とか言う一族は……まぁそれは置いておく。
「虎ね……こういう手合い、穂積さんは好きそうよね?」
序列第九席"爆炎"の穂積家。当主死亡により断絶。
生きていれば御年六十一。灯子の祖父である萩原幻灯の次の年長者であった男性当主。火埜の席と同じく膳はあるが、そこに座る人間はもういない。
火埜家の当主だった火埜郷也の先輩刑事であり、正義感の強い優しい人であったが、紅月家の次期当主、いや元次期当主だった紅月陸が反乱を起こし、その事件に巻き込まれ死亡した。
能力は自身の血を付着させた物が衝撃を受けると爆発するというもの。血の量によって爆発の威力が変わるが、多用できないところがネックだと笑っていたのを思い出す。
最後の当主は、穂積重三。蔵に納められた大量の古書は、彼の遺品であり、今なお世話になっている灯子の良き相談役だった人。
「はあぁあああ?虎ぁ?んなもん居るのかよ。なんだよ、まじやべぇじゃんかよ。なあ和仁さんよ。虎ってマジなのかよ?」
熨斗家当主、熨斗ム雲の急な大声に灯子は意識をそっちに向ける。ム雲は面白いとばかりに身を乗り出して、長であり議長となっている紅月和仁に食いついた。
「虎がマジなら、毛皮とか高く売れるんじゃねぇーの?いや、そのまま売っちまった方が早いか?ん?どうなんだよ和仁さんよ」
「真偽は定かではない。それに、はっきりと姿を見たという者もまだいないので、調査依頼が来たというところだ」
「噂程度かよ。どこに出たんだ?教えろよ」
「美月山だ。日暮れに大きな四つ足の影とわずかに縞模様が見えたと聞いている。なんとなくだが虎ではないかとな」
「あんだよ。まだわかんねーのかよ。調査って?誰が頑張んの?」
オレはやらねーぞとばかりに言葉を出すム雲は、その場でふんぞり返って他の当主を見渡した。お金でも積まない限りム雲は何が何でも絶対に動かない。彼の中に無料奉仕の概念は微塵の欠片も存在しない。それは付き合いの長い当主ならだれでも理解している。
ちなみに本家の当主、紅月和仁は屋敷から出られない体なので自動的に候補から外れる。残るは、萩原家、灰鳴家、緋森家、祠堂家、西部家の中からと言うことになる。
あ、なんだか嫌な予感がするぞ?と感じたのはこの辺りからだが、当主でもない灯子が発言すると幻灯にこっぴどく怒られるので黙っているしかない。ええと、一応立候補してくれる人はいるんだけど。と、灯子は横目で虎の話が出てからウズウズしている緋森華蓮を見た。チラリ。
「ほかにいないのか?では、うむっ。では、私がその役目」
「却下じゃ!調査に佩刀して嬉々とする馬鹿をうろつかせるわけにはいかん。どうせ虎と聞いて、試し切りの一環ととでも思ってだろうに。殺生がどうのこうのとは自分にまず言い聞かせい!」
「うっ、うう……」
幻灯がぴしゃりと華蓮の立候補を容赦なく叩き落とした。いやぁジジイの発言はいつも癪に障るが、言ってることは別におかしくないんだよなぁ。華蓮さんには悪いが。横目で肩を下げる華蓮を見て灯子はそう思う。
「ふん。こういう手合いは若輩者にでも押し付けるべきだろうな」
げ、まさかだけど、矛先がこっち来そうな予感が。ちょっとやめてくれないかなぁ。と幻灯の後ろで思う灯子。
「では、祠堂のにでもやらせればよいわ」
「ええっ!?秋ですか!?虎ですか!?」
いや、そっち行ったか。と思う灯子。ほっとするも、待てよ?虎が本当にいたら秋ちゃんだとまずくないか?とも思う灯子。発言できない!秋ちゃんをヘルプ!と目線を西部志里に送り、どうにかしろと思う灯子。え?僕ぅ?と志里は反応した。
「えっと、あのー、幻灯当主?」
「なんじゃ」
「流石に虎が本当にいたら秋ちゃんでははまずいでしょう。彼女は当主になって日が浅い。ここはもっと能力に長けた人がやるべきだと思いますよ。幻灯当主」
「では、西部の。貴様がやるか?」
「あ、いや、それは。ほら、僕は火や炎は生み出せないから、虎相手だと一般人と大差ないというか、なんというか」
「では祠堂のが適任であろう。火も生み出せん本しか読めん男に何ぞ頼めんわな。序列下位が出しゃばるな馬鹿めが」
「事実ではあるけど……じゃ、じゃあ己君はどうかな?」
「馬鹿者め。己にはわしから別の役割を言い渡しておる」
「あ、そうなの?」
言葉数が少ない己に向けて志里が視線を向けると、己は一言「すまねぇ」と軽く頭を下げた。既に己は候補から外れているらしい。それにしても己の別の役割ってなんだろうか。ジジイにいいように使われて無きゃいいけど。と灯子は小さく嘆息する。
「ええと、じゃあ。秋ちゃんが……」
「あ、秋で勤まるでしょうか……?えぇと、虎って人、襲いませんよね?ってことはないですよね?襲っちゃいます……よね?」
「まぁ食われても良かろう。噂の真偽のほどがわかるというものだ。それに虎一匹どうにもできんようでは血族の席に座る資格も無い」
「あ、いやちょっと待って幻灯当主。やっぱり秋ちゃんじゃ」
「では西部の。誰ができると言う?」
「げ、幻灯当主自らは?」
「ほほぉ、老人に山歩きせよと言うか若造が。虐待もいいところじゃのぉ」
「え、あ、いや、そういう意味じゃ」
言い返せない西部の旦那弱いっ。ジジイなら遭難したって飄々と帰ってくるからもうちょい頑張って反論してくれぇーと灯子は心の中で応援する。ついでにこっちに矛先向くなーとも心の中で思う。が、そんな灯子の心の頑張りがいつの間にか体に出ていたらしく、ソワソワと視線を送っていたのがとある人にバレる。
「では、灯子。君はどう思う?」
突然の呼び声にびくりと肩を上げる灯子。声を掛けたのは紅月和仁だった。しまった!と思いながら上座を見ると、柔らかな笑みと紅色の奇麗な瞳が灯子へと向けられている。
「先ほどから虎の噂に興味がありそうに見えたが」
「えっとまぁその……」
「一つ、話を聞かせてくれないか?」
本来、次期当主として居るだけなので灯子に発言権はない。しかし、本家当主直々に発言権を頂いたとなると発言しないわけにはいかなくなる。当然目立つ。つまり、みんなが灯子と言う存在に気が付く。厄介事の押し付け合いには格好の的であるということだ。
ほかの当主たちも灯子の言葉を待つ姿勢になり、これはもうだめかなーと心の中で半分諦めの様なものが生まれる。
「……では、紅月当主。虎と思わしきものを見たというのはいつ頃の話でしょうか?」
「三人いるのだが、最初は先月の二十八日から。それから一週間おきに目撃があったと聞いている。最初は気のせいだと思ったらしいが、他の人も見たということもあり、私に話が上がってきたというのが事の経緯だ」
「えっと、その、最初の二十八日は、雨でしたよね?」
「そう言えばそうだな。小雨が降っていたはずだ。何か心当たりでも?」
「まぁ、その、ですね」
あると言えばある。と言えないのが面倒事を押し付けられたくない灯子の最後の悪あがきだった。が、灯子の言葉を聞いて気が付いたのは、己だった。
「そう言えば灯子。お前、なにか気が付いていたな?確か喫茶で……"全部揃っているなら炎の血族側"だとかなんとか」
アホぉおおお!余計なこと言うな己ぇえええ!と心の中で叫ぶ灯子。が二十八日の事を口に出てしまった。流石に取り返しは付かない。
紅月和仁は顎に手を当てると、ほぉ、と感心した。流石に己の発言が決め手だ。もう矛先は変えられない。あとは外堀が勝手に埋まっていく。いや、埋めたい奴が埋めていく。
「そういば灯子。貴様は美月山に詳しかったな。ふふん、不遜な孫と言えどたまには役に立つこともあろうなぁ。たまには役に立つがいい」
「あ、ジジイ、じゃなかった幻灯当主、それはちょっと」
「そうだね。灯子ちゃんなら実力には問題ないよね」
「西部の旦那っ!?」
「ふむ。弟子のお手並み拝見といかせてもらおう。私は実に残念だがな」
「華蓮さん、なんか残念そうじゃない!」
「あのですね、灯子お姉ちゃん。頑張ってください」
「秋ちゃーん」
「ふん、初めから灯子でよかったってことか」
「己てめぇ!」
「俺にばかり牙をむくな」
「覚えてろよ己え!」
灯子を除けば、当主一同全会一致のようなものである(いつのまにかム雲は膳をもって部屋に戻った)。既に反論は意味をなさず。外堀は埋まり、面倒事を避けたい灯子の城は落城寸前。逃げ道無しの王手と相成った。
「当主一同は萩原灯子に期待を向けているが、どうする?」
最後に紅月和仁が確認を行う。どうするとは言うが、ここで反論できるような理由もないし、無駄に嫌だと言ったところで強制的に決まるだろう。ここは潔さのほうが私らしいか。と灯子は観念し、幻灯の後ろから紅月和仁の真正面の客座へと出て座り、指をついた。上げた顔にはすぱっと気持ちを切り替えた凛々しい顔。
「当主一同これ全会一致とあらば、萩原家が次期当主。萩原灯子が虎の話の件、お引き受けいたします」
「では、虎の噂の件。灯子に一任する。よろしく頼む」
「やるとならば全力で。遺憾なく、淀みなく、問題なく進めてまいります」
面倒だと思いながらも引き受けることになった虎の件。正直なところ灯子はどこかで自分が調査することになるだろうなと思っていた所があった。そして、それが実際に本当になると、今日の出来事全てがお膳立てされているようにも思える。
口癖とともに頭を下げる灯子。誰も見えないその顔に、"この件、どこまでつながってやがる?"という不敵な笑みが浮かんでいた。
お読みくださりありがとうございます。