その9
狩りに赴く道中とは思えないほどのんびりとした雰囲気の中2人は森の奥へと歩を進める。
村の中は日向が多く、夏の日差しが辛かったが、森に入ると木々の中を通り抜けていく風がとても気持ちいい。
まるで近所を散歩している様な気分なと思いながら、まったりとお喋りをしている内に、ミールがハンターギルドの受付嬢だと言う事が判明した。
道理で、受付が開いていない訳だと納得しながら、チコリはギルドの受付嬢がこんな風に出歩いて大丈夫なのかと不安になってしまう。
チコリが知っているギルドの受付嬢と言うのは、多少の休憩時間はあるにしても、営業時間中にこんな形でギルドから離れる事はなかったのだ。
「小さな村ですので、ハンターさんが滞在していない事も良く有るの。それに、本業が別にあるから基本的には最低限の時間帯……朝一番と夕方にだけ営業して居るの。」
「……そういうものなんですか。」
「他の村の人は、女将さんを始めとして朝と夕方は忙しいから、普段は暇人の私のお仕事なんだけど……。営業時間内に外からハンターさんが来た場合には、女将さんが対応してくれるから大丈夫なのよ。」
ふふふ。
と笑いながらそう語るミールに、チコリは首を傾げる。
ヴァーヴ・ヴィリエの規模を考えると、『普段は暇人』等と言っていられる様な村人が要るとは思えないのだ。
疑問がそのまま顔に出ていたのか、彼女は悪戯っぽい笑みを浮かべながら自分の生業を口にした。
「私の本業は、この村の魔飾師。」
「え。」
彼女の生業だと言う魔飾師は、陸人の中でも魔力に恵まれた人間にしか就く事の出来ない職だ。
ある程度大きな都市にならともかく、どの村にも1人位はいる療養師よりも稀少だと言わており、ヴァーヴ・ヴィリエ程度の規模の村になど普通に考えるならば居る訳がない。
ちなみに、魔力に恵まれた森人や山人と違い、魔力が殆どない者の多い陸人が魔法を使う為に発達したと言われるのが『魔飾』である。
それは、魔力が少ない者でも特定の魔法の力を行使する事が出来るように、魔力の結晶である輝石を用いて作られた道具だ。
ソレが魔飾と呼ばれているのは、魔法の術式を象った品がどれをとっても芸術的と言ってもよい美しさを備えているからだと言われている。
そして、それを作る事が出来るのが『魔飾師』だ。
魔力に秀でた山人も、山人程ではないものの魔力が多い森人も、陸人達と違って生活を便利にする為の必需品としての魔飾を基本的には必要としない。
魔飾を用いなくても、魔法で十分に代用が利くからだ。
それでも、逆に魔飾だからこそ行使が可能となる魔法も有り、その為どの種族にも重宝がられるのが魔飾師と言う職業になる。
この職への適性が現れるのは陸人のみであるというのは、きっとこの世界の神が、故意にそうしたのだろうと言うのが定説だった。
そんな稀少な職業に従事する者が、ヴァーヴ・ヴィリエ程度の――と言うと怒られそうだが――規模の村で生活していると言うのは、ちょっと信じ難い。
「ヴァーヴ・ヴィリエと言う村は、少し特殊なの。」
驚き戸惑うチコリの心を読んだかのように、彼女は苦笑を浮かべた。
「ほら、ここは大きな森と、この大陸一と言われるデュパール山脈のふもとにあるでしょう?」
「え? ……ああ、確かに。」
チコリは、自信の記憶の中にある地図を思い浮かべながら、半ば上の空で答える。
言われてみると、ヴァーヴ・ヴィリエは確かにデュパール山脈のふもとに広がるクレティエ大森林の中にある。
良く考えて見たら、森林の中にある平地は普通なら森人の集落であるべきなのに。
山人は山で。
森人は森で。
陸人はそれ以外の土地で暮らすと言うのがこの世界での不文律と言うものだ。
「ヴァーヴ・ヴィリエは、ベルトラム王国とデュパール山王国との盟約によってクレティエの里長から分け与えられた土地なの。」
「……何の為に?」
「それがね……。わざわざ山を降りたり森を抜けたりして、陸人の町まで魔飾を注文しに行くのは面倒なんですって。」
クスクス笑いながら、可笑しいくて仕方が無さそうにそう口にするミールに何か一言返そうと、チコリは口を開けかけて、もう一度閉じ直す。
「だから私の主なお客様は、山人さんと森人さん達。それから村の生活用品系の魔飾作成と、その整備。たまーに、チコリさんみたいな悩みをもったハンターさんの相談に乗る事もあるの。」
「それは……私専用の魔飾を作る的な方向で……?」
「多分、作る事になると思うわ。」
何と恐れ多い……!
専用の魔飾を纏うなど、一流と呼ばれているハンターでも中々いないのに……!
自分の様な、落ちこぼれがそんなものを手にするなんてありえない。
「大丈夫。多分ね、本当に些細なことが原因で、貴女の力が発揮できていないだけだから。」
チコリは、優しく微笑む彼女を見詰めながら、いつの間にかカラカラになっている喉を湿らせる為に無理矢理唾を飲み込んだ。
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