その12
前日はクレティエの森育ちで、ここ数日の間はヴァーヴ・ヴィリエ周辺で採集作業に勤しんでいたと言う猫人族の姉弟の案内で進んできたのだが、野営場所から1時間も歩くと日帰りできる範囲を超えたらしい。
「僕たちが歩き回ってたのはここまでです。」
と言う報告と共に弟の方のクレソンが立ち止まり、セージに今後の指示を請う。
その姿に、集団で行動する場合は一人で決めずにリーダーに従う、といった事は里の大人に叩き込まれたのだと、昨日の夜番の時に本人が口にしていたのを思い出す。
――年の割にしっかりしてるわね。
自分が、彼と同じ年齢だったころはどうだったかな。
なんて考えて、慌てて心の中で『老人か?!』と自身にツッコミをいれる。
まだ、22歳。
それなりに若いと言っていい筈だ。
「ここからは、採集できそうなものも増えてくると思います。」
「なら、採集をしながら進むことにしよう。」
クレソンは、セージとはどうも波長が合うらしい。
ステビアだけでなく、ディオンスやジャニー相手にも一線を引いた対応をするのに、セージに対してはそういったものがないようにみえる。
ステビアも一時的にとはいえ行動を共にする相手とは仲良くなりたい。
だから、なんだか疎外感を感じてしまってそれがちょっぴり淋しい。
「木に絡みついてるツタの中でもコレは、地下茎が食用になるんですよ。」
「へぇ~! どこにでもあるモノなのかな?」
「この森ではそうですけど、他の地域だとどうでしょう?」
「ウチのあたりにもあるといいんだけどなぁ……。」
セージが、道中で分かりやすい採集素材を教えてくれるように頼んでくれたのもあって、クレソンは見分けやすいモノを発見すると教えてくれる。
意外とその数が多くてバカにならない。
採集を行う時間の分、移動速度は落ちるのだが、森の恵みともいえるそれらの採集素材は大きな町では結構いい値段になる。
なんのかんので、昨日の移動中に採集出来た分だけでも転送袋のレンタル代位は十分に稼げているだろう。
それに、狩る事の出来た獲物の分が加算されるのだ。
採集家を名乗る森人や獣人が、中堅パーティで引っ張りだこな理由が、やっと腑に落ちた。
それから、セージがたまに口にする『知識は財産』と言う言葉も。
――やっぱり、知らないって損なのね。
そんな風にあっさりと納得してしまうのは、この十年の間に幾度となくそう思わざるを得ない経験を重ねたせいだろう。
実際、セージがいなかったらアレコレ騙されて酷い目にあっていた自信もあるから、モノを知らないという事を認めるのに抵抗感はあまりない。
むしろ、それを認めないことによって生じるリスクの方が怖いくらいだ。
そういった考え方はステビアだけでなくジャニー達も同じ事で、教えて貰えることがあるならば喜んで教えて貰う。
今もジャニーとディオンスの二人は、熱心にクレソンから植物の見分け方や採集の仕方のレクチャーを受けている。
二人は今回の狩りの後、故郷の村に戻ると言っていたからこの知識が役に立つとは限らないが、少しでもその知識が活かせると良いなと思いながら、ステビアは周囲の警戒を続けた。




