その9
ルッコラとジャニーはエスケープラビットを三羽仕留めて持ち帰ってきたので、そのうちの一羽はその晩の夕食として捌いて、夕食の一品として追加されることになった。
エスケープラビットは後ろ足が発達している。
一羽分のもも肉を串焼きにすれば、夕飯に追加する一品としては十分だ。
残った部分は翌朝食べれるように下拵えをして、夜の間中絶やさぬ火に掛けておけば朝食まで豪華になるだろう。
薪にするために拾った枝の中から手ごろな太さのモノを選んで、即席の串を作りながらディオンスとステビアは嬉しそうだ。
前衛職で、重い荷物を率先して担当している二人は元々が良く食べる。
十分な量の食料を持ってきてはいるが、それでもおかずの品数が増えるのは大歓迎だった。
「なんかねぇ~、近くに巣があったみたい。」
「でも、好戦的な魔獣は近くにはいなそうだね。」
「それは助かるな。」
せっせとウサギの解体を進めながら、ジャニーとルッコラが周囲の状況を報告する。
「『空壁』で匂いが漏れ辛いようにしてあっても、狼系は来るかもしれないから見張りは必要だけどねー。」
「そこは仕方がないだろう。」
クレソン達がテントを張る場所の用意をしている間に、セージとステビアが行っていたのは、その『空壁』という魔飾を設置して稼働させることだったらしい。
その魔飾は四つ一組で初めて機能するもので、設置された場所同士を直線で繋ぐようにして、空気の壁を作る物なのだそうだ。
それを設置することで、煮炊きなどを行っても魔獣が寄って来辛くするのだと聞き、ルッコラもクレソンも感心しきりだった。
里の大人と遠出をした時にはそんな便利なモノはなかったから、干した果物や干し肉。
そうでなければもいだばかりの果物と言ったものしか口にできなかった。
その時には、やはり暖かい食べ物が欲しいと思ったものである。
魔法でも同じようなことが出来ない訳ではないが、その壁を作っている間中ずっと魔力を消費し続けることになるから負担の方が大きいし、ある程度は集中し続けないと維持も難しい。
設置したら半永久的に術を維持してくれる魔飾は、便利な反面、使いようによっては怖いなと言うのがクレソンの感想だ。
「便利なモノと言うのは、大概、良い事と悪い事が組み合わさっている物だから。」
そんな彼の考えはセージには筒抜けで、やんわりと諭されてしまったのだけど。
クレソンは、自分の気持ちを表情に出さないのは得意だが、尻尾は正直なのだ。
今も、不思議そうに彼の二本の尻尾は先端で輪を描いているものだから、セージは笑わないようにするのが大変だった。
ちなみに今、ルッコラの目は、鮮やかなナイフ捌きで解体しているジャニーの手元にくぎ付けになっている。
きちんと解体が終わった獲物の方が買取価格が高くなると聞いたものだから、彼女はあわよくばそのやり方を盗んでやろうと思っているらしい。
内心の野望がダダ洩れのその視線を向けるルッコラに、ジャニーは機嫌よく声をかける。
「教えてあげるからやってみる?」
「本当?! ありがと~!」
その言葉に、ルッコラは大喜びだ。
早速、ジャニーの指示に従って作業を始める。
見ているときには簡単そうに見えるのに、やってみると思いのほか難しい。
夕飯に供する予定の一羽の解体をやらせてもらったものの、皮はあちこち傷つけてしまうし、骨から外すのも苦戦した。
何度もナイフを入れたせいで、なんだかルッコラが解体したウサギの肉はささくれ立っている。
「ジャニーのやったのはきれいなのになぁ……。」
「こういうのは、回数を重ねないとなぁ。」
「そうそう。また、夕飯に回せるようなの狩って明日もやってみよ?」
「うん。明日はもっと上手くやる!」
自分の解体したものと、ジャニーが解体したものを見比べて肩を落とすルッコラの頭をディオンスが慰めの言葉を掛けながらかき回す。
折角セットしたルッコラの髪をぐしゃぐしゃにされたと目を尖らせるクレソンに彼は気づかない。
本人はそんな事を欠片も気にしていないのだから仕方がないところかもしれないが。
なにはともあれ、次の機会を約束しても得たルッコラは、満面に笑みを浮かべてジャニーに抱き着いた。




