その8
ディオンスが一人淋しく食事の用意をしているのを尻目に、クレソン達三人は今日の道中で採集した植物や、狩った獲物を仕分けながら転送袋に入れる順番を決める。
クレソンは採った端から放り込んでいけばいいものなのかと思っていたのだが、そういう訳にもいかないらしい。
転送袋の先はただの倉庫――と言うと少し語弊があるが――になっており、送る順番を間違えると全てを廃棄する羽目になる事もあるのだとか。
「実際にはただの倉庫、と言う訳でもないんだ。」
「?」
「魔飾が施された倉庫だから、『状態維持』と『空間拡張』が施されてる。」
また、聞きなれない言葉が出てきたと、クレソンの尻尾が楽し気に揺らめく。
セージはそれを、今の話に興味がある証拠だと目を細めて話を続ける。
「ただ、この『状態維持』と言うのは鮮度を保つ事は出来るけど……」
途中で言葉を途切れさせると、クレソンは彼の目を一瞬見詰めると、その目に期待の色を見つけた。
答えは分かるだろうと言わんばかりの瞳の輝きに、期待に応えようと続くに違いない言葉を探す。
「……形状維持が出来る訳じゃない、という事ですか?」
「ご名答。」
クレソンの出した答えに、セージは彼の頭をクシャリと撫でる。
セージのその行動は、クレソンにとってちょっぴりくすぐったい様な誇らしい様な気安い行動で、思わず目を細めてしまった彼の様子にステビアがクスクスと笑う。
「なんだか、年の離れた兄弟みたいね。」
「いいね、弟。家では一番年下だったから、弟は欲しかったんだ。」
「僕とルーは逆に、一番上だったからお兄さんとかお姉さんが欲しかったですね。特に物知りなお兄さんだったら言う事がなかったです。」
それぞれに休みなく手を動かしながら話していると、一人孤独に食事の用意を続けているディオンスから僻みっぽい言葉が聞こえてくる。
「ズルい、セージとステビアの二人で若い子を独占して!」
「火の側で仕分けをすると、鮮度が落ちるんだから我慢しろ。」
「もうすぐ、ジャニー達も戻ってくるわよ。」
「でも、淋しい!!」
道中でも口数の多かった彼は、一人で黙々と作業をするのは苦手らしい。
仕方ないなと眉を下げながら返しながらも、二人の目は笑っていて、それがいつもの事なのだと想像がついた。
――なんだか、仲間と言うより家族みたい。
そう考えると、セージお父さんとステビアお母さんと言う図式が浮かび、思わず口元が緩む。
――セージさんが父親役と言うのは、中々絶妙な配役かも。
ディオンスさんはさしずめ、出来の悪いお兄ちゃん。
ジャニーさんは口うるさい妹と言う配役だろうか?
ステビアさんの場合は母親役にするには、彼女はいささか若すぎるけど。
「せめて、会話には混ぜて?」
「はいはい。ディオンスは仕方ないわねぇ……。」
「もう結婚もしたんだから、そろそろ落ち着きを身につけないとな。」
「すぐには無理だって!」
話しながらでも、セージ達の仕分けの手は止まらない。
むしろ、今は聞くのに徹しているクレソンの方が遅いくらいだ。
転送袋に入れる前に、採集物の状態毎に仕分けしてある方が買取価格が良いという話を聞いたから、細かく分けているのも一因ではあるが、それだけでもないのだろう。
こういった作業にもやはり、慣れと言うのは出るものらしい。
仕分けが終わると、その辺のつる草を使って簡易的な籠をいくつか作る。
小さな実などは、こうやって作った籠に入れて大きめの葉などで蓋をした方がいいらしい。
短期の遠征ならば大量の布袋を持ち込むところだが、今回の様に長い時間を過ごす場合は現地で利用できる物を使うのだと教えられ、クレソンは成程と納得する。
大きな葉で包んでつる草で結ぶ方法でも良いと聞き、数の少ないものはその形で纏めていく。
「しょっちゅうある訳ではないんだけど、たまに、中身をちょろまかすのが居るのよ。」
と言うのが、こうやってきちんと小分けにする理由だ。
手に握り込める程度の大きさのものなどは特にそういった事が起こりやすいと聞かされ、そういったものを扱う頻度が高くなりがちなクレソンはその助言を有難く心に刻む。
こういった助言をくれるという事は、実際にその被害にあった事があるのだろう。
つくづく、先駆者と行動を共にする機会が持てた事に感謝する。
今日の成果を全て転送袋に入れ終わる頃には、大分日も傾いて、二つの月が空に昇りだしていた。